第31話 頭皮メンテナンス
何というか、色とりどり。
天蓋付きのベッド。
あふれる、ぬいぐるみ。
「どう? どう? かわいいでしょう」
「あーうん。地震が来ても安全だね」
「何それ?」
「いや。ベッドに天蓋は付いてるし、転がり落ちてもかわいいぬいぐるみ達が守ってくれるし」
そう言うと、ぱーっと表情が明るくなる。
「そうなの。この子達、私の癒やしなのよね」
「あの一角は?」
「げっ。見なかった事にして。今日潜るから、武器庫開いたの」
プラスチックの衣装ケースに釘の刺さったバットや、メリケンサック。鋲の打たれたリストバンド。鉢金。等々。
「あーうん。でも今となっては使えないね。それに、見つかるとやばそうだから、収納しておいた方が良いんじゃない?」
「あっ。そうかそうだよね。やっぱり頼りになる」
飛びつかれて、倒れ込むが、かわいい者達に包み込まれる。
「なるほど、やはり安全だ」
そう言って見上げると、入り口にむくみが出たのか、多少目が腫れた美樹が立っていた。
「人を寝かせて、何をしているのかなぁ」
「佳代に、部屋を見せてもらっていたんだよ。倒れたのは、バランスを崩しただけ」
「そう」
まだ、ぼーっと立っている。
「目が覚めたのなら、お風呂行ってくれば?」
「行くけど、その間に何をする気?」
「いやあねえ。何もしないわよ」
佳代どうしてそこで、目が泳ぐ。
「一緒に入ろう」
そう言って、佳代の手をつかみ引きずっていこうとする。
「狭いから無理」
「何とかなるわよ」
「何ともなら…… いえ。良い事考えた。明日デートだし、将のお部屋へ行こう。着替えも持って」
「ちょ、どうしてそうなる?」
「良いわね。そうしましょ」
きびすを返し、美樹が出て行く。着替えを取りに行ったのだろう。
こっちでも、佳代が服を収納しているし。
僕も父さんに連絡をしておこう。
ポチポチしていると、佳代と目が合う。
「どこへ連絡?」
「うん? 父さんに。今日は帰る予定だったから」
「家族と暮らしているんだ」
「ああ仕事を辞めて、収入も不安定だったし」
「前は何していたの?」
「事務系の設備レンタルの営業」
そう言うと、佳代の目が丸くなる。
「そんなに驚く?」
「うん。てっきり格闘家でもしていたのかと思って」
「格闘技はこの3年。必要だったから」
「じゃあ、初めて会ったときは、弱かったんだ」
「そうだね。佳代も怖かったし」
「でぇ、ごめん。今は?」
「今はかわいい」
そう言って頭をなでる。
すると顔が近づいてきて、キスは良いが…… 目線をあげると、立っているよね。
「またいちゃついてる。さっさと行こう」
そう言って抱きついてくる。
電気を消しつつ、玄関へ移動。
途中で、冷蔵庫から数本ずつチューハイが。
まだ飲むのか?
そう思いながら、飛ぶ。
「やっぱり便利。ささお風呂へ行こう」
佳代が、走り出す。
僕も、美樹に背中を押される。
風呂場へ入る直前、服を収納する。
背中を、押していた美樹から、驚きの声が上がる。
「何今の? 収納? 便利」
そう言って自分も、試したようだ。
酔っ払っているから、たがが外れているのかと思ったが、この二人。シンに、僕に対する羞恥心を制限されているんだった。
ほとんど、それって家族だよな。
長年連れ添った夫婦みたいな。
ありがたいのか、ありがたくないのか?
少しは恥じらうから、良いのか。
そんな、訳の分からない事を考える。
先に入った佳代は、男らしい感じで頭からお湯をかぶって、ガシガシ洗っているし、酔っ払いで、そんな事をすると、まずいんじゃないかと心配になる。
「酔ってるし、そんなに一気にお湯をかぶると危険だよ」
僕がそう言うと、こっちを向いてにへっと笑う。
佳代は、実はかなり甘えん坊だ。
かわいい物が好きな佳代は、美樹と出会い。守るために今のキャラとなったが元々はそういう子だったんだろう。
逆に、僕は後ろにいる美樹が、少し分からなくなってきている。
まあ、今のところはおかしくないのだが、そう思いながら部屋の中を思い出す。
美樹が、
「洗って、お返しに私も将を洗うから、洗いっこ」
と言って、椅子に座る。
背中側から、綺麗で繊細な肌の背中に、お尻の方から少しずつシャワーをかけて、体全体を温めていく。
ちょっと怖いだろうが、僕の左腕に頭を乗せてもらい。頭皮をマッサージするように洗っていく。
うん気持ちよさそう。
ちょっと、視界に広がる景色が、僕にとって目に毒だが。
体を起こしてもらって、顔とかを洗っている間に、トリートメントをしていく。
そのまま、頭にタオルを巻いて、スポンジにボディシャンプーを取り、泡立て、優しくなでるように洗う。
本当は、手でなでるように洗うのが良いらしいが、まだすこし僕に抵抗がある。
体を洗い終わったら、体にトリートメントが流れないように、また左腕で頭を支えながら、トリートメントをすすいでいく。このときガシガシ洗ってはいけない。
一応、外にはアウトバストリートメントもあるから、濡れないようにタオルを巻く。
で、振り返ると、仁王立ちの佳代が待っていると。
ええ。僕には分かっていました。
美樹には、湯船に入ってもらい。
同じ事を繰り返すが、さっき自分でガシガシ洗っていたように、あまりメンテナンスをしていないのか、枝毛などが目に付く。
先に、体を洗い。湯船に入った状態で、頭をこちらに出してもらう。
頭皮マッサージをしながら、シャンプーをして洗い流しちょっと悩む。
髪の毛の生え際から、もう一度マッサージしつつ、シャンプーとマッサージブラシを使い頭全体をマッサージしていく。
何というか、普段からガシガシ洗いで適当なんだろう。
洗い流し、今度はトリートメント。
「出るときに洗い流すから」
そう言って、タオルを巻く。
「すごい気持ちよかった」
満面の笑みで、佳代が報告する。
「それは良かった。普段、洗い方が雑すぎ。毛先が結構傷んでるから、メンテナンスしないとバサバサになるよ」
そう言うと、口元までお湯につかりながら、ぶくぶくし始める。
結局、僕は自分で洗い始める。
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メンテナンスしないと、一気に薄くなるんだよ。
体調やストレス。
朝起きて、枕を見ると怖いんだよ。
ええ。ほんとに。
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