第7話 私の決意
「……ハハ、ハハハハハハ……」
いつの間にか涙は枯れて、乾いた笑い声が自室で微かに響いていて、それが自分の声だって自覚したのは、午後6時のことだった。
あれからどうやって家に帰ったのだろう。
ほとんど保健室で1日を過ごしてしまった私だけど、今日は衝撃の事実を知ってしまった。
本当に、私の思い上がりなんかじゃなかった。実は魁くんは私のことを好きでいてくれてたんだ。それはすごく嬉しいことのはずなのに……
辛い。
いっそのこと、叶わない恋だったと思いたかった。
少しでも……いや、ほとんど手が届きそうなところに幸せがあったという事実を知ってしまったことで、さらなる後悔の念に駆られ、私ってどうしてこんなにダメなんだろう、バカなんだろうってずっと考えてしまう。
『お母さん、今日も遅いな……』
1人は嫌だ。
寂しい。
兄弟姉妹のいない私は、小さい頃から1人には慣れているはずなのに、どうしてだろう。
こんなに寂しがり屋に育ってしまったのは。
こんなとき、いつも……
傍にいてくれたのは、魁くんだった。
優しい魁くんが恋しい。
でも、彼は……
―――ダメ。もういい加減、気持ちを切り替えなきゃ。
切り替えなきゃ切り替えなきゃって何度も自分に言い聞かせる。どれだけ後悔しても、彼の笑顔が私に向けられることはもうないのだから。
……あれ、本当にそうなのかな?
思えば、今日の2人の様子はいつも通りだった。
嘘告で付き合い始めた2人だからこそ、周囲の視線には気を配るし、急に変な噂が立つことに警戒もするだろう。
そういえば、告白の現場で、何か言っていた気がする。
そう、お試し。
魁くんは今、お試しで付き合ってるんだ。
魁くんの初めての彼女になる夢は叶わなかったけど、彼のことを諦めるのはまだ早いんじゃない?
魁くんが嘘告に騙されてるのを、黙って眺めてるだけで本当にいいの?
私の中のもう1人の自分が問いかけてくる。
……そうだ、そうだよ!まだ今なら間に合う。間に合うんだ。
そう考えると、少しだけ前を向くことができてきた気がする。
私は自分のことで頭がいっぱいで、他のことなんて考えている余裕がなかった。でも、一番考えなきゃいけないのは、他でもない魁くんの気持ちなんだって、今になって気づく。
思い出すのが怖いけど、今日の美岬さんと智香子さんの話によれば、魁くんは私の気持ちに勘違いをしてる。それに、今はどんな気持ちかはわからないけど、少なくとも魁くんは私のことを異性として気にしてくれてたはず。
私が傷ついてる場合じゃない。
これから傷つくかもしれないのは、魁くんの方。
だってこれは、嘘告、なのだから。
だから、もし魔耶さんから真実を告げられたとき、私が魁くんの心を支えてあげられるように……ううん、私が魁くんのことを傷つかないようにしてあげなきゃ。
いつも魁くんには優しさを貰ってばかりで、だから今度は私が。
魁くんに本当のことを伝えなきゃ……
♢♢♢
翌日。
お手洗いに行くと、また魔耶さんたちがたむろしてお喋りしている。
「で?こないだの罰ゲームの返事は貰えたの魔耶?もしかしてフラれちゃった??」
「まさか〜!嘘告でフラれるとかダサすぎでしょ。当然、オッケーでした〜♪」
「ま、あんなやつ魔耶ならチョロすぎるわ。どうせ胸にしか興味ないんでしょ。いかにも草食って感じのヤツに限って、案外ムッツリだったりして」
「マジ?うわキッモ。もう今日にでも種明かししちゃおっかな」
「ギャハハ」
―――好きな人を馬鹿にされて、悔しい。
魁くんはそんな人じゃない。
本当は魁くんは優しくて……
良いところがいっぱいあるのに。
どうしてなの?
魁くん……私を選んでよ?
発展途上と言い聞かせてきた自分の胸に、思わず手を押し当てる。今にも泣き出してしまいそうで、それを必死に隠しつつトイレの個室に逃げ込む。
個室の壁に囲まれても、彼女たちの笑い声がずっと耳鳴りのように響いていた。何故だが手を洗っている間もずっと魔耶さんたちに見られてて、笑われてる気がした。もう……私はおかしくなり始めているのかもしれない。
悔しくて、逃げるようにその場から立ち去った私は、その勢いのまま―――ポケットからスマホを取り出すと、私は魁くんにチャットを送った。
「今日の放課後、話したいことがあるの」
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