第29話 お誘い

 多少のずるをしながら、階を進めていく。


 後ろから見ていると、戦闘がずいぶん安定をしてきた。


 意外と、美樹はナイフを使い攻撃する。

 それも執拗に、追い詰めとどめを刺す。

 パターン化されたそれは、時により今倒せばよかったのにと思ったときにでも、わざと逃がして追い詰める。

 楽しんでいる感じが見受けられる。


 佳代に言わせると、美樹は変態だから言ってもだめ。生来のハンターだから、追い詰め切り刻むのが好きなようだ。

 見た目通りなのは佳代の方で、ひたすら何も考えず突っ込んでいく。

 最近は、自分の体を把握して、無鉄砲な所はなくなった。

 前は、佳代が突っ込みかく乱? させている間に美樹がとどめを刺していたようだ。


 じゃあ盾を装備すればよかったんじゃ? そう言ったが

「あたしらは、両方とも攻撃。アタッカーなの」

 そう言って膨れる。


 そして、ウルフ系が来ると、対処ができなくなってドタバタする。

 そんな感じだったが、連携? ができるようになった。

 佳代が完全なおとり。

 向かってきた奴を、横から美樹がとどめを刺す。

 完全に盾役と暗殺者だな。


 まあそれも、魔法を使い炎を撒いて経路を制限。

 釣って、倒す。

 そのパターンが完全になじんできた。



 途中で、鍵を拾い落とし穴を回避して、いよいよ30階。


「ふわーでっかい。それに筋肉すごい」

「見た目があれだが、なんかうまそうだな」

「二人とも、皮は厚いし筋肉がすごいから、打撃もナイフも通じない。どっちも魔力を乗せるか内側からの魔法。それか窒息でもさせてね」

 一応アドバイスを言うが、そんなことは十分承知をしているだろう。


 一応出て行く用意をしながら、僕も準備をする。


 しかし、予想を裏切られ二人ともがガンブレードを取り出すと、フルオートで連射を始めた。

「それはずるいだろう」

 思わず、口をついてそんな言葉が出た。


 あれは、お遊びで創ったもの。

 この地球の物理法則から外れている。

 トロールの、分厚い皮も筋肉も完全無視で内側から破壊していく。


 撃たれたトロールは、訳も分からず霧となって消えていく。


 おもしろいことに、美樹は足や手から攻撃。

 佳代は胸に集弾。


「まあいつも通りか。でもそれはずるいな。没収しようかな?」

「「えー」」

「人がいない所なら良いじゃん」

「そうよ。一度撃ってみたかったの。これすごく、ストレス解消に良いの。すんごく気持ちいいのよ」

「すごくは分かったけど、自分の練習にならないじゃない」

 と言ったが、これから先の階層トロールみたいな奴ばかりだしいいか。

 練習はいつでもできる。


「分かったよ。魔石を回収して協会へ申請しに行こう」



 そして協会へ。

「これお願いします」

 佳代が魔石をカウンターへ置く。

「えっもう30階? ですか」

 登録窓口藤本さんが、目を丸くする。


 受け取ってチェックすると、

「トロールですね。今回もお2人で?」

「そうですね。僕は見ていただけ」

「カードとタグをお願いします。これで、全員横並びになりましたね」

 そう言って、情報更新とタグへの星を追加していく。


「お疲れ様です」

 中島さんが顔を出す。


 何だろう? ちょっとキョドっている。

「鬼司さん。ちょっと時間いただけます?」

「ああはい。良いですよ。じゃあ二人は更新の作業を進めておいて」

 そう言って、中島さんに連れられ会議室へ移動する。



 使用中の札をひっくり返して中へ入ると、

「あっあの、この前の約束。でっでっで」

 そこまで言って、中島さんは胸を押さえて深呼吸を繰り返す。

 過呼吸になりそう。


「デートの話? いつにします?」

 適当な椅子に座りながら、話しかける。


「良いんですか?」

「ええ。そう言う話だったし」

「ええと、今度の休暇は2日後なんですが」

「じゃあその日に。待ち合わせはどこで?」

「近くの○○駅で、9時に待っています」

 立ち上がろうとして、父さんの言葉を思い出すが、デート1回くらいなら別に問題ないだろう。そう心をだまし立ち上がる。


 問題は、ドアの前に張り付いている二人だな。

「それじゃあ。2日後によろしく」

 そう言って、ドアを開ける。


 すでに2人は、フロアの待合椅子に座って何か話している。

 身体能力の無駄遣いだな。

「お待たせ」

「お疲れ様。何の話だったの?」

 聞いていただろ? それに、美樹は笑顔だが目が笑っていない。


「ああ先日世話になって、お礼にデートすることになった」

 父さんの言葉が引っかかり素直に話すことにした。

「他の女とデートだ? 私たちもしていないのに」

「そうよね。許せませんよね」

「そういえば、遊んだ事って無かったよね。今度いくかい?」


「明後日、むこうといくなら、当然私たちは明日だよな」

「そうよね」

 聞いてたこと、さらっとばらしたな。

「二人とも一緒で良いの?」

「当然。一人ずつなんかだったら、お互いに内容が気になるじゃん」

「わかった。待ち合わせはどこに?」

 そう言うと、二人が悩み始める。


「うーまあ。今から30階のお祝いに行ってその間に決めよう」

「うんそうね。そうしましょう」

 そう言って、手を引かれていく。

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