第20話 目撃

「ねえ。あれじゃないフードの私って?」

「あっ。ねえすいません」

 声をかけると止まってくれたが、一言もしゃべらずこっちを見てくる。

 縦に割れた虹彩、外国人な美人さん。だが、顔にも毛が生えている。

 完全にモンスターだけど、襲ってくる感じもない。


 そう。目撃情報が出ていたのは、改造前の全くもって川瀬美樹。うり二つバージョン。テストがてら行動させると、思ったより目立ち、耳をつけたり毛を生やしたりしてみた。将が見せてもらったのはその後。

 川瀬、村井の二人が出会った今のバージョンは、改造された美人さんバージョン。


「うわー美人。この人?が私に見えたの?」

「他には、居なさそうだけど。美樹とは見間違えないよなぁ」

「何それ?」

 そう言って、美樹は佳代のほっぺをぐにぐにする。


 そんなことをしていると、すすっと逃げてしまった。


「あっ逃げた。でも、追いかけているのって黒の道化師。名前何だったっけ? チームのボス」

「ああ。そういえば、幾度もナンパしてきてうっとうしかった奴ね」

「さらに目線の先に。あの後ろ姿は、無への導師様。私はなぜか後ろ姿しか見たことがないのよ」

 そうぼやく佳代だが、なんとなく美樹は、理由に思い当たる。


「追いかけよう」

 そう言って二人は、追いかける。


「これ分かっていて、誘っているわね」

「そうね。この先。謎の部屋に向かう所でしょ」

 ダンジョンの至る所にできた謎の部屋。

 細い路地の奥に、突然広い空間ができた。

 一見、休憩やキャンプができそうだが、出入り口は一本モンスターが来れば逃げ道はない。

 まあ、モンスターだけではなく、閉空間で黒の道化師みたいな奴らに、囲まれても終わりだ。

 そのため、近づく者はいない。


「あれ? モンスターちゃんが、あいつの前に回り込んだ。いやーあ。もろに、あれじゃない」

 黒の道化師のボスの前に回り込み、おもむろにローブの前を開く。

 ガバッと開かれた豊かな胸の間に、すじが現れ、開いていく。

 

 そして、開ききった形は。

 ボスは誘われるように、ふらふらと近づいていく。

 すると、周辺に凶悪な歯が生え、がっぷりと食われる。

 ボスは、頭を突っ込んだまま痙攣を始める。


「ああっだめ。早く逃げよう。美樹。美樹ってば」

 ふと見ると、わくわくした感じで美樹は現場を見ている。

「ああこの子、スイッチが入っちゃった。どうして、ホラーとかスプラッタが好きなのよ」

 佳代は力を込め、美樹を引きずって現場を離れる。



 将が戻ってきたのはその後すぐ。

「食べちゃったんだ。それにやっぱり、絵面がよくない。口なんだけどね」

 そう言って無に帰す。


 食べ残しは、吸収されるか。

 そう思い、現場を離れる。



「どわー。すごいもの見ちゃった。リアルよあれ」

「はいはい分かった。私たちも、いつあんな事になるか分からないから、気をつけましょ」

 そう言って、通路から出てきたが、まだ、通路の入り口は見ている。

 血だらけのモンスターちゃんが、出てくるかも。

 そう言って、美樹が離れないからだ。


「出てきたら、通報しに行くよ。あの子かわいいけれど、すごく危険だわ」

「分かったわよ。でも、あっ出てきた。あら? モンスターちゃんじゃない」

「あっ。あれ? あの顔見たことがある? 誰だったっけ?」

 そんなことを考えていると、美樹が走って行く。


「ちょ。まってよ」


「先日は、ありがとうございました」

「ああ、あの後は大丈夫だった……の?」

 目の端に、もう一人言動がヤンキーな、もう一人が走ってくるのが見える。


「はい。あの」

「じゃあね」

 そう言って、逃げようとしたが、コートを捕まれた。


「げっ。放して」

「逃げないで。おねがい」

 うっ。そんな顔して見ないでください。お願いします。

 免疫のない男には、贖えない。


「あの奥には、モンスターがいたでしょう?」

「ああ倒したから。大丈夫」

「その格好。無への導師様」

 ああ来ちゃった。また、ギャンギャン言われる。

 そう思い身構えるが。導師様?


「導師様。あれっやっぱり。見たことある」

「それは何よりです。幾度か会いましたから」

 導師様の雰囲気が変わって、なぜか卑屈なよわっちぃ感じに??


「あっ。あいつだ。よわっちぃ僕ちゃん」

「何言っているのよ? 私たち助けてもらったでしょ」

「そりゃ、そうだけどよ」


「改めて、幾度も助けていただいて、ありがとうございました。それと、佳代が初めての儀式? をじゃましちゃってごめんなさい」

「ああ。そんなこともあったね」

 そう言われて、僕はすこしうれしくなった。

 些細なことだけど、覚えていたんだ。

 こんな僕との、ちょっとした交わりなのに。


「私、川瀬美樹です。よろしくお願いします」

 そう言って、手が出てくる。

「あっ。僕は鬼司将です。こっこちらこそ、よろしくお願いします」

 握手しながら、自己紹介をする。

 なんて、幸せ。

 心臓が騒ぐ。口の中が乾く。これは緊張か? やばい、しゃべれなくなれそう。


「あの、手。すごい汗ですけど、大丈夫ですか?」

「あっ、手。汗。ごっごめんなしゃい」

 げっ。かんだ。それと汗。

 慌てて、手を放しハンカチを渡す。


「ふふっ。鬼司さんておもしろい」

 あんなに強いのに、反応が高校生みたい。

 あれ? 以外と、年が若いのかしら?

「鬼司さんて、おいくつなんですか? あっすいません。いきなり」

「ああ大丈夫。えーと。いま27歳だね」


 そう言うと、横から声が聞こえる。

「みえねー。結構童顔なんだ。やってることも、どうてーぽいけど」

 思わず、膝の力抜ける。

「すいませんね、童貞で。あっ」

 目の前で、二人が吹き出すのを我慢している。

 俺はなんて言うことを……。

 

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