第10話 本当の私は……
朝。
眩しい日差しが、カーテンの隙間から差し込む。
今日はきっと、良い天気だろうな……
少しずつ意識が覚醒していくのを感じながら、私は自室のカーテンを開けて、窓の外を眺める。
あれ……
おかしいな。まだ、夜だったのかな……
窓の外、一番近くに見える魁くんの部屋が視界に入った途端に、一気に世界が暗く濁っていくのを感じた。
「ハハ、何よこれ。ハハハ……」
こんなの拷問だ。
忘れたくても、忘れさせてくれない。
これから毎朝、目覚めるたびに彼のことを思い出して、それから絶望を味わわなければならないなんて……
異様なまでの気怠さを感じつつ、私は制服に着替える。
少し短くした、スカート丈。
髪をハーフアップに結ぶ、いつもの身支度。
それから、鏡の前で……
死んだような表情の私を見て、ふと疑問が浮かぶ。
何のために?
……誰のために、こんなことをしてたんだっけ?
早く卒業したいなって思った。
花の女子高生なんて言葉、誰が言い出したんだろう。
こんなことをあと2年も続けるなんて、想像するだけで気が遠くなる。
私には、忘れることさえ許されないの?
彼のために私が行ってきた努力と、家が隣の幼馴染であるというアドバンテージは、私が失恋を引きずるために存在する拷問道具へと変化していた。
◇◇◇
わかってる。
もう、終わったんだ。
全て、終わった。
でも、どうすれば次に進めるのかわからない。
何を目標に生きればいい?
何を楽しみに生きればいい?
私は空っぽの人間。
没頭して打ち込めるような趣味はこれといって持ち合わせてないし、心を許して会話できる人もいない。
教室に着いて、美岬さんと智香子さんに声をかけてもらって、色々と話題を振って話しかけてもらって、私はそれに笑顔を返していく。
上手くできているかわからない。
私って、どうやって笑ってたっけ。
そんな疑問が浮かんでは消えていく。
彼女たちは心の底から楽しそうに笑ってる。
私は彼女たちとは違う。
彼女たちのようにはなれない。
どうすれば、今を楽しめるんだろう。
私は先のことばかり考えてしまう。
あのアイドルがカッコ良かったとか、新しいお店ができたとか、お洋服を買ったとか、あのケーキが美味しかったとか……
羨ましいな、って思う。
私もそんな風に笑いたい。
怖くないのかな。
好きになったアイドルが、お店が、お洋服が、ケーキが……
いつか無くなって、悲しい気持ちになることが。
そして……
自分の思っていることを口にすることで、誰かに嫌われることが。
私は怖いよ。
美岬さんと智香子さんを失うのが。
彼女たちの好きと一致しないことを口にしてしまい、嫌われることが怖いよ。
「アハハ、それは面白いねー!……で、紅羽。少しは元気出た?」
だから、私にそう尋ねてきた智香子さんに返す言葉は。
「うん、面白かった。元気出たよ」
◇◇◇
何やってるんだろう、私。
制服のスカートの裾をぎゅっと握る。
こうしてどこかに力を込めないと、休み時間に立ち上がることすら億劫に感じてしまう。
何となく、廊下に出て窓を開ける。
爽やかな風が吹き込んでくる。
教室で魔耶さんたちが楽しそうに女子たちと会話しているのを見るだけで、居心地の悪さを感じてしまった。
……だって私は、負けたんだ。
『恋愛は早い者勝ち』
あの言葉も、誰が最初に言ったのかわからないけど、私の嫌いな言葉だ。
それなのに、何度も何度も頭の中で響いてる。
「……おい」
愚かな私を嘲笑うかのように、さっきから何度も何度も。
「……おい、紅羽」
何度も何度も何度も……
「……紅羽!」
声が聞こえた。
私のことを呼ぶ声が。
「大丈夫か?体調悪いのか?」
それは、かつての私が大好きだった、今は何とも思っていないはずの男の子の声だった。
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