第25話 昇級と騒動

 一応、基本的な体術は、見せたし教えた。


 聞けばまだ、初級駆除者だと言うことなので、10階のオークくん撃破に向けて9階で鍵と魔石を集める。

 対象は特別種だが、居場所は分かる。

 これはずるではなく、周辺のサーチで見つけることができる。


 なるべく僕は、手を出さず見守る。

 無論、アドバイス程度はする。


 ウルフ系なら、火を嫌うから、火の玉をトラップとして、経路を絞りこちらに誘い込むとか、そんな基本的なこと。

 ゴブリン系は、力はあるが鈍いので、スピードで圧倒できるし、拳を打ち込んだ瞬間に、魔法を内部で発動すれば簡単に倒せる。



 魔石の数がそろったので、一度協会へ顔を出し、9階の修了認定をもらい、10階へ向かう。


 と言っても、部屋にいるのは、オークくん1匹。

 しばらく、2人のために練習相手として、体術を受けてもらう。


 立ち上がれば、膝を狙われひっくり返され、ゲシゲシと蹴られ、また立ち上がる途中で、佳代の蹴りが顔面を襲う。

 かわいそうなくらいの、ボコられ状態。

 だが丈夫なため、なかなか死ねない。


 最後には、美樹の放ったパンチから、魔法を撃ち込まれ頭が燃やされた。


「完勝だね。蹴りもよくなったし、魔法もよかった」

 そう言うと、頭が近寄ってくる。

 二人の頭をなでる。


 転がっている魔石を拾い、11階への扉を開ける。


 僕にとっては、見慣れた風景だが、二人はキョロキョロしている。

「今日は、これで帰って、ライセンスの更新だね」


 手続きをした後、お祝いをせがまれ、二人がよく行くパスタ屋さんへ移動する。


 今度は、入ったことがない店の雰囲気で、僕が緊張をする。

 違った物を注文したので、一口づつの食べさせ合いなんかをして、僕は夢じゃ無いかと何度も頬をつねってしまった。


 2人を、家のそばまで送り、僕も帰宅する。


 途中で、人気の無い公園に入ると振り返り、

「そろそろ、良いんじゃないか?」

 そう言って振り向くと、駆除従事者だろう、5人ほどがわらわらと出てくる。


「てめえ。何、後から出てきて、チームを組んで。食事まで」

 中の一人が、叫んでくる。


「二人のファンかな?」

「いっ今はそうだが、そのうちお付き合いをする予定だ」

「なにっ。それは聞き捨てならん。見守る仲間だろう。誰かが抜け駆けすれば、誰かが不幸になる」

 僕は、彼らが、言い合っている状態を眺めている。


 シンと開発した、精神力強化が今頃効いているのか?


 僕をほったらかして、言い合いは続く。


「美樹ちゃんは、俺の物だ。俺と結ばれる運命なんだ」

「何だと、おまえなんか、相手にされるわけがないだろう」

「美樹ちゃんは、俺に渡して、もう一人の佳代に尻でも蹴られていろ」

「馬鹿野郎、佳代とは何だ、佳代様と言え。あの冷たい目に贖える奴はいない。蹴られるなんぞ、ご褒美じゃないか」

 一人がそう言うと、一瞬輪が広がる。


「おおそうか。がんばれ。俺は、佳代ちゃんに普通に付き合ってもらう。ああいう子はな、意外と2人の時は、かわいく甘えてきたりするんだよ」


 ああ。そういえば、そうだな。

 甘えんぼのところがある。

 最初に、頭をなでてと言ったのは、佳代の方だった。

 そういうものなのか、やはり僕は、色々なことについて勉強不足のようだ。


 言い合っていたのだが、やがて中の一人が、僕のことを思い出したようだ。

「何を一人関係ないみたいな顔をして、笑ってやがる。大体おまえが、不可侵を破って彼女たちに近づいてのが悪いんじゃないか」

 食いつくような勢いで、叫んでくる。


「そんな物があるとは知らなかったが、彼女たちの方が僕の所へ来たんだ。それに彼女たちは、僕のチームメイト。そして付き合うことにもなった。手を引いてくれないかな?」


「何だよその勝手な言い分は。信じられるか。おまえみたいに弱っちそうで暗い奴。きっと、かの女達の優しい優しい心が、ひ弱そうなおまえに対して、庇護欲か母性本能でも発揮したんだろう。ずるいぞ。何なら俺たちが守ってやるから、彼女たちから離れろ」


 まあ、よくそんなことまで考えつくな。ある種感動してしまう。


「じゃあ僕が、君たちより強ければ良いのかい」

 おっと、シンの口調が移ったか?


「俺たち、5人。地獄の番人に勝てると思うのか? 10階のオークを倒せば中級になれるんだ」

「地獄の番人ね。ケルベロスが、オークに負けるのか」

 僕がそう言うと、睨んでくる。


「あの筋肉に刃が通れば、殺れるんだ」

「そうなんだ。魔法は使わないのか?」

「あんなおもちゃ。実践じゃあ、役には立たない」


 相変わらず、魔法の評価が低いな? どうしてだろう?


「ヘラヘラ笑うな」

 そう言って、一人が殴りかかってくる。

 手首をつかみ、引きながら下方へ押し下げる。

 それだけで、コロコロと転がっていく。


「こいつ、武道か何かやってるぞ。囲め。同時ならさばけない」

 周りに展開してくるが、待つ気も無い。

 僕を見ながら、円状に移動するから足をかけてみる。

 相手は躱せず、そのまま体勢を崩して転がる。


 すぐに、横にいた奴の手首をつかみ、体の正面向けに一度引いて重心を崩し、引き上げつつ背中側へ回り込む。

 それだけで、ひっくり返る。


「うん。重心の移動が安定していない。もっと、腰で安定させないと」

「何を偉そうに」

 そう言って、殴りかかってくる。


 外側に躱して、手首をつかむと、相手の手首を固めて小手返しに持って行く。

 体勢が崩れたので、途中で手を放す。

 もう一人の軸足に、蹴りを入れて足を払う。


「まだ、やるのかい? 人が来たから、もうやめた方が良いんじゃないか?」

 そう言うと、周りを見回すが、暗さのせいもあり、見えなかったようだ。

「ふかすんじゃねえ。誰も来ちゃあ、いないじゃないか」



 来ているんだけどな。

「あら? けんか? その格好は、駆除従事者かしら?」

 あら、来たのは中島さん?


「中島さん。女の子が、こんな所を通ったら、危ないですよ」

 彼らを誘うため、人気の無い公園へ入ってきていた。

 まあ、すぐ向こうには道路があるが、木々の為こちらを直視はできない。


「誰かと思えば、鬼司さん?」

「ええ。数時間ぶりですね」

「あなたみたいな有名人が、けんかなんてだめですよ。まあ囲まれているようなので正当防衛かな?」


「ちっやべえ。散」

 そのかけ声で、連中は見事にバラバラとなり逃げていく。

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