第33話 デート?

 中島さんとの待ち合わせ。

 9時にあわせて、8時45分くらいに到着する様、出かける。


 ふと嫌な予感はしたが、駅前のベンチ前に到着すると予感は当たっていた。

 時間前なのに、フレアスカートのスーツを着た中島さんが、瞬きもせずビシッと座っていた。

 面接会場かな。


 道行く人も、チラチラと見ているが、話しかける人間はいない。


「あ~。すみません。お待たせしました」

 そう言って、思わず頭を下げる。


 中島さんはいつからここに居たのだろうか、音が出そうな感じで首を回し、僕を視認する。

 その瞬間、なぜかビクッとしたが、勢いよく立ち上がる。


「おはよう、ごじゃいます」

「はい。おはようございます。お待たせして申し訳ありません」

 もう一度言ってみる。


「いえ。私も、さっき来たばかりですから」

「いつから、ここで?」

「さっ、3時……」

「3時間前? 6時から?」

「……いえ3時です」

「それは」

「いえ。途中で、おまわりさんとも、お話をしていましたから」

 ……それは、職質では?


「そんなに遅い時間だと、いや早い時間か、危ないですよ」

「はい。すみません。で、申し訳ないのですが、少しトイレに行ってよろしいでしょうか?」

「はい。僕はここで待っていますから」


 来てくれた。

 私は限界を迎える膀胱と戦いながら、トイレにひた走る。

 来たときにすれ違うのが怖くて、あの場を離れる事ができなかった。

 昨日仕事が終わって、家へ帰り。今日の服で数時間悩んだ後、決めきれず。

 色々な妄想が爆発して、ゆっくりめのスーツを選択した。


 入念にお風呂へ入り、いざ寝ようと思ったが、羊を1万匹数えても眠れず。

 今度は寝坊するのが怖くて、眠るのが怖くて。


 ずいぶん、ベッドの中で悩んだ末。

 私は、家を出た。


 まばらになった酔っ払い。その中を1時間以上歩いて、この場所へたどり着いた。

 幾人かの人に、「電車終わっちゃったね。おじさんがお金を出すから、あそこへいかない?」そう言って指さす先はホテル。そんなお誘いを受けたが「人を待っておりますので」そう答え断る。


 途中おまわりさんからも、危ないから出直すか、「あそこに24時間のお店があるから。ここで待つより、時間でも潰してきた方が良いよ」そんな言葉を頂いたが、「申し訳ありません。大事な方との約束。絶対に遅れるわけには、いかないんです。ご承知おきください」そう言うと、渋々離れていった。

「危なそうなときには、すぐ110番してね」

 そう言いながら。


 待ち続け、もうすぐ9時が約束の時間が来る。

 きっと私は、彼が来たとき。

 私は大事なミッションを達成した、幸福と達成感を得る事ができるだろう。

 そんな気持ちに、少し酔いしれ。

 同時に彼が来なかった場合の、プレッシャーを自身で感じていた。


 そして、声が聞こえる。

「あ~。すみません。お待たせしました」

 見ると、普段とは違い、ウオーキングシューズにチノパン。

 ジャケットも。

 全体的に、明るい感じ。

 普段の真っ黒い彼とは正反対。


 だけど来てくれた安心からか、私の膀胱が危険信号を発する。

 挨拶もそこそこに、彼にトイレに行く宣言をしてしまう。

 言い回しなど、考える余裕はない。


 足早に移動する。



 トイレに座って、粗相をしなくて安心していると、外の声が聞こえる。


「あの外にいた、切羽詰まった感じの女の子。居なくなっていたわよ」

「じゃあ、相手が来たのか、諦めたのか。分からないけど、暴れるんじゃないかって売店のみんなや駅員さんも心配していたもの」

「そうなの?」

「うん。始発前から座っていたらしいし、昨日失恋でもしたんじゃないかって」


 あれ? ひょっとして私の事?

 落ち着いて、周りの声が聞こえて来始めると、とんでもない事をした? ここから出たら、電車ではなくどこかお店に行って、予定を考え直さないと、彼に迷惑がかかる?

 理子が、そんなことを考えている間。


「ちょっと、話を良いかな?」

「はい。何でしょう?」

「ここで待っていた女の子。相手は君かな?」

「ああ。多分間違いないです。心配をおかけしたみたいで、申し訳ありません」

 そう言って警官に頭を下げる。


「分かっていたのか?」

「いえ、ちょっと話を聞いたので」

「そうか。君も大変だろうが、やはり危ないから。彼女を気にかけてあげて。あのタイプは、いややめよう。じゃあ仲良くね」

 そう言って、警官は離れていった。


「なんだ? 今の意味深な言葉は?」


 その頃美樹と佳代は、尾行の段取りを考え盛り上がり、ストロング缶を大量に開け、当然爆睡していた。



「お待たせしました」

 そう言って彼女が駆け寄って来た後、返事も待たず、僕の手を取り町中へ向かって歩き始める。


「どうしたの?」

 駅から少し離れたところで聞いてみる。

「ちょっとどこかのお店に行って、プランを練りません?」

「ああそうだね。そうしようか。どこかゆっくりできそうな、お店の方が良いね」

「えっ。はいそうですね」


 検索して、落ち着いた感じの喫茶店を見つける。

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