第35話 理子の逃走

「すごいですね」

 メニューがあって1杯は無料で、ついでに軽食も頼む。

 見るには、テラス席へ移動する。


 中島さんは見たことがないらしいので、ざっと前作のあらすじを説明する。


 映画が始まり、アクションシーンとかになってくると、怖いのか手を握られる。

 それに対し、ドキドキして映画に集中ができない。

 彼女は見入っているから、良かったのだろう。



 どさくさ紛れに手を握り、映画を見ているふりをする。

 意識は、ほぼ右手に集中。

 駆除従事者なのに彼の左手は、柔らかくゴツゴツしていない。

 剣などを使う人は、まめができもっとごつい。


 さわさわと、色々なところを触ってみる。

 ふと、横を見ると、目が合った。

 あからさますぎた? にへっと笑顔を見せ前を向く。

 もう心臓は、ドキドキバクバク。


 映画が終了しても、手を離さない。

「おもしろかった?」

 そう聞かれて、

「うん」

 とだけ答える。


「落ち着いて見られるから、こういうのもいいね」

 そう言われて、また

「うん」

 とだけ答える。


 予定の昼食を飛ばして、買い物へ。

 大型の商業施設へ入り、普通の服や雑貨その辺りで、彼の好みをリサーチする。


 その後。スポーツ関連の場所に併設された、駆除従事者関連の装備や用品を見に行く。


 すごく楽しかった。

 そして、予定していた所では無いがステーキ屋さん経由で、ダイニングバーへ彼を連れて行く。

 そして、私は限界を超え意識を手放す。



「あー困ったな」

 徹夜の割に元気だと思ったが、スイッチが切れたように突然倒れ込んだ。

 チェックを済ませ。

 悩んだあげく、佳代に電話をする。


「他の女とデートして、寝込んじゃったって、普通電話してくる? 信じられないんですけど」

「いやあ。ごめん」

「まあそこで、ホテルに連れ込むような事を、しないだけましか。家へ連れてくる?」

「いいの?」

「断ったら。対処に困るんでしょ」

「そうだけど」

「じゃあ、おいでなさいませ」

 電話を切って、すぐに飛ぶ。


 玄関先で待ち構えていた二人は、なぜかスケスケのナイトウェア。

「リビングのソファーにでも、転がしておけばいいよね。入って」

 そう促されて、中へ入ると、酒盛り真っ最中だったようだ。


「すごいね」

「いやあ。朝寝坊して、追いかけようが無くて、ついやけ酒をしていたの。まあ私は心配していなかったけどね」

 そう言って、中島さんをソファーに下ろした瞬間に抱きついてくる佳代。


 美樹は中島さんの、ジャケットをハンガーへ掛け、首元のボタンを外してる。


 ソファーを一つ占領されたので、一つにすわると両側を固められる。

「さあ。今日の顛末を、語りなさい。先にデート、お疲れの乾杯かな」

 目が笑っていない美樹が、グラスを僕に渡してくる。


 その妙な迫力に押され、しゃべってしまう。

「あらー中島さん。将のこと、本気なんだ。駅前で徹夜で待つなんて、私でもできないわ」

「そうよね。どうしようかしら?」


「気持ちを、本人に聞かせてもらって、話によっては仲間に入れる?」

「そうねえ。でも取り分が減るし」

「取り分てなあに?」

「愛してもらう時間?」

 そう言いながら、佳代が顔を赤くして、顔に手を当ていやんいやんをする。

 僕は思わず、吹き出しそうになる。


「ああ。そうねえ。でも、見習いのうちは見学のみとか?」

「あん? 見習いって?」

「シンさんの魔改造」

「そういや、そうだ。あたしら寿命も違うんだったけか?」

「うんそれに、将に対する愛というか、感度も上げてあるって言っていたの」

 美樹がそう言うと、佳代が反応する。

「あっそれでか。いつも負けるのは」

「そうそう。ねっ将」


「ねって言われても。それは、シンがしたことだから、僕の要望でそうしたわけじゃ無いよ」

「あー。言い訳するんだ」

 美樹がそう言いながら、僕の胸元へ手を伸ばす。

 スリスリとしながら、耳を舐めてくる。


 そういえば、この缶の数。

 かなり飲んでいるんだ。

 僕の太ももには、佳代の手が伸びてくる。


 またかよ。

「そこで、中島さんが寝ているしだめだよ」

「じゃあ。将の部屋に行きましょう」

 そう言って、キスまでし始めた。


「仕方が無い。飛ぶよ」

 そう言って、二人を抱えて飛ぶ。


 間髪入れずに、脱がされ押し倒される。


 おおよそ、3時間後。

 家主のいない部屋の中で、中島さんは目を覚ます。

「おしっこ」

 むくっと起き上がり、部屋が自分の部屋では無いことに気がつく。

「ここは?」

 常夜灯の薄明かりの中、何とかトイレを済ませ戻ってくると、部屋の電気をつける。


 ぼーっと状態を思い出す。

 バーで飲んで意識を失った。

 楽しかった。

 まあそれはいいが、期待したような状況では無い。

「ホテルで放置でも無く、なんとなく、女の部屋っぽい」

 ああ。チームの女。


 理子はすぐに思い当たる。

 テーブルの上に広がる。チューハイの缶。


 やめればいいのに、各部屋を見て回る。

 人気が無いが、将とあの女達が一緒に寝ているかもしれない。

 そんな思いが、彼女を突き動かす。

 見たくはないが、確認したい。


 そして運悪く、美樹の部屋を開ける。

 電気のスイッチを探し、部屋の電気をつける。

 一種独特の、インテリア。


 ベッドの奥には、布がかけられた、見たところ本棚だろう。

 くるっと見回し、将が寝ていないことには安堵する。


 そして、18禁ののれんに気がつく。

「なにこれ?」

 それをめくると、ずいぶんと血なまぐさいDVDタイトルが並び、物騒な道具が飾られていた。

「ひっ」


 そっと電気を消し、部屋から出て行く。

 またも夜中に、玄関を飛び出し闇夜に消えていった。


 見たものは、美樹が買い集めた拷問具などなど。

 某漫画で出た、フィンガーチョッパーなど拷問や拘束具。

 マニアで興味はある。

 集めると言っても大部分はおもちゃで、つい見ると買ってしまう。

 だが決して、自身がそんな性癖を持ているわけではない。

 ただ、将に望まれれば、多分受け入れるだろうが。今のところそんな話は無い。

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