第30話 30階記念からの初訪問

 今回来たのは、上品なイタメシ屋ではなく、焼き肉屋さんだった。

 だがまあ、個室設定のお店。


 多少ドキドキはしたが、メニューに載った値段を見て安心をする。

 ドリンク類を先に注文して、乾杯。


 僕は、焼き肉ならビールだよねとビールを注文。

 佳代はウーロンハイで、美樹がレモンサワー。

「30階お疲れ様。カンパーイ」

 そう言って、飲み始めるが、二人ともほぼ一気だ。


 それを見て、佳代が美樹に注意する。

「レモンサワー、きついから抑えないと潰れるよ」

「うん? 大丈夫」

 そう言ってヘラヘラ笑い、二人ともおかわりの注文。


 ついでに、野菜の盛り合わせや魚介、そして盛り合わせのセットがやってくる。


「トロールの丸々した感じが、おいしそうだったのよね」

 佳代がそう言って、肉をのせ始めるが、

「先に野菜。肉は後」

 美樹が仕切り始める。


「順番なんて、一緒だろ?」

「ちがーう。何度も説明したじゃない。どうせ焼くなら鳥から」

「また、こだわりだした」

「そんなことを言って、明日おなかぽっこりになるのは、佳代でしょ」

「そりゃそうだけど、最近はならなくなったし」

 そんな、掛け合いがおもしろい。


 二人をつまみに、僕もビールを追加する。

 ご飯と、タレと野菜。

 野菜と、高タンパクを同時に取ると、血糖は上がりにくい。


 だが実は、どこかのコラムに、痩せるなら、最初に炭水化物を食べ、血糖をあげた方が満足度が早く。食べる総量が減るというものがある。

 だが慢性的に急激な血糖上昇、血糖値スパイクをさせると糖尿病になりやすいリスクもある。難しい問題だ。

 たぶん、美樹が言っているように、野菜と、高タンパクを同時に最初食べ、10分程度経って他のものというのが正解なのかもしれない。


 ご飯を食べながら考えたくはないが、考えないといけない問題。おなかぽっこりと食物繊維と言う事は、佳代は便秘気味なのか?

 そんな事が頭に浮かぶ。


「ふふっ」

 つい笑いが出る。

「あ~変な笑い方してる」

「二人が楽しそうだから。ついね」

「そう? いつもこんな感じだけど」

 そう言って、佳代がにししと笑う。


 そして魚介。

 網を変え、その後に肉と、美樹が見事に仕切っていく。


 それは良いが、二人とも5杯程度飲んでいるが大丈夫なのか?

 レモンサワーは、7%の所に載っていたからストロング系だろ?


 心配していたが、いざ帰り際。

「将ぅ。おんぶ」

 そう言って、美樹が抱きついてくる。

「ずるい。そういう魂胆だったのか」

 佳代が舌打ちしながら、ぼそっと言う。


 結局おんぶして、二人の家に初めて入る。

「お邪魔します」

 ちょっとドキドキしながら、入っていく。

 すかさず、佳代が美樹の靴を脱がす。


「まあ上がって、まともに掃除できていないけど。気にするな」

 そう言って、佳代が笑う。

「あっ。はい」


 そこで考える。どこへ下ろそう。

「美樹はどこへ?」

「んー。もうベッドでいいや。こっち」

 ずかずかと奥の扉を開けて入っていく。


 ベッドに机。結構大きめの本立てがあるようだが、布がかかっている。


 机の上には、時計があるが複数のスケルトンがとりついている。


 ペン立ても、造形がおもしろいな。

 ペンを立てる所は井戸のようになっていて、脇に木が立っているが、枝からひもで人間がぶら下がっている。

 空気が動けば、ゆらゆらと揺れる。

「なかなかシュールだな。こんなのどこで売っているんだ?」

「ああ。気持ち悪いだろ。こんなだから、あたし以外、友人がいないんだぜ。こいつ」

「そうなんだ」

 少し仲間として、つながりが見えた気がした。


「良し。寝かせて」

 ベッド脇で少し腰をかがめると、佳代が美樹を支えて寝かせる。


「力が付いて便利になった」

 両手を見ながら、佳代がつぶやく。

 美樹の胸元ボタンをいくつか外すが、動きが止まり

「やっぱり着替えさせる。冷蔵庫にチューハイがあるから適当に飲んでて」

 そう言われて、部屋を出て行く。


 振り向いたら、ドアの脇にもう一つの本棚があり、18禁と書かれたのれんが下がっていた。

 なんだこりゃ?

 気になりながらも、リビングへ向かう。


 勝手にグレープフルーツのチューハイをもらうが、冷蔵庫の1段が完全に酒で埋まっていた。

 まあ他の段にはサラダや、残ったおかずだろうかラップされた皿や、プラスチック製の密封容器がいくつか並んでいる。

 きちっと生活はしているようだ。


 行儀は悪いが、暇を持て余し、くるっと部屋を見回す。

 ここは共用部分で、あのドアが佳代の部屋かな?


 さっき入ってきた、入り口脇に水回りが集まっているのか。


 やっと緊張がほぐれてきた。

 色々強化されているが、生来の感情に、やはり引きずられるのだろうか。


「おまたせ」

 そう言って出てくると、自分も僕の前じゃなく横にやってくる。


「改めて、お疲れ」

 そう言って、缶を持ち上げる。

 レモンだ。やっぱり焼き肉の後だと、さっぱり系に行くよな。


「どう? 初の私たちの部屋」

「うん。しっかり生活している感じがする」

「それって、褒めてるの?」

「そう」

 そう言うと、じっと見てくる。


「じゃあ良いけど。この前チーム組んでから、慌てて片づけたんだよ。将がいつ来るか分からないとか、美樹が言いだして」


「じゃあ、僕のために?」

「そうそう。美樹の部屋なんか、私怖くて入れなかったもの」

「それはどんな? あっホラー系が好きなのか?」

 そう言うと、人差し指を振る。


「元はミステリーから始まって、中学くらいでホラーに行ったんだよ。そこから、高校でスプラッターで、今はもう怖くて聞けない」

 そう言って、ケラケラ笑う。


「恥ずかしいけど、私の部屋も見る? 見たい? ねえ」

「見て良いの?」


 そう言うと、佳代は少し赤くなり

「うー。引かないでね」

 そう言って僕の手を引き、歩き始める。


 ドアを開けると、何というかキュートな部屋? だった。

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