第6話 保健室の衝撃
知らない天井。
……いや、よく観察すると、どこかで見たことがある気がする。
あ、そうか……ここは家じゃなくて学校で……
「雨川さん。目が覚めましたか?」
凛々しい大人の声がしたのでその方を向くと、白衣を着た30歳くらいのメガネをかけた女性がいた。
この人は……どうやら保健の先生みたい。
「ただの寝不足でしょうけど。身体には十分気をつけてくださいね。そこのお友達が、ずっと心配してくれてましたよ?」
そして先生の指す方を見ると、椅子にちょこんと座ってこっちを見ている美岬さんと智香子さんの姿があった。
「……!姫ぇ……!心配したよぉ……」
いつも元気な彼女たちが、ここまで心配そうな表情をしているのは珍しい。
そのことに申し訳無さというか、素直な感情が湧いてきて……
と、ここで、先程の会話の内容を思い出す。
そう。
私は勿論寝不足で体調が悪かったのもあるけど……
彼女たちの話に対するショックで、意識を失ってしまったのだ。
「とりあえず、意識が戻ったみたいでホッとしたぁ……。私たち無神経に夏谷先輩への失恋を思い出させちゃったから、そのせいで体調崩したんならどうしようかって……」
あ……そうだ。
彼女たちは誤解してる。だから、私は……
言うんだ。
彼女たちに、私の本当の気持ちを。
「あの、私、夏谷先輩のことは、何とも思ってなくて……あ、確かにカッコいい人だな、とは思ったけど、好きな人とかそういうのじゃなくて、私の好きな人は……」
『チュウイシテヤッタワヨ、……ナイデッテネ!』
そこまで言った私は、急によくわからない記憶が蘇ってきて、何故だか頭痛に襲われる。
あれ……
朝の会話で、美岬さんが何かを言って、それで……
「「……え、まじ!?姫の想い人って、夏谷先輩じゃなかったの??」」
少しの間の後、また2人の声が重なる。
「え、その、もしかして私の早とちり?それは、ごめんね?……でも、でもさ、夏谷先輩の感触いい感じだったし、失恋したならさ、いっそのこと今から狙っちゃえば?」
「ちょ、ふざけないでよ美岬!?私は!?私の恋はどうなるの??」
「だーかーら、さっきも言ったけどアンタじゃ釣り合わないでしょ。……ホラ、ちょうど良い感じで噂も流れてるとこだし?姫は夏谷先輩のことが好きだー、って」
「瑠衣子も大分触れ回ってたし、あの様子じゃクラスの男子ほぼ全員の耳には入ったよねー」
……え……
……クラスの、男子、ぜんいん……?
それって、つまり……
―――とうとう私は、先程うまく思い出せなかった会話の内容を一気に思い出した。
『しっかり注意してやったわよ!姫は夏谷先輩のことが好きなんだから、邪魔しないでってね!』
『……俺も、本当はわかってるんだ。いつまでも脈なしの幼馴染に囚われてちゃいけないって。そう思っててさ……』
そんな……
そんなのって……
あああ……
この後私は再び意識を失い、更に数時間眠っていたようで、その間ずっと美岬さんと智香子さんはつきっきりで看ていてくれたみたいだけど。
どうしてかな……彼女たちに感謝する気持ちが湧いてこないなんて……
私の心は、いつの間にかそれほどまでに醜くなってしまったのかもしれない。
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