第16話 思惑
シンと将がじゃれていた頃。
チーム黒の道化師事務所。
「最近、無への導師とか呼ばれて、調子くれている奴が居るんだって?」
「いますね。ソロで30階を越えているみたいですよ」
「そんなにつえーのか?」
「みたいですね」
「みたいです。じゃねえよ」
初期は指名もあったが、勝手に金銭請求をしたり、ガイドする女性を襲おうとしたり、15階層で縄張り宣言したりで、協会のブラックリストへ乗って一切指名が無くなった。
そのため少人数のチームを囲み、脅して上前を撥ねたりしている。
「ソロで多少強くても、人数で囲んで脅せば、何とでもなるだろ。どんな奴だ?」
「みた感じ、気弱そうな兄ちゃんで、20歳すぎくらいですかね」
「なんだよ。ねんねのガキか。さっさと教育して金を持ってくるように、しつけろよ。社会勉強だ」
「いや、訳の分からない力を持っているんですって。魔法も使うみたいですし」
「魔法なんぞ数発撃ったらだるいわ頭痛はするわで使えなくなる。盾役が仕事すればいいだけじゃねえか。うだうだ言っていないで行ってこい」
「えっ。団長は?」
「馬鹿野郎。おれは、みーちゃんに、プレゼントを買わないといけないんだ。デートだよ」
ああまた、嬢に入れあげてんのか。
ぞろぞろと、怪しい集団がダンジョンを徘徊し始める。
「最近、10階以上で、道化師がうろついています」
協会で噂が出始める。
「また何か、悪いこと考えているんでしょうか?」
「あのピエロのお面の連中」
「ああ道化師だよ。フロアエリアだとまだましだけど、ケイブタイプで出会うと服装が黒だろ。お面だけが浮いている感じで、結構怖いんだよ。あいつら、カツアゲしてくるしな」
「ケイブってお前、洞窟って言えよ」
「とっさに、出てこなかったんだよ」
当然、ボッチの将は、そんな事は知らない。
最近、雰囲気がおかしいな。
それは感じていた。
「おいあれだろ」
「ターゲット確認。行くぞ。この先にある行き止まりのホールへ連れ込め」
「「「おう」」」
お気楽に歩いていると、1人2人と横にお面達が並んでくる。
「なにか、ご用事でしょうか?」
将は聞くが、相手からの回答はない。
目的と違う方向へ導かれる。
こっちは確か、少し広いホールがあるな。
シンが作った休憩エリアか。
前に話していて、各階層に一つは泊まれそうな所を作った。
だが、不便なため人気はない。
奥まりすぎなんだよな。入口はひとつ。複数のモンスターが来れば逃げ道はない。
改善策を言おうと思っていたけど忘れていた。
自分の常識の無さも大概だけど、シンも興味がないことには本当に無頓着だし。
少し前に見た、女の子の顔つきモンスターを思い出す。
あんなの相手に、どうしろって言うんだ? 思わず思い出して笑ってしまう。
なんだこいつ。この人数に囲まれて笑ってやがる。
きもちわりぃ。
おりょ。将の周りの奴ら、ちょくちょく僕の実験を邪魔する奴らだな。
彼らが居ると、行動規則が乱れるんだよな。
将を囲んで何をするつもりかな? 面白い。介入しよう。
嬉しそうに、モニターするシン。
奥へ入っていると、背後で通路が閉じられた。
シンか。
こいつらは気が付いていないし、どっちもこっちも思惑があるのか。
乗ってみるか。
やがて奥へ行くと、見たことのあるモンスターが座っている。
暗いため、周りの連中は気が付いていないらしい。
そもそも、暗い所でそのお面は駄目だろう。
「おーし。良いだろう。最近調子くれてる無への導師はお前だな。俺らは黒の道化師だ」
「道化師さんが何の用事でしょう?」
「おまえ、稼いでんのに上がりを納めないじゃないか。延滞含めて100万持ってこい。そうだな、それにこれから毎月10万だ」
「そんなルールは、聞いたことが無いんですが」
「聞いていないのは、お前の落ち度だ。俺らの知ったこっちゃねえ。社会の決まりだ」
そう言うと、周りを囲み始める。
ざっとで、25人? 倒すのは簡単そうだけど、人間相手かどうしよう。
「聞いてんのか、おら、無視すんじゃねえ」
そう言って、一人殴りかかってい来た。
へなちょこパンチ。
躱して、と思ったが、なぜか体が動かない。
勝手に、体が身を縮める。
「なんだこいつ。反応が。いじめられっ子か」
そう言われて、思い出す。
殴られると思った瞬間、過去のトラウマか体が勝手に反応する。
シンに強化され、精神の方も強化改善されたはずなのに。
動けよ。何やっているんだ。
「おら。ぼくちゃん。何やってんだよ」
様子を見て、ビビっていた奴らまで、手を出し始めて来た。
強化された体は、痛くもかゆくもないが、動かない。
なんだよ。僕の体。なんだよ。
うごけ。うごけ。うごけぇ。
殴られても、痛くもない。
強くなっているんだ。
こいつ等なんか、瞬殺できるだろうぉ。
どうして、動かないんだ。
ありゃ、将は何をしているんだ? 何か考えがあるのか?
ふむ。ちょっと見ておくか。
バイタルは、心拍増加に発汗。身体的緊張。ドーパミンの過剰分泌と偏桃体の反応。これは恐怖? 将がこの程度の相手に恐怖を?
おもしろいな。
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