第37話 開拓者の宴

 朝9時少し前に、31階へ到着する。


 すでに、開拓者の宴は

「あれ来てないな?めずらしい」

 キョロキョロしていると、向こうから少し大きな物体、ああひかりちゃんだ。

 ぽすっと受け止める。


「おはよう。みんなは?」

「すでに狩ってる」

「あらまあ。じゃあ僕たちも行こうか。この子がひかりちゃんだよ」


 二人の目が、一瞬きょとんとするが、佳代の目が光る。

 かわいいものとして認識しロックオンした様だ。

 いきなり背後から、捕まえ、頭をぐりぐりとこすりつける。

「ねえ。将。うちにこの子もらおう」

「ぐっ。何やつ離せ。馬鹿力」


 ひかりは焦っていた。

 背後の気配は感じたが、なすすべなく捕まった。

 何この子。

 ぐりぐりされながら、疑問に思う。うちのチーム?

「そっ、そんなところを揉むな。離せ。将。チームって何?」

「チームっていうのは。ああごめん。うちのメンバー」

 ふざけて、チームとはを語ろうと思ったが、ひかりちゃんの目が、それを許してくれないな気がした。


「こっちが、川瀬美樹。アタッカーと言うより暗殺者に近い? それでその子が村井佳代。アタッカーと言うよりタンク」

「うっあっ。だめ。その、村井さん離して」

「佳代。ひかりちゃんを離して。もうちょっとで、やばそうだから。さっきから魔力に干渉してるけど、かなりすごいのが錬られている」


 パッと手を離すと、ぽてっと落ちる。


 肩で息をしながら、聞いてくる。

「その子一体? 本気で私が逃げられなかった。それに魔力に干渉? さっきから魔法が発動できなかったのは、あんたのせいなの?」

「あーうん。人に向かっては危ないよ」

「そういうことじゃない。いつもながら、なんてむちゃくちゃなの」

 そう言って、がっくりと膝をつく。


「かわいいだけかと思ったら、魔力がおかしい。その二人も」

 そう言ってじっと睨む。


「まあ、行こう。剛さんまっているだろうし」

 歩き始めると、また佳代がちょっかいをかける。

 両脇腹をつかむ。


「ひゃん」

 驚きながらも、振り向きざまの肘が放たれる。

 佳代は、向かってくる肘を、ひょいと持ち上げ、また脇腹をつんとつっつく。

「うきゃ」

 そう言って、体勢が崩れる。

 まってましたと、佳代が抱っこする。


「何だろう? ここまでハイテンションな佳代って初めて見るな」

 僕がそう言うと、

「ゲーセンの、クレーンコーナーへ行くと、いつもこんな感じよ」

 美樹が説明してくれる。


「そうなんだ。じゃあ今度のデートはゲーセンかな?」

「行く。佳代はきっとクレーンコーナーで勝手に遊ぶから。二人で写真シール作製機で撮りましょ。あそこって最近過疎化してるから、人も来ないし」

「あーうん。そうなんだ」

 人が来ないから、どうしたんだ?


 そんな馬鹿なことを言っていると、馬鹿なことをしている人がいた。

「お久しぶりです。朝からオーガと力比べですか?」

「おお。将。いや導師か。ひかりに魔力の使い方を聞いて覚えたんだ。体を強化することもできるようになったぞ」


 そんな会話をしていると、サイドから気配を消して近寄ってくる人がいる。

 脅かすつもりで、目視せず、すっと手を顔の前に出す。

「あんっ。将ったら。まだ朝なのに」

「顔の前に出した手を、どうして一生懸命背伸びして、胸で受け止め。さらに離せないように手でがっしりと。揉まないでください。僕の手が間にあるんです。凪さん」


「いや、相変わらずモテモテだね将くん」

「湊士さん助けて」

 だが、その格好が、目に入る。

「なんであんたはコートの下。水着なんだ」

「いや安心して。これ、ブリーフだから」

「なにをどう安心するんだ。単なる変態じゃないか」

 

 だがこの変な2人。超が付く美男美女。

 そして、唯一安心? できる人。賢治さんがやってくる。


 その姿は、着流しで背負子に、白さやの日本刀を満載して背負っている。

「それって、二宮金次郎では? それに鶏モモを咥えているのは?」

「やあ久しぶりだね。将君。君は生きるなんて行為に、何か価値があると、本気で思ってるの? 鶏モモは、しゃも鍋を食べ損ねた坂本龍馬への追悼だよ」


 だめだ。こいつらみんな、おかしくなっている。

 少し前まで、キリッとして、他のチームを指揮し凜とした佇(たたず)まいでみんなの憧れだったのに。


「とりあえず、凪さん。手を離して。指をくわえない。離せ」

 威圧をかけ睨む。


 威圧を感じた瞬間、みんなの目付きが変わる。

「一体どうしたんですか?」


 そう聞くと、みんながその場に座り込む。

 ああオーガは、一瞬で首が消えた。

 ミニスカートで、あぐらを組んでいる凪さんと、パンツの湊士さんは視界から外す。


「それがなあ。気合い入れて攻略して60階目前で、変なモンスターが出てな。女の子に見える…… あっ、そいつ。そいつだぁ」

 そう言ってみんなが、美樹を指さす。


「いやこの子は、うちのメンバーで川瀬美樹。そしてこっちが、村井佳代です」

 そう言ったが、みんなの視線は美樹から離れない。


「あっ。顔は一緒だけど角がない」

 凪さんが叫ぶ。

「そういえば、額に角があったな」


 そこで、みんなの緊張は少し解除され、話を聞く。

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