第18話 謎

「黒の道化師が解散したようです。届が協会に届きました」

 受付さんが、書類を担当係長へ持ってくる。


「解散した? どうしてまた」

「不明です。事由については明記されていません」

「つい最近も、彼らについて苦情が来ていたはずだが、これだな」

 そう言って、紙の束が出される。


「10階以上で、奴らがたむろしている。怖くて近づけない。だな」

「噂によると、未確認のモンスターに壊滅させられたようです」

「モンスター?」

「ええなぜか、詳細は不明です。みんなが、ただ一言。ダンジョンはもういやだと言っているようです」

「ふむ。できれば、その未確認のモンスター。詳細を入手したいが無理そうかね?」

「一応、聞き取りは、行ってみます」

「頼むよ」



 黒の道化師事務所。事件当日。

「何だよおまえら、ガキ一匹にやられたのか?」

 関わったメンバーは、全員ひどい格好で、ふらふらとなんとか歩いて帰ってきた。

 一見、大多数は怪我などはしていない。服はボロボロだが。


「すいません。もうだめです。ダンジョンが。ダンジョンがあんな……」


「何があった? 野郎はどうなった? やつにボコられたんなら、それを協会に伝えて、賠償請求をしなきゃならん」

「やめましょう。やつの後ろには、あいつが。そうだよ。どうして気がつかなかったんだ。やつを、ボコっているときに…… あいつが励ましていたじゃないか。やつは、ティマーじゃなくモンスターを作れるのか? そうか、それなら納得ができる。手を出しちゃだめだったんだ」


「何を言っているんだ? きちっと説明しろ」

「だめです。ここにも来るかもしれねえ。俺はもうチームを抜けます」

「「「俺たちも抜けます」」」

「何だよ、ふざけんな!! 何があったか言えよ」

「いえません。恐ろしい。やつにか関わると、恐ろしい目に遭います。やつには関わらない方がいい。それだけは、言っておきます。じゃあ」

 そう言って、みんなメンバーが出て行ってしまった。


「ふざけんなよ。訳分かんねぇ」

 その後、メンバーを集めようとしたが集まらず、チームとして5人以上という規定を満たせないため解散届が提出された。




「シンごめん。君の創ってくれたモンスターは、心優しくてずいぶんありがたかったけれど、無に帰したよ」

「うん? ああ見ていたよ。経験によるトラウマというのはやっかいそうだな。僕には分からないけれど」

「僕自身もびっくりしたよ。動こうと思っても全く体が動かなかった」

「と言うことで、紹介しよう。将の2号君」

「2号? 聞こえが悪いな」

「そうかい?」


 そういう、彼の傍らに彼女の顔を持った人物が一人。

 前回と違い、3mを超える巨体でもない。

 身長は、160cm前後。

 ただ頭に、ぴょこんと猫耳がある。


「君たちの感覚では、かわいいだろう」

「確かに、かわいいけれど。本人が見たら……。きっと迷惑がかかる。顔は変えない?」

「えー、まあいいけど。君らの言う美人系にしようか」

 そう言って、シンはいじり始める。


 できあがったのは、北欧系美人。

 銀髪で、虹彩が縦に割れているのは、ネコ科の因子のせいか?

「どうだい? これでいいかい」

「ああ美人さんだな。ところでそのままなの? 服は?」

「全身に毛が生えているから、必要ないだろう?」

「胸だけ、生えていないじゃない」

「そりゃ、生物的に言って、授乳時に邪魔だろう」

「そうだろうけれど、目のやり場が」

「体は、スキャンしたから、彼女のままだし、君がそう言うなら服を着せようか」

 彼女のスキャン? へええ。結構胸が……。いやいや、だめだろ。今度会ったときにドギマギしてしまう。



 それ以降、連れて歩いているわけではないが、彼女が僕の周りをうろついている。フードを目深にかぶっているので、見た目は単なる駆除従事者に見える。



 そして僕にくっついているやつが、もう一人。

「ちくしょう。あいつにせいで、チームがなくなっちまった。何があるって言うんだ」


 僕が誘うように、通路の奥へ入っていくと付いてくる。


 途中まで、しっかり付いてきていたようだが、やがて、途中から付いてこなくなった。

「あれ? おかしいな」

 来た道を、少し戻るとフードをかぶった彼女が、座り込んでいる。


 バキバキ、しゃぐしゃぐと音が聞こえる。

 いやな予感がして、のぞき込むと。

 ああやっぱり、付いてきていた男が一人、食われていた。


 シンが強くないとね。と言ってつけた機能。

 上半身。そこに縦に大きく開いた口。

「食べちゃったんだ。それにやっぱり、絵面がよくない。口なんだけどね」

 シンは、前に言っていた形状を組み込んでいた。

「どう? ドキドキする? 」とか言って。


 ぼくは、彼女の頭をなでながら、無に帰した。



「ありゃ。帰されちゃった。もう。何が気に入らないんだろうね」

 そう言って、シンは実験室に戻っていく。


 僕は考える、胸のドキドキが止まらない。

 彼女の、知らないところで。

 シンのいたずらだが、彼女の詳細な情報を知っていいのだろうか?


 今度会ったら、きっとまともに顔を見られないだろう。

 僕はそう思いながら、通路を出て行く。


 この日、完全に黒の道化師はなくなった。

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