第17話 将の成長

 これは、過去の経験によるものか。

 精神的なものも、強化しているのにな。

 彼の能力。暴走で干渉しないよね。

 幸い近くに……い。やば、さっき送ったモンスターが居る。


 その頃、僕は自身と戦っていた。

 まるで、どこかの気弱な主人公。

 逃げちゃだめだ。動け僕の体。


 どうして、しゃがみ込み、頭を抱え。ただ殴られているのか。

 収まれ動悸。

 俺は強い。強くなったんだ。


 そんな時だ、声が聞こえる。

「将。何をしているの? 優しい人。あなたは強くて躊躇っているの? 人を傷つけるのが怖いのね。きっと。でもね、囲んで人に一方的に暴力をあたえる奴らに遠慮しなくていいのよ。殺っちゃっていいのよ。遠慮せずに……さあ、顔を上げて御立ちなさい」


 すごく優しく、心に響く声。

 少し顔を上げて、見る。

 あのモンスターが立ち上がり、サムズアップ。

 胸の顔は、天使のような、ほほえみを浮かべている。

 


 まわりで、殴る蹴るを繰り返していた、奴らの動きも止まり、モンスターを見ている。

「あっ。あれ、なんだよ。いつから居たんだ?」



 そして、胸の顔が

「わたしは、あなたを見ていてあげる。将。立ち上がって」

 そう囁くように優しく言う。


 その瞬間。仮面の奴らが、振り返り俺を見る。


「なんだよ、おまえ。その顔は……」


 俺は殴られながら、泣いていたようだ。

 手で拭い、はじめて理解する。


 笑っていた。

 この状況で。

 シンが、僕の為に創ったモンスター。

 まさか、慰められ、勇気をもらうとは。


 最高だよ。受け入れる事は出来ないけど。


「笑っているんじゃねえよ」

 そう言って、また殴って来る。

 手を内側から払い。腹へパンチを入れる。


「なんだ。動くじゃないか」

 自身の体が、動く。それだけで、少し驚いた。

 ただ、力加減を間違えたのか、相手の腕を折ってしまった。

「大丈夫ですか?」

 そう聞くが、返事はない。

 仮面のせいで、表情も見れない。


「このやろう」

 次々に、襲ってくる連中を見る。

 スピードもない。大したことの無い連中。

 あの動かなかった体が、動く。

 まだこわばりがあり、スムーズとはいいがたいが、動く。


 なんだよこいつ。

 へらへら笑って、気持ち悪い。

 なんだよ、そのスピード。

 同時にかかる、4~5人のパンチや蹴りが、全く当たらない。

 わずかな動きだけで、すべて躱される。


 力加減が分からない。

 さっきだって、流す感じで、内側から右手を添えただけで、相手の腕を折ってしまった。

 このくらいかな?

 蹴りを、ブロックする。

 当然の様に折れる。

 脆い。

 どうすりゃいいんだ。



「あれぇ。動き出したんは良いけれど、さっきのドーパミンの影響かな。タガが外れているな。体の制御。練習するにはいいかもね。頑張れ」

 シンはなぜかほっとして、お気楽に声援を送る。



 僕が必死で、体の使い方に悩んでいると、奥の方から悲鳴が聞こえ始める。

 あのモンスターが、動き始めていた。

 マスクの男を捕まえ、ひん剥いて。躊躇なく、やばいことを……。


 あれはやばい。

 仮面のせいで、表情は見れないけれど。

 あの男は、終わったな。

 胸につけられた、天使の微笑みが、余計に怖い。


「おっおい。あのモンスターやべえ。掘られるぞ」

「おい逃げよう。こいつらつるんでいるみたいだし。ティマーかよ」

「おい何やっているんだ。出口で止まるな」

 出口の奥から、声が聞こえる。


「無いんだ。通路が無くなっている」

「おっおい。ふざけるなよ。来てるんだよ。ぎゃあぁぁ」


 ぼくは、相手が居なくなり、ぼーっと連中の阿鼻叫喚を見ている。


 ふと見下ろす。蹴られた足跡などが気になり、パタパタと服をはたく。


 しかし参ったな。

 昔のトラウマか。まさか体が動かなくなるなんて。

 訓練をして、精神的にも強くなったはずだったのにな。

 すこし、体を動かしてみる。

 あっ、いつもより動きが早くて、力も乗っているな。

 これで殴ったら、骨もおれるか。

 

 いつもの感じと違うな。平安2段を流してやってみる。

 そんな事をしていると、心も落ち着いて来る。

 周りの雑音も聞こえず、没頭する。


 よしよし。これで良い。

 体の状態も分かった。


 そして、自己逃避をいい加減やめて、周りの惨劇を見る。


 見ちゃ、ダメだった……。

 ここでは、己の世界にこもり、周りに目を向けては駄目だった。


 阿鼻叫喚は終わり、静かになっていたが、彼らはきっとまともには暮らせないだろう。

 とてもじゃないが、詳細は語れない。

 ただ武器は、直径10cmはありそうな凶悪なもの。

 そんなもので、攻撃されれば壊れてしまって当然。


 満足そうに、ガッツポーズを決めているモンスターに近寄り、

「ありがとう。君の応援はしっかり僕に届いた。本当にありがとう」

 そう言って、僕は彼を無に帰す。

 シンには悪いが、こいつはこの世にいてはいけない。


 とくに、目撃されれば、彼女にも迷惑がかかるだろう。


 口止めの為にも、彼らの人生を終わらせた方が、と一瞬思ってしまったが、彼らは人間。モンスターではない。

 この惨劇と、やられたことで、少しおかしくなっているのか?


 閉ざされた空間から、通路を復旧させ逃げ出すように出ていく。



 あらまあ、せっかくの自信作がリセットされちゃった。

 次回作はどうしよう。

 女性型でかわいい感じかな。

 でもパワーは欲しいよな。

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