第38話 事情

 剛さん達に、話を聞く。

「あれはいつものように、依頼を受けたついでに、先へと進んでいた。するとだ、まるで散歩にでも来たように、かわいい女の子が目の前に出てきたんだ。俺たちは警戒中で、ひかりも当然、全方位に探査をかけていたんだ」

 そう言って、御茶を一口飲む。

 周りのみんなも、おとなしく聞いている。


「その時にだな。ひかりがそいつモンスター。あたまに角と言って、魔法をぶち込んだのだけど。手を振るだけで、かき消された。次の瞬間、ひかりはすっ飛ばされた。『いきなり何するのよ。服が破れるじゃない』とか言ってな。そして俺が抑えに行ったが、もろに力負けして。ぶん投げられた」


「そこからは、俺だ」

 そう言ったのは、賢治さん。

「愛刀を、袈裟懸けに振るったのだが。あっさりと指でつままれ、ペきっと折られた。まるで飴細工のように。そして、『こんなものなんだ? よわー』とかわいい顔をして僕に向かって言い放ったんだ。『そんなんじゃ、すぐ死んじゃうよ。一度、臨死体験でも、してみる?』 そう言って語る。彼女の目を。僕はその目を見てしまった。そこに見えたのは虚無。何もないんだ。実際に経った時間は、短いものだと湊士に聞いた。でも僕は、その闇の中を何十年。何百年とさまよった。そこで僕の心は絶望してしまったんだ」

 そう言って、賢治さんは、力なくうなだれる。


「次は僕だな」

 そう言ったのは、湊士さん。


「賢治が倒れた後。僕は助けるためと、何とか攻撃を通そうと。決死の思いで懐に入り、黒塗りの短刀を突き出した。だが、簡単に止められ。折られた。その時、僕も彼女の目を見た。多分ね」

 その時、湊士さんの目から涙がこぼれる。


「僕の心は、完膚なまでに折られてしまった。僕を囲む幾つもの目。そいつらに言われるんだ。『おまえは自信が無くて、そんな格好をしているのか? なにをそれで隠している? 自分の自信の無さか? 卑屈な心? 自信があるなら、裸一貫で立てよ。さあぁ。私に向かっておいで。自信があるなら、踏み込んでおいで。ほら私は動いていない。非力だね』そんな問答が、賢治じゃないが、ずっと続くんだ。永遠に。最初はムキになって力の限り戦うが、目の前にいる相手に一度も届かないんだ。渾身で振るう拳も、蹴りも。やがて僕は、自身の弱さに気がつき、膝を屈してしまった」

 そう言って泣き始める。それであの格好か。


「あー次は、私だが」

 そう言ったまま。黙り込む凪さん。


「基本は、湊士や賢治と同じ。違うのは、私はかっこつけだ。そんなことはやめ、自身が持つ、雌の欲望を認めろということだけ。言葉。そして。実際に触られ与えられる快楽で私は分かってしまった。雌だと。今までは人によく見られたいちやほやされたいと格好をつけ、見られ、羨望の目をうけて、私は快感を欲していただけだと。あの永遠に続くと思われる快楽。その中で、ちやほやされるなど、羨望の目など。取るに足りないものだと。それはさっき、確信に変わった。将の手。その手に触れられたとき、一瞬で20回ほどいってしまった。だから、将。私を受け入れてくれ。めちゃくちゃにしてくれ」

 そう言いながら、座っていた凪さんは、四つん這いになり、にじり寄ってくる。


 僕はさすがに困り、後ろを振り返る。2人を見ると、目が躊躇するな。やっちゃえと、なぜかわくわくしていた。

 自信が無いから、2人に対し、言葉で聞いてみる。

「ああ言っているけど、どうしよう?」

「あの症状。あたいらと一緒だから、やっちゃって。もう手遅れだよ。かわいそうだし。ただまあ、ここじゃなんだから、一瞬部屋へ一緒に行って」

「分かったよ」

 凪さんの手を取るだけで、彼女の力が抜ける。

 二人の手を取り、一緒に飛ぶ。


 結局3人を満足させた頃。

 シンがやってくる。


「話を聞いたけど、まだ創っているの?」

「当然だよ。進化の為さ。ただナンバーは変わった。君の番確保から、進化のため。それが目標だからね。進化の始祖としてevo-01。evoはevolutionisだよ。そこの雌は見た顔だから、evo-01に針で刺されたね。彼女にも魔石を埋めるかい?」

「それは、本人が望んだらにしよう」

「そうかい。いつでも言って」

 そう言って、シンが出て行きそうになったから、聞いてみる。


「その針で刺されると、どうなるんだ?」

「生物が進化するための強い願望。それを持っているものは進化できる。弱者は、どうだろう? 精神的な負荷に耐えられず、弱くなるかも」

「分かった。ありがとう」

 

「じゃあ、みんな負けたのか。だけど、自分が望んだ願望? 賢治さんは闇をさまよい。湊士さんは、身体的強さ。凪さんは、エッチになりたかったのか? あっいや。快楽のほうか。快楽を望むってやばいんじゃ?」

 振り返り、幸せそうに眠る3人を見る。


 一度、開拓者の宴のいる所へ戻る。


「おお。帰ってきたか。凪は大丈夫か?」

「ああうん。今眠ってる」

「眠ってる? 良かった。ずっと、眠れなかったようなんだ」


「それで、話してくれるのかな? あの二人のこと」

 ひかりが、下から見上げてくる。

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