追いかけっこ


「午後の授業も校庭でするよ!時間になったら校庭で集合っ!」


午前授業に続いて午後の授業もサヤ主導で行うことになった。後輩たちより一足早く校庭に出たボクたちは校舎寄りに植わっている木の幹にもたれかかりながら雑談中である。


「そういや、今日の六限目にするっていってた【夜空盤戯】の説明ってどうするんだろうね。明日?」

「言うなセラ。思い出させるな」


木の枝に頭の後ろで腕を組んで寝そべっているカイがぼんやりと言うのにボクも相槌を打つ。


「そーだそーだ。どうせ真面目にしないんだしさー。」

「お、それはそれでどうなの?」

「でもそれなら去年のセラも真面目にしてたとは言えないなーっ」

「今年はセラ一人で星空の相手する?楽勝だと思うけど。後輩たちもいるし」

「嫌だよ魔力の無駄使いだもん。あと去年は仕方ない」

「後輩らに任せときゃいいじゃん……オレは隠居を決め込んどくからよ」


期の根元で座り込んでうつらうつらしているサヤが死んだ目を頭上のカイに向ける。


「後輩ちゃんたちに丸投げとかよくなんだー…」

「やかましい」

「てかサヤ寝そう?」

「お昼だし風もあるから眠たいのかな。」


お子様だねぇ、と半分閉じている目で呟く。人のこと言えないかもしれない。うん、眠い。


四人でうつらうつらしているとぽんぽんと肩をたたかれた。魔力で誰かはわかっているので顔をあげずに返事だけする。


「はーい、どうしたのリィ。」

「お休みになられているところすみません。その、昼休憩あと五分です。一年は全員校庭に出ていますのでご用意ができたらお越しください」

「かたいなぁ、ボクとリィの仲じゃん。ノアノンぐらい緩くていいんだよ?」


顔をあげて指摘すると、リィは難問を出されたように難しそうな顔をする。そんなに?


「あの二人は緩すぎなんです。……せ、先輩、みんなあっちでいるので用意ができたらきてください」

「上出来。」


ぐっと親指を立てると、リィが崩れ落ちた。「先輩にこんな砕けた話し方をするなんて…後輩失格です…」そりゃいつもに比べれば多少砕けた話し方だったとは思うけどそんなにか…?


リィの生真面目すぎる性格に、隣でサヤが笑う気配。そこまで先輩後輩だからってかしこまらなくてもいいのにねぇ。


「カイを叩き起こしたら行くよ。伝えに来てくれてありがとう。」

「起きてるわボケ」

「ぃいえっ、礼を言われるほどのことではありませんので!お気になさらないでください!」


頭上からの突っ込みとぶんぶんと両手を顔の前で振って縮こまる後輩にひらひらと手を振っておく。リィが駆け足で一年生の輪に戻っていくのを横目で見ながら立ち上がった。


「じゃ、行きますか。ほら、サヤが指示するんだからしゃっきりする。」

「しゃっきりしてますっ!切り替えはいいほうなんだからねっ!」


ふんすと鼻息を荒くしながらぴょこんとした動作で飛び起きるサヤ。ついでに紅のポニーテールもぴょこんと揺れる。


「そういや何するの?僕聞いてないけど」


木の枝からカイの首根っこを掴んで飛び降りてきたセラが不思議そうな顔をする。そういえばボクもサヤが何をする気なのか知らない。カイがセラの手から脱走してむせている。首根っこを引っ掴まれていたから首が絞まっていたらしい。さすが腹黒。友人の首も絞めるのか。


サヤがえっへんとその豊満な胸を張って言った。


「魔力使用の一切を禁止した!追いかけっこですっ!」

「「「——追いかけっこ?」」」」


サヤの口から飛び出た、予想だにしていなかった発言にボクたちは目を瞬かせる。






「今からする追いかけっこは魔力の使用が一切禁止!身体強化魔法はもちろん、魔力循環活性化もダメ。監視はステラにしてもらうから、ちょっとでも使ったらすぐにバレるからねっ。範囲はこの校庭!範囲外に出たり魔力を使ったりとか、違反をしたら脱落です。それ以外はいつもの追いかけっこと一緒!追いかける人と逃げる人に分かれて、捕まったら逃げる人は追いかける人になってまた遊戯ゲーム再開。ね、どう?!」


一年生たちの前でそう説明したサヤがボクたちに視線を向けてきた。堂々と遊戯ゲームと言ってしまうくらい言い逃れのできない、これは遊びだという自覚はあるらしい。一応午後授業という形で行ってもいいかという確認だろう。反対する理由もないので軽く頷く。


「純粋に体鍛えられるしいいんじゃないかな。」

「魔力なしって面白そうだしね」

「体力づくりになるしな」


あ、いいんだ。という顔をする後輩たち。いいんだよ。


対してサヤは、ボクたちに反対されずこれから追いかけっこができると決まって嬉しいのか、わくわくとした表情で追いかける役を決めるじゃんけんを行っている。


けど、ボクたち二年生組は魔力使用禁止というルールがあっても一年生たちに捕まることも捕まえられないこともない。つまり二年が一年生たちと混ざってするのはダメだということになり、全員監視役をすることになった。


それに、全員監視役のほうが一年生たちを守りやすいしね。


「追いかけっこしたかったのにぃ……」


なお、参加する気満々だったサヤは大変落ち込んでいた。

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