登校方法

朝。学院が始まるあと三分前。


「~♪」


ボクは鼻歌交じりに長杖を飛ばしていた。ケープが吹き飛ばんばかりにはためき、長い蒼金髪がなびいている。人体が身体強化魔法を使わなくても耐えうるギリギリの速度を攻めて飛空するこの高揚感が好きなのだ。決して遅刻しかけていてすっ飛ばしているわけではない。


月夜学院が見えてきたところで一気に高度を地面すれすれまで下げる。その間速度を緩めることは一切ない。そのまま門を潜って再び高度をあげる。学院は結界が張られているため門をくぐらないと入れない。そして、学院の敷地内は授業以外での飛行魔法の使用が禁止されている。ので。


「やっふぅ!」


鞄を握って勢い良く長杖から飛び降りた。大きく制服がはためく。


「よいしょ。」


空中で風魔法を発動、落下の速度を緩めながら落下先を微調整する。よし。指先を振る。教室の窓がボクが起こした風で開かれた。


開いた窓に勢い良く飛び込む。爆風と共にブーツの踵で速さを殺しながら着地。よっこらせと身を起こして席に座った友人たちを見る。


「おはよー。」


「「「………おはよ」」」


そろそろまともに登校できないのか、と言いたげな視線の友人たちと目が合う。遅刻してないんだから別にいいじゃん。飛行魔法をかけたままの長杖を遠隔操作して昇降口にかけながら頬を膨らませた。





「もう、ちゃんと時間に余裕を持って登校しなよ。週に三回はあの来方じゃん」

「そーだよ危ないよっ!あんな速度で飛んだら危ないんだからね?!」

「オレはあそこから平気で飛び降りる魂胆がすげぇと思うわ」


そしていつも通りに怒られた。遅刻してないのにー。席について鞄を机にかけながら欠伸をこぼす。


「これで怪我したことないし気をつけてるし大丈夫だよ。」

「お前は大丈夫だろうが後輩が真似すんぞ?双子あたりはぜってーするだろ」

「そうかも。まぁ出来るとしても現時点じゃリトぐらいじゃない?ノアとノンは遠隔操作が甘いから無理だよ。」


さらりと横髪を揺らしながら答えればカイが遠い目をした。ちょっと?


「あー……しそう。教えるなよ」

「見て学ぶ子たちだから無理かな。」

「よしじゃあするな」

「善処はするよ。で、カイが来てるなんて珍しいね?またサヤかセラに叩き起こされた?」

「ちげーよ!?妹に弁当もらったんだよ。学院で食わねぇと妹に悪いだろ」

「相変わらず妹にべったりなご様子で。」


サヤを挟んで話しながら机の上に教材を出していく。クロ先生が一年生の朝の会を終えてここに来るまであと少しだ。


我関せずと本を読んでいるセラをつつく。


「ん?なにステラ」

「それ、何読んでるの?」

「あぁ、テイラー・ハイメの【魔力色】。読み終わったら貸そうか?」

「テイラー・ハイメってがちがちの魔法式論文じゃん。【魔力色】は魔力の研究だっけ。」

「読んでたか。そうそう、特に有色結界の色の反映と魔力の関係性が主かな」

「〈魔力そのものに千差万別の色があると思われる。だが、魔力の色という概念は存在しない。故に定義する〉だったかな。魔力は魔法の属性によって色を帯びる、っていう概念が覆ったよね、それで。」

「よく覚えてるよねぇ」


あ―だこうだと話していると、教室の扉が開いた。話すのを止めて前を見ると、クロ先生が入ってきた。


「おはよう、四人とも。さっそくで悪いんだけど、急用が入ったから一年生を見てやってくれないかい?」


クロ先生の急用は、珍しいことではないので二つ返事で了承をする。


「はーい了解です。」


いつもなら、じゃあ何時に帰ってくるからよろしくね、と言ってさっさと出発するのだが、今回はそうはせず困ったような顔をしたクロ先生。?


「君達には言っておこうかな。情報は早いほうがいいしね」


なんだろ、大事?


首を傾げるボクたちに、クロ先生が説明した。


「帝立博物館で国宝対象の【月虚影】が盗まれたんだ。公には伏せられているんだけど、君達なら大丈夫だろう。把握しておいておくれ」


————は、あ?

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