一人暮らし

「ただいま。」


浅くはない森の中にある我が家の鍵を開け、扉を引きながら挨拶をする。声は返ってこない。一人暮らしなんだし、当たり前なんだけどね。


洗面所で手を洗ってから二階にある自室に行き、鞄を置いて制服のケープをつる。引き返して階段を降り、居間へ。かけてあったエプロンを手に取って着る。一人暮らしで一番面倒に思うのはやっぱりご飯だよねぇ。


魔導具として一般的かつ家庭に普及している冷蔵庫の中身を確認。ちゃっちゃと夕飯を作っていく。


簡易なサラダとパンを用意する間に、昨日の残りであるシチューを火にかける。魔力もなく、魔法が使えない人が占める人口の割合は九割。魔力がない人でも疑似魔法を扱うことができる魔導具の開発と発展、そして普及は当然のものだろう。


赤い魔石が組み込まれた台にシチューが入った鍋を置いて魔導具を起動させる。魔導具の使用に必要な魔力は、空気中にある魔力を魔石が吸収しているためしばらくの間を置いていれば問題ない。


温まったシチューを木の椀に注いで机に置き、手を合わせる。


「いただきます。」


スプーンに手を伸ばす前に、机の上に置いている魔導具に手を伸ばす。


「今日はどんなものかな、と。」


起動させた魔道具からは、音声が流れ出した。それらは、今日起こった物事を語っていく。


「ラジオって便利だよねぇ。」


貴重な情報源である、ラジオだ。ラジオを聞きながら黙々とご飯を食べ進めるのがボクのお気に入りの日課である。もともと小食で、すぐにご飯を食べ終えた。


カラン、とスプーンとフォークを空になったお椀に入れ、手を合わせてごちそうさまでしたと呟く。………今度またお泊まり会でもしようかな。


そう考えながらラジオを止めた。

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