昼休み
「「「もう二度とやりたくないっっ!!!!!!!!」」」
授業が終わった校庭の隅で、ボロボロの三人が叫んだ。それぞれ木の根元に座って四肢を投げ出したり、地面に大の字になったりと疲労を隠そうともしない。
ボクはそんな三人の前で氷のナイフをくるくると回しながら立っている。二位を三人相手取っただけでへばるようなほど軟弱じゃないからね。
「叫べるってことはまだ体力はあるってことでしょ?じゃあ二戦目――」
「「「絶対にしないっ!!!!!」」」
食い気味に却下された。なんでよー。
不服げにしながらも平然と立っているボクの前で、三人は明後日の方向を見ながらぶつぶつと呟いている。
「あれだけ派手に上級魔法を数千は射ってたのに魔力切れになるどころかまだ底が全然見えないって何……!?」
「結界の欠片の雨だって軌道が一直線じゃなくてしかも千差万別で全然読めないしそれをあの数で全部制御してるってどういうこと……」
「近距離中距離遠距離全部対応してくるし全属性全階級使ってくるしオレらは得物を使ってるのにアイツは氷のナイフしか手に持ってなかったし……」
……ええっとねぇ。
「これくらい一位なら当たり前で、」
「「「絶対当たり前じゃないっ!!!」」」
ぉおう、やけにハモるねキミたち。
そんなことないのに、とぼやきながら校庭を見回した。
校庭は、クロ先生の結界のお陰で穴が空いたり焦げていたり凍ったりはしていない。校庭の右半分を使っていたはずの後輩たちは、ボクが三人と模擬戦を始めた辺りから慌てて校庭から退避、観戦していた。
氷のナイフを空中に放り投げて分解し、ボクは片手を振って三人に光属性上級魔法【光聖治癒】を発動。魔力もすっからかんに近い三人の傷が一瞬で消える。
「これでまだ痛むところはセラに頼んでね。」
「ねぇ、魔力が綺麗に空な僕に魔法を使えって言うの?それにステラの治癒魔法で治せないものを僕が治せるとは思えないんだけど」
「ボクよりもセラの方が治癒魔法は上でしょ。」
「そう思いたいんだけどねー」
遠い目をするセラに、大の字から起き上がったカイがぼそりと呟いた。
「まーこいつに治癒魔法をしてもらおうもんなら絶対何か奢らされるからなー」「は、何か言った、カイ?」
「え、セラに治療を頼んだら対価がいるよなって言っ―……てないですハイ!」
「怒らないから正直に言ってごらん?言ったんだよ、ね?」
「だってそりゃセラは腹黒だしなっていってえええぇぇええええ!!」
素晴らしいほどの笑顔をたたえてカイを殴るセラを横目で見ながら、未だに地面に仰向けになっているサヤに近付く。
「おーい、サヤ?」
「なぁにステラ……私は今ね、魔力を早く回復させて私に誤射してきたセラを灰にしにいかなくちゃならないんだよ……」
「その誤射もボクが誘導したんだけど……それよりも、あんまり転がってたらお昼食べる時間がなくなるよ?午後の授業は座学だし、その間に魔力回復に努めてね。」
「うううう……あのセラの誤射がなかったらステラに一発入れられてたかもなのに……」
「まぁまぁ、次があるって、多分だけど。」
「多分じゃ意味なぁい!!」
ふくれていたサヤだけど、空腹には抗えなかったのかもぞもぞと体を起こした。
「……お弁当、今日はどこで食べるの?」
「今日は空き教室で一年生たちと食べる日だよ、ほら行くよ。」
「後輩ちゃんと食べる日っ!」
ずんっ、と沈んだ面持ちから一瞬で笑顔満面の表情になるサヤ。切り替え早いね?
疲れてぐったりしていたとは思えない俊敏な動きで立ち上がったサヤは、むんずと元気よく喧嘩するセラとカイの首根っこを掴んで走り出す。
「ステラ、早くっ!」
「ぐぇ」「うぐっ」
「急かさなくても分かってるって。」
クロ先生と後輩たちはもう先に校舎へ戻っている。あんまり後輩たちを待たせるのもよくないしね。急いで戻ろう、とボクはサヤと引きずられているセラとカイを追いかけて駆け出した。
「ステラステラ、そのおかずくーださいっ!」
「いいけど、それと交換ね?」
「なぁなぁセラ、お前今しれっとオレの飯取ったか?」
「え、取ってないよ?冤罪」
「あちょっと待ってそれおれの!」
「ふふふ、いただきますなのな~♪」
「うわあああ!!よくないんだ!よくないんだ!」
「兄のものは弟のもの、つまりオレの、分かる?」
「こら、騒いでないで食べてください二人共」
「すっかり保護者ですね」「ですね」「いやお前も保護者組だろ」
「なんじゃわらわがそやつの世話になっとると言うのか!」
「実際なってるわよね?」「なってると思うわぁ~」「……なってる」
「あ、ねぇねぇそれちょーだーい」「いいよ、はいどうぞ」
「あーあー、そんな風に甘やかすから~」
「人のパンを主食にしているやつが何を言っているんだ」
「賑やかですね~」「あ、あはは、に、賑やか、かな……?」
あっちはあっちで楽しそうにはしゃいでいる。元気だなぁ~。
「いたいいたいいたい!何でオレがどつかれる方なの!?」
「冤罪吹っ掛けてくるやつには十分な理由になると思うけど?」
「冤罪じゃねぇしいいいぃぃぃいいいいい!!」
「え??」
「くっそがァ!!」
こっちはうるさいけど。
「セラ、カイ。」
びたりと二人の動きが止まる。
「後輩たちなら微笑ましく見守れるけど、ね?」
「「騒がしくして大変申し訳ありませんでした」」
ズサァ、と土下座するセラとカイを見下ろすボクを見ながら、お弁当を食べているサヤがのんびりと呟く。
「うんうん、今日も平和だね~!」
「へ、平和なのかや?」「……まぁ、いつもの光景ですが」
「でしょ?だから、例えステラがセラを氷漬けにしようとしてもカイが氷像になっていても、平和であってるよ~」
「「……わぉ」」
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