第51話 後、200日

「あーだるい」

「完全に二日酔いだ」

 俺たちは、モンスター駆除従事者。

 ここに来て、いきなりアイドルのような扱いがされはじめた。


 避難用の工事関係者が、ダンジョンへ出入りし始め、その護衛とか。

 引っ張りだこで、依頼料も爆上がり。


 お姉ちゃんがいる店に行っても、モテモテだ。

 俺たちは店にいる間だけだが、他の奴らは、店じゃなくても数人侍らしているというのに。


 前から来る奴ら、岩見達もそうだ。

「やあ。朝から、絶好調に不景気顔だな」

「やかましい。二日酔いなだけだ」

「安酒を飲むからだよ。僕たちを見てみな。昨夜も飲んだが、皆普通だろ」

 こいつらは、仲間に治療魔法が使える奴がいる。

 二日酔いなど、一発だそうだ。


「まあ朝は、君達にはない苦労もあるけどね。なかなか仕事に出させてくれなくて困ったよ」

 ちっ。また女自慢か。


「ちょっと、通路を塞がないでよ」

 背後から、声が聞こえる。


「何だよ、ちょっとぐら、い……」

 と言いかけて、俺たちは廊下をあける。


 開拓者の宴と、後ろにいるパッとしない感じの奴は、導師だ。

 だが、奴の周りにいる女は超が付く美人達。

 そして、強い。


 岩見も、冷や汗を垂らしている。

 一度ちょっかいを出して、一にらみを受けて漏らしたそうだ。



「最近人数は増えたけれど、パッとしないわね。前はもっと皆必死だったのに」

「製造業とか、工場が止まったみたいだしね」

「ああ輸入が止まったんだよね」

「あれだけ余っていた鉄が、かなり高騰しているみたいだし」

「建築構造用圧延鋼材(SN材)とかTMCP鋼とかだよね。ニュースで言っていたよ」


「各国でダンジョン内に、宅地とか造成してるって」

「アメリカだけは、コロニーを推進しているけどね」

「他は、諦めたの?」

「そうじゃないみたい。大きな船を造っている所が増えたみたいよ。それも原子力の」

「津波対策かな」


 そんな話をしながら、僕たちは20階へ飛ぶ。


 最近、開拓者の宴もだが、25階を拠点にするチームが増えた。

 ここには、大手が製塩プラントを建てた。


 その時に、駆除従事者と騒動になりかけ、その対応として立派な建物。

 主に、駆除従事者用の住居が造られた。


 ここに来られる、上位者は住み始める。

 ただ、製塩それに付随する化学プラントに何かがあれば、対処する必要は義務としてあるが、そんなことはめったに起こらない。


 そして僕たちも、ここに部屋を持っている。

「ただいま」

「やっぱり、ここからの景色は良いわね」

 コンクリートは運搬と硬化の時間がかかるため、基本鉄骨と木で造られている。

 地震や台風がないため大型化できるようだが、3階建てで今のところ十分なようだ。



 父さんは未だ会社に通っている。 

 能力のある人間が、早期に退職してしまい。そのしわ寄せが再雇用や定年間際の人間にやってきたようだ。

 そのおかげで、役職はないが、給料が上がったらしい。

 ただ給料が増えても、地上では店がどんどん無くなってきている。

 方向としては、インフレーション。よく耳にするインフレになってきている。


 原因は売るための品物が、減ったから。

 輸入はできず、ダンジョン内のプラントも、場所は限られている。

 すると、優先的に穀物が植えられる。

 そのためだ。

 それを受けて、シンがいつの間にか、昼と夜を階層を関係なく取り入れたようだ。


 おかげで、ダンジョン。高位の存在関与が、また噂として復活する。


 そのほかにも、国内では、津波を受けて耐える防潮堤のような構造物では無く、分散させ流すための構造物が試験的に造られているようだ。

 本土の奥まで来させない。

 そんな取り組み。


 津波は、普通の波とは違い、周波数が長く海底が浅くなるとスピードが上がる。

 それに、波高も高くなる。

 岬のような構造でも、入り江でも波高は高くなり、構造物の負荷は大きくなる。


 そのため、ブラインドのような、シャッターとスリットを、組み合わせ。エネルギーを殺し流す。

 基本はテスラバルブを参考に、勢いを抑える構造。

 消すことは構造的には難しいが、方向を変える事は何とかできないかと言うことだ。

 そんな方法を、テストしているようだ。


 それを知られれば、他国から何か言われそうだが、他も似たり寄ったり。

 自国側に壁を造り、その中で核を爆発させて、発生した波を津波に当て、波を消そうとか考えているところもあるようだ。

 他国のことなど。今は、何処も二の次だ。


 

「いくつか、手立ては考え実行していますが、どう考えても日数がたりません」

「シット。どうして我が国に。避難は行っているな」

「ええ。ダミーとして海岸から離れろと、通達を行っています」

「それでいい。どうせ、津波は回り込んでくる」


「ネバダやユタは微妙ですが、どうしましょう?」

「ポイントは、シアトルからサンフランシスコの間だな」

「ほぼ。間違いないと思われます」

「今回推定10km。ユカタンやハドソン湾。他にもバリンジャー・クレーターでも何でも良い。現存する痕跡を参考に、シミュレーションだ。やばそうな所は強制避難。残っている奴は責任を持たない。それで通知しろ」

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