魔法戦 引き分け
「「ああああ、また負けたああぁぁぁああ!!!」」
炎剣と土槍を下げるなり、サヤとカイが絶叫した。ボクとセラは小さく苦笑する。
「毎回これだからね……。」
「見事に拮抗してるからね、あの二人」
何回目だかはもう分からないほどこうやって勝負はしているのだけど、清々しいほどに引き分けにしかなっていない。引き分けが多すぎて、最早引き分けつまり負け、というようにすらなっているほどだ。
「セラはあの二人と勝負しても勝敗つくのにねぇ。」
「僕が勝つ割合の方が多いけどね?ね?」
「それはどーかなー?半々じゃない?」
おおっと短剣で殴らないでよセラ。鞘に入ってても危ないし痛いんだよ?ひょいっと避けてあしらう。不満そうな顔をするんじゃない。
「ステラーっ!また負けちゃったあああああああ!!」
うぐえ。サヤに突進をかまされた。わんわんと泣く少女の頬に付いた土を指で払って落としながら、背中をぽんぽんと叩く。
「サヤはちゃんと上達してるよ。だからそんなに落ち込まないで大丈夫。」
「ステラがオレとかセラには厳しいのにサヤには優しいという不平等な件についてー」
「当たり前でしょ、誰が野郎とサヤに同じ扱いをするっていうのさ?」
「開き直ってる……差別だ……」
「何か文句でも。」
「ないですハイ」
サヤと、腹黒や同類を一緒にするわけがない。眼圧でカイを黙らせて、サヤの服に付いた土を魔力を接続して取っていく。
「ホントはカイがやらなくちゃいけないんだけどね。」
「しゃーねぇだろ、オレ紳士だからー」
「うわ、犬が何か言ってる」
「おいセラ、犬って言うなよ!ちょっと鼻がいいだけだろ!」
きゃんきゃんと吠えているが、カイの主張は仕方ないのだ。
カイと模擬戦をしたあと大体問題なのが、服や肌に土がつくことである。それらは、魔力を土に接続して操って取ればなんの問題もない、のだけど。
サヤは女子、カイは男子である。
サヤの体中にこびりついた土と接続を繋げば、サヤの体型が手に取るように分かってしまう。それを全力で忌避しているカイは、毎度サヤの衣服の掃除をボクに押し付けているのだ。
仕方がないしカイの主張は至極真っ当で誠実だとも思うけどねぇ。
セラに弄られ倒されているカイを呆れた目で見ながら土を操作、サヤの服やブーツを綺麗にする。
「ありがとー、ステラ!」
ちなみにこの当の本人は、何故カイではなくボクが土を払っているのか気づいていない。純粋な子なのだ、この四人の中で唯一。
どういたしまして、と返しながら懐中時計で時間を確認し、軽く手を振る。
瞬間、ボクが張った、校庭の左半分を覆う結界が砕け散った。
え、と固まるセラ、サヤ、カイの前で、無数の欠片がその鋭い切っ先を三人に定める。ギギギギギ、と錆び付いたような動きで首を回した三人に向けて、ボクはにこりと笑いかけた。
「三人とも、卒業までには一位になりたいんでしょ?なら、もうちょっと厳しい訓練も必要だよね、ということで。」
大きくボクが両腕を広げた瞬間、ボクから冷気が吹き出した。地面や空気中の水が瞬く間に凍り、きらきらと結晶が煌めいていく。
「この、一位であるボクが!特別指南をしてあげる♪」
すかさず察したクロ先生が、校庭の左半分のみならず全体に強固すぎる結界を張ってくれる。過剰過ぎやしませんかー。ちゃんと制御も加減も出来ます!
真っ青になった三人に片目を瞑って指をぱちんと鳴らした。
「授業が終わるまでまだ時間はあるし、いい経験になるよ。ほら、全力でおいで!」
「「「いやだああああぁぁぁぁぁぁああああああああああああ!?!?!!」」」
三つの心からの絶叫が上がった校庭へ、無数の結界の欠片が降り注いだ。
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