第40話 上位階層

「どうしたんだ? 大声出して?」

「転移先。どうですか? 問題ありません?」

「ああ無事に、戻った」

 剛さんには、見えないのか。

 それなら良い。


「どんどん行こう」

 そう言って、皆走り始める。


 この階から、ハウンド系などスピード重視と重量系。

 カーバンクルや、バンパイア。

 結構多様なモンスターが出始め、環境も森林や沼が出始める。

 シンの、多様性の実験室。


 沼には、気持ち悪くて嫌いだが、ワーム系モンスターも出てくる。

 それも、結構小さな吸血系ワームがいて、吸血と同時に小さな、寄生タイプを人の体内へ撃ち込む。

「こいつは、知性が無いから君も気を付けて」

 そう聞いている。


 そう、ここから先は、水に入ってはいけない。

 開拓者の宴が出てくる前にいた、トップチーム達が、身をもって残してくれた情報。

 しっかり、協会で40階を越えた駆除従事者には、知らされる。


 今回特殊な依頼のため、ぼくは特例で聞いている。

 扱いは、仮免許。


 再び、40階を攻略しないといけないが、今回は、上の階まで進める。


「将はおかしい。ここからは、初めてのはずなのに驚いていない」

「まあ、情報は色々聞けますから」

「ふーん」

 そう言って、ひかりちゃんが、いぶかしむ。


 森のエリアで、キラッと光る。

 何かが見えた。

「スパイダー系。アラクネかもしれない」

 警戒して、周辺に探査をかける。


 4時方向、気配。

「見えない。ひかり。どこだ?」

「むう。魔力の揺らぎのみ」


 そう言ったそばから、地面がいきなり陥没して、糸が吹き出される。

「敵襲。スパイダー系」

 賢治さんが、切ろうとするが、変に柔軟性と接着性能があり、絡みつく。

 躊躇無く、火炎が広がる。

「「「熱う」」」

 周辺が大騒ぎになる。


「叫んでる暇無い。囲まれている」

 また、糸が降ってくる。


 また、ひかりの炎。


 ぱっと見て、位置を教えるために、炎の槍を撃ち出す。

 

 トップチーム。動きが速い。

 僕の意図を理解したのだろう。

「将、小細工は良い。当てられるなら当てろ」


「了解」

 その声に応え、3体の本体を撃ち抜く。

 アラクネだ。


「将。盗っちゃだめ」

「どっちだよ」

「遠慮するな。殺って良い」

「だめぇー」

「ひかりつまらないこと言うな、全滅すると冗談にもならん」

「ぶーー」


「すまん。将、殺ってくれ」

 言われてすぐに、周辺に雷が落ちる。

 アラクネが消え、代わりにオゾンのにおいが周辺を支配する。


「雷。それも、こんなに一度に。むうぅ」

 プンプンしながら、ひかりが周りを警戒する。


「おーい。見てみろこれ」

 湊士さんが、指さす先には、先ほど糸が吹き出された場所。

「穴だな」

「そうですね」

「地面の下にも、ワーム系が住みだしたのか?」


「だとすると、歩いていて、いきなりぱっくりか?」

「それはいやだな」

「地面に向けて探査かけると、穴があった場合。少し帰りが軽いから、判断できますよ」


「あっ。ホントだ。相変わらず将は変」

「そりゃどうも」


 そう言った後、ひかりさんが飛んでくる。

 脇に下に手を入れ、空中で捕まえる。

 子供にやる、高い高い状態。

「捕まえないで」

「いやです」

「どうしてよ」

「また、ぐりぐりするんでしょ」

「良いじゃない。愛情表現。お礼」


 いや、お礼は良いけど、ひかりさん。僕の頭を抱え。ぐりぐりと胸を押しつけ、お礼と本人は言っているけれど、ちょっとボリュームが足りなくて、ぐりぐりされると痛いんだよね。

 当然、そんなことは言えないし。


「雷。複数制御って、どうやるの?」

「一個一個を、早くです」

「なっ。嘘でしょ?」

「本当です」


「むう」


 結局。今は、肩車状態。

 人の上で、探査しては、方向を指示している。


「ひかりさん」

「なに? 今お疲れだから、降りないよ」

「じゃあ、まあ良いですけど、人の首でぐりぐりしないでください」

「そんな事、しないよ」

「それと、2時方向。地下を何か来ています。後30m」

「なっ、ばか。そっちを先に言いなさいよ。賢治。2時来てる」


「りょ」

 そう言って飛び上がり、刀を突き出す。

 下から、ワームが飛び出す。

 さっきの穴よりは小さく。直径2m程度。


 落下しながら、賢治さんは、ワームを切り開いていく。


 着地し、倒れてくるワームを横一線。

 やっと消滅する。


「あぶな。縦で切っただけでは、死ななかったな」

「死にかかりでも、攻撃を受ければ、こっちとしては、無かったことにはできないからな」

「ああ。消えるまでは要注意だ」


「ごめんなさい。探査遅れた」

「珍しいな」

「っうー。ちょっと、他のことに気を取られていて」

「やっぱり」

 僕がそう言うと、パシパシ頭を叩かれる。


「何ですか? 理不尽な」

「知らない」

 そしてまた、ぐりぐりし始める。


「代わりに、探査しておきます」

 そう言うと、また、頭をはたかれた。


 その後、指揮を変わり、指示をしていく。


 トロールが出てきたのを、剛さんが足を取り、バランスを崩して頭から脇の池に向けて送り出す。


 すると、池に落ちたトロールは、すごい勢いで暴れ出す。

 立ち上がったトロールだが、目。耳。鼻。口。穴という穴に、白く。うにょうにょしたものが刺さっている? いや食いつかれているのか? 見た目は白いヤツメウナギ。行動は、アマゾンにいるナマズ。カンディルのようだ。


 気がつけば、下半身の穴じゃない所にも噛みついているな。

「見たか? 絶対水には入るな」

「はい」

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