第28話 25階は良いところ

 前回、紅の殲滅隊と一緒に来た25階の砂浜。

 まあ、広く知れ渡っている所では、唯一テントが使える場所。


 かなり場所は広く作ってあるし、下に降りる階段から少し離れると人影もまばらになる。

 そして、海蝕洞窟を抜けて、島の裏へ行くとほとんど誰も来ない。

 この海蝕洞窟、所々水が入ってきているが、光の加減によりグリーンだったりブルーだったり、かなり神秘的な景色が見られる。


「うわーすご。きれー。水が透き通っているし、青い」

「綺麗だろう。ここを創るときに僕がお願いしたんだ」

「それで、このベンチのような、段差が並んでいるのね」

「そうだよ。結構、僕がここにいる時間が長くてね。お気に入りの場所なんだ」

 いつもは、何を考えるでもなく座っている。


 ただ最初の1年は、無知だった僕のために、犠牲になった暁の解放者達を偲んでいたが最近は、あまり思わなくなった。

 シンに言わすと、事情はどうあれ、彼たちが自我を持ったゴブリン達の群れに攻撃した。そして反撃を受けて殺された。それだけだよ。

 そんな言葉が、心の中で繰り返された。


 殺されかかった君が、加害者に同情するなんて人間はおもしろいね。

 今の君に、同じ事が起これば、地球上から一度人間を削除するよ。

 そんな本気とも冗談ともとれるシンの言葉。

 思わず抱きしめてしまったよ。

 君とでは、交尾しても、子孫は残せないよと言った、彼の台詞はおもしろかった。

 珍しく、オロオロしていたが…… あれ? シンて性別はあるのか?

 何かの折に聞いて、いややめよう。


「どうしたの?」

 視線をあげると、目の前に美樹の顔があった。

 そっと、軽いキスをして

「何でもないよ」

 とだけ告げる。


「今晩は此処で宿泊して、明日は30階。トロールくんとの戦闘訓練だ」

「よーし。やっと並べる」

 横で、佳代が気合いを入れる。


 まあここと言っても、裏側の砂浜へ移動する。

 この洞窟は、以外と寒い。


 テントの設営をして、晩ご飯になりそうな獲物を探す。

 だが、湾でも汽水域でもないのに、砂を掘ればアサリにハマグリ。マテ貝にバカ貝何でもいる。

 水温が上がると出てくる、プランクトン性の貝毒もここでは心配しなくて良い。


 炭をおこして、ざっと砂抜きしたバカ貝を並べ、開いたら醤油を垂らしてと佳代に頼む。

 僕は岩ばへ行き、サザエとアワビ。イシダタミガイやスガイ。そして亀の手などを採ってくる。

 イシダタミガイやスガイはそのまま塩ゆでにして。そして亀の手は、おいしいしだしが出るので、塩茹でと味噌汁に分けた。


 最初、亀の手を見たときの、彼女たちの目はおもしろかった。

「それって食えるのか?」

「場所によっては、スーパーとかで売っているよ。父さんが子供の頃は採っても怒られなかったけど、最近はだめみたいだから、ダンジョンの外では採っちゃだめだよ」

「そうなんだ。うまいのか?」

 それは、食べてからのお楽しみ。



 貝だけでは、寂しいので、沖に向けて天秤仕掛けにアサリをさして投げておく。

「何が釣れるの?」

「さあ? 仕掛けは、キス狙いだけど、道糸は5号だから、大きな魚だと切られちゃうね」

「大きな魚?」

「まず、餌のアサリに目当てのキスが、釣れるとするだろう。今度は、それを狙って、ヒラメとかマゴチ。海底にいる魚が食うときがあるんだ」

「へぇー。釣れたらあげても良い?」


 そんなことを、話していると竿先がクンクンと引かれる。

「あっあたりが来た」

「あたり?」

「そう。竿先が引っ張られて揺れているだろ。キスだと口が切れるから軽く合わせてゆっくり巻いてくる」

「キスって口が弱いの? そう。以外と繊細でガンガンに巻くと口のところが切れて逃げちゃうんだ」

 ゆるゆると、巻いてくると砂浜に白く、光により薄く黄色だったりピンクだったり見える魚が上がってくる。


 右手で握りこぶしに親指を立て、グッドサインを作って並べる。

 15cmより少し大きいくらい。

「かなり小柄だね。天ぷらとか作るには良いか」

 バケツに海水をくみ。

 その中へ、魔法で氷をガラガラと作りキスを放り込む。


「今のはなに?」

 そうして、グッドサインをしてくる。


「ああ大きさを見ていたんだ。グッドサインなら15cm位。そのまま第1関節を曲げれば12cm。握りこぶしなら10cm、人差し指から薬指までは大体5cm自分の体で長さを確認しておくと何かの時に便利だよ」

「ヘーそうなんだ。便利。でもどうして、そんなの覚えたの?」

「あー。前職が営業なんだけど、向いてないなと思って、手に職というか第二種電気工事士技能試験を受けたんだよ。ところが、実技で時間が足りなくて、人を見たらほとんどみんな測っていなかった」

「ああ握った瞬間に長さが分かる人と、いちいち測る人。それは、差が付くわよね」

「そうなんだよ。それから、利用できるものは色々利用しようと思ってね。ダンジョンでも魔法を工夫してとか」

「それが、さっきこっちへ渡ってくるときに使った、雷球へ繋がるのね」


 その背後では。

 仲良くお喋りをしている二人に、焼き餅を焼いた佳代。

 ビールを片手に武器として携え、バカ貝の醤油焼きとハマグリがどんどん殲滅されていた。

 サザエは、苦いからという理由で、殲滅を回避できたらしい。


 そして僕たちは、仲良く貝掘りをする。

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