第46話 父さん若返る。
鬼司 掌(しょう)59歳。
定年延長するか。せずに、そのままやめるか悩んでいたこの頃。
先輩達の愚痴も多く、つまらんと言って、再雇用を受けても1年すればみんなやめていく。
ただ今回は、定年延長。
再雇用のフルタイムパートよりは、減額も少しだけましだ。
そんな折、世の中で新人類。
人類の進化。
時代は、今新しい時を迎える。
などという、文字が飛び交い始める。
ダンジョンへ赴き。40階以上で、進化のキーを握ると言われる、美人の鬼に、出会えば良いらしい。
将のことも頭にあり、駆除従事者協会へ赴き、パンフレットをもらってくる。
モンスター駆除従事者講習会を受けて、合格すればダンジョンへ入れる。
将も最初は苦労したようだが、今では立派にやっているようだし、教えを請えば、健康のためにも良いかもしれない。
将には説教をしていたのに、自分はそんな甘いことを考える。
悩んだ末に、試験を受けて合格し、休日にお試しで入ってみることにした。
何十年ぶりかの、ドキドキとわくわくを胸に、入場する。
入り口は、電車と一緒。
タグを、読んでいるらしい。
「ここからダンジョンか。人生初だな」
感慨にふけっていると、
「おっさん。止まるとじゃま」
そんな声がして、押し込まれる。
確かにじゃまだが、記念すべき第一歩が。
少しうなだれて、入り口脇の石板に手のひらを押し当てる。
少し明るく光れば、登録が完了らしい。
当然ながら、初登録だから、頭には何も浮かばないはずだが??
『将の部屋』
という、行き先が頭に浮かぶ、ほぼ条件反射的に選択をする。
その瞬間、浮遊感がして、気がつけば見慣れない部屋に将が居た。
「あれ? あのおっさん。飛んだぞ。てっきり初心者だと思ったのに。やべー。中級以上が、装備を一新しただけだったのか」
そう言って、さっき掌を、突き飛ばした男は逃げていく。
「父さん。ここへ、どうやってきたんだ」
目の前に将が居て聞いてくる。
ああまあ、『将の部屋』と書いていたから、おかしくはないのだが、上位駆除従事者に対する優遇とかがあるのだろうか?
「ここは一体?」
「ここは、ダンジョンにある僕の部屋。攻略の都合で便利だから創った」
女の子が出てきて頭を下げ、どこかへ向かう。
「ここはあれか? チームで持っている部屋なのか?」
「そっそうだよ。うん」
「しかし、転移の石板に登録をしたら、いきなり『将の部屋』があったからびっくりして選択してしまった」
「そうだね。入り口だと、他の階は表示されないから、ここしか出ないよね」
「だが。そんな話は、協会の説明された中にもなかったし、どういう事だ?」
そう聞いた所で、誰かが入ってくる。モンスター? 鬼?
「やあやあ、将のお父さん。初めまして。私はシンと呼ばれています」
そう言って、握手を求めてくる。
躊躇したが、将の知り合いなののだろう、彼の手を取った。
「ああこれは、初めまして将の父親で鬼司掌(しょう)です。ぐっ」
そのまま意識が、遠くなる。
ふと目を開く。
まだ頭が、少し痛い。
ぼんやりした頭で、上半身を起こし周りを確認する。
ただ真っ白な部屋。
壁や天井が光り、目が、距離感がおかしい。
「ああ。気がつきましたか」
そう言って、彼が入ってきた。
「不具合はありませんか?」
「不具合?」
「ええ体を、ちょっといじらせて貰いましたので」
「からだを?」
そう言われてみると、腕や手の甲に出ていた老人性のシミ。老人性色素斑が消えて、なんだか皮膚の張りまで戻っている。
「多少胃や大腸に、潰瘍やポリープがあったのでそれも治癒をしています。あなたがいなくなれば、きっと将も悲しむでしょうから」
「それは。ありがとうございます」
「いいえ。まあ数少ない友人のためですから」
「友人。こんな事を聞いて良いのか。あれなんですが。人間ではありませんよね」
「ええ。将には説明しましたが、他の星から来て、この星の生命体を管理しています。名前はー。将にはシンと呼ばれています」
「他の星。管理?」
「ええまあ。だけどそんなことは些細なこと、気にしなくて大丈夫。大事なのは僕が将の友人であり、あなたが将の父親であると言うことだけ。体をいじったついでに、ちょっと強化をしたので、慣れるまで気を付けてくださいね。将もしばらくは、壁や柱にぶつかっていましたから。認識と、体の動きにずれが出るようです」
「はい。気を付けます」
「じゃあ部屋に送っていきましょう。こっちです」
そう言って彼は、部屋から出て行く。
何もない壁が開いた。これは、遅れるとまずい。
そう思って踏み込んだ瞬間、彼の言う、ずれを体験し転びそうになる。
体が軽い。
今まで、どうやって歩いていたのか、思い出せない。
ギクシャクしながら、歩みを進める。
意識的に手を振り、足を出し、着地を確認して。
交互に、それを繰り返していく。
なるほど、リハビリだな。
言われたように、体もだが、頭もいじられたのか。
彼が宇宙人だと言ってくれたおかげで、精神的平静が保たれる。
子供の頃憧れたが、この年になって、改造人間か。
皮膚の下に、金属がないかを、つまんで確認する。
変身はできないのかと、ちょっと考え、笑ってしまった。
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