演技下手
「それはそうなんだけど」
いくらボクたちが並外れていようが学生だ。教師陣の会議に首を突っ込むことなどできない。気にとめておくぐらいが精々だ。でも。
「ハルリがわざわざ隠れ見て報告までしてくるんだから、大事の予感?」
「わらわの勘は外れぬからの」
そう得意げに言うのは、リセノカ・リハル。ハルリという愛称で呼ばれる妹気質の少女だ。身長がとても低いことや愛くるしい顔立ちが幼さを際立てている。藤色の癖っ毛を高い位置で二つ括りにしており、黒いリボンが癖っ毛に埋もれている。
見上げる大きな紫の双眸がボクを映している。
「……嫌な予感じゃの。クロムウェルは何かあらばすぐにわらわたち生徒へ通達しよう。じゃが、今回はどうじゃ。資料室を使うということはあの古い文献の写しがいるということじゃぞ?近況報告に過去の研究がいるものか」
古めかしい言葉もハルリが言えば可愛らしいしかない。ふん、と鼻を鳴らしたハルリは打って変わって心配げな表情を浮かべた。
「まぁクロムウェルとルィカの会議の不自然さは今はいいのじゃ。その、」
しょぼん、とハルリが項垂れる。
「わらわやリユラや……平気な者も数人はおったじゃろ。じゃが、大半はそうではない故、みな痩せ我慢をしておるようで。……上手くそんなみんなの輪に入っていけなんだのじゃ」
俯いたハルリのリボンが風に揺れる。先ほどの、星空の件を気にしているらしい。セイロア先生に面と向かって意見を言ったのはリユラとハルリだったか。ハルリは星空の発言自体には対して何も感じなかったようだが、そではない友人たちの作った笑顔がきつかったらしい。
「こういうとき、どうすればよいのかわらわは教わっておらぬじゃろ……?」
途方にくれたような声。やっぱり、わらわやリユラや、と言っていたがこの二人は決定的に違う。
リユラは演技が上手で、ハルリは演技が下手だ。
「……いちいち学ばなければいかぬような物分かりの悪いわらわは、やはりアルトの隣にいるに足るのじゃろうか」
ただ、ハルリとリユラの共通点を上げるのならばそれは危うく感じるほどの自己肯定感のなさ。低いんじゃない。そもそもないのだ。
「足る!十分全然勿論足ってる!!」
紅髪が視界に飛び込んでくる。一歩下がった。この場はこの子が適任だ。
「いい?ハルリが物分かり悪いなんてこともないんだよ。わからないものをわからないって言うのは当然のことだもん。それを言う時期が、ハルリは他よりも遅い、ってだけ!それは悪いことじゃないでしょ?」
サヤが、膝に手をついてハルリと同じ目線で話しかける。笑いかけたのが背中を見ていても分かった。
「アルトだって、そんなハルリが好きで一緒にいるはずだよ」
……ホント、サヤは優しい。セラもかな。ボクたちとは違って。
カイが魔力を放って叩いてくる。分かってる。ボクたちはこうはなれない。
「そうじゃろ、うか」
ハルリは自信なさげにするが、サヤは、うん!と笑顔で肯定する。それが安心できたのだろう。ハルリが不安げな表情をやめた。けれど、ミカのように明るい笑顔には遠い。
サヤが一瞬だけボクを振り向く。ハルリに要るのはアルトだもん、そこまでが限度だよ。
視線で答えると、サヤが同じく視線でそうだよねと返してきた。ハルリの頭をサヤが優しく撫でる。
「今はそれでいいんだよ。みんなで一緒に、一つずつ知っていこう」
私達もクロセンセーもいるし、仲間だっているから大丈夫。サヤが明るく笑う。
セラが、周囲に魔力光球を浮かべる。かなり日が落ちて薄がりが広がっていた。
カイが大きく伸びをした。赤い視線が校舎へ向けられる。
「長居しちまったな。そろそろいつも通りなら先生が降りてくる頃だろ。帰るか」
「そうだね。そろそろ帰ろうか。」
「わらわが引き留めたがばかりにすまぬの。ありがとうなのじゃ、姉様方」
……不器用でも、この子が笑っていられるのなら今はなんでもいいかな。
同じことを考えたらしいカイと小さく笑ってから長杖を握りなおした。
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