第15話 シンの心遣い

 あれから少しして、普通に暮らすには問題が無いことを確認した。

 よかったよ。某星からやって来たヒーローみたいに、時間が来たらダンジョンへ戻ることになれば困ったことになる。


 不安定な仕事だが、結婚願望も一応ある。

 もう28歳だしな。


 何処のダンジョンでも、1階から3階までは比較的女の子もいる。

 ところが3階。つまり初心者から初級駆除者になる辺りから激減する。


 なんだろう。この前、紅の殲滅隊を案内した時に聞いたが、機械的にモンスターを倒すのが嫌になるそうだ。遺伝的には、単純作業が苦手なのは男の方が苦手だった気がするが、その辺りはどうなんだろう? 殲滅隊のかれは、飽きたときのいいわけだろと言っていた。男って気に入った店には、よっぽどのことがない限り通い続けるしな。


 そうして、3階。スライム、ゴブリン、ホブゴブリンたまにメイジやソルジャーがでる。と言っても3階。メインはゴブリン。


 そこで、よくある声が聞こえる。

「きゃあ」

 3階は、2階までと違い、大フロアではなく洞窟型。多少迷路的に枝分かれしている。


 声が聞こえたのは…… 非常にまずい。

 確か、この奥は、行き止まり。

 たまに、トイレの代わりになっている。

 排泄物への、ダンジョンの反応は速やかで、すぐ吸収と処理が行われている。

 言い方は悪いが、飼育環境は重要だよ。とシンが言っていた。

 いや、そんなことは良いが、どうしよう?


「だれかぁ。佳代居ないの?」

「すいません。佳代さんじゃないけど、助けに行きます」

「えっ、男の人? ちょっと待って。きゃあ。このゴブリンいやぁ」


 距離は無いけれど、少し入り組んだ道。

 ゴブリンが、女の人? に、のしかかっている。


 そっと無に帰す。

 煙になって消えていくゴブリンの向こうに、手でゴブリンを遠ざけていたのだろう。

 仰向けで丸まり、手と足は多少曲げているが、空に向かっている。

 トイレの途中だったのだろう。

「ゴブリンは退治しました。ごゆっくり」

 そう言って、通路から出る。


 一応出てくるのを待って、離れようとしたとき、

「ありがとうございました。それで、すみません。浄化魔法って使えませんか?」

 ああそうか。

 返事を返す代わりに、浄化をする。


「ありがとう。ございます」

 改めて真っ赤になっている彼女の顔を見たとき、見たことがある? この子は確か?


「あっ、やろう。ナンパか?」

 こっちも覚えがあるな。

 この3年。幾度となく人助けはしたが、あっそうだ。こいつ。初めてを邪魔したやつだ。

 逃げよう。

「じゃあね」

 そう言って、走り始める。


「あっ、逃げるな。はやっ。何だありゃ。本当に人間か?」

「もう。佳代ったら。助けてくれた人だったのに」

「助けてくれた?」

「そう。ゴブリンに襲われて」


 そう言うと、佳代は目を丸くする。

「えっごめん。少しだから良いかと思って、トイレに行っちゃった」

「でもすごかったな。何もしていない感じなのに、ふっとゴブリンが煙になって。あれも魔法なのかしら?」


 私がそう言うと、何か思い当たったのか、

「それって、そうか黒のコート。ソロの上級者。無への導師っていう人だよ多分。しまった怒鳴っちゃった。話したかったぁ」

 そう言って、悔しがる。


「でもあの人、私見たことある。多分そう。すごく強くなったのね」

 記憶に残る、気の弱そうな顔。

 少しおどおどして。

 でもあまり話もせず、逃げ出すのは変わらない。



「これで3度目か? まあここをホームにしていて、3年で3回ならあり得るか。ちょっと今回は、びっくりしたけれど」



「ほうそうか。あの感じが良いのだな。心拍発汗最大値。よし方向は決まった創ってみるか」



 数日後。シンの実験室。

「それでなんだい。このモンスター」

「君の好みに、合わせて創った」

「いや好みって」

 目の前に居るのは、身長3m位。筋肉隆々のモンスター。

 ただ胸に、見たことのある顔がくっついている。


「この顔って」

「ああ先日、君が彼女に会ったとき。ものすごくバイタルに、興奮状態を示す兆候が出たんだ。君、あのメスが好きなんだろう? だから、くっつけてみた」


 それを聞いて、理解不能だ。僕の趣味? モンスター? なぜ。

「これ、本人じゃないよね?」

「ああ、さすがに試すだけに、殺したりしないよ」

「それならいいけど。それに、あの時興奮したのは確かだけど、別の意味でね」

 そう言うと、うん?と言う感じで首をひねる。


「ああ、なるほど。メスの生殖器を間近で見て、ホルモンによる性衝動だったのか? 君たちの言う、テストステロンの作用だね」

「まあそうだね。反応する物なの」


「それなら、それを模した、モンスターも面白いかもしれないね」

「絶対やめて。色々まずいから」

「そうか?」

「当初の究極の生物を目指してくれ。変な方向に行くと、クリティカルなダメージを受けるから。それでどうして、そんなモンスターを創ろうと?」

「いや君も、成熟して肉体的には、もう下る一方だ。番(つがい)が必要だろう?」

 その心遣いはうれしいが。そう言われて、もう一度さっきの筋肉隆々モンスターを見る。


「いや、君に気を使わせてすまない。だが、そんなに焦ってはいないし、俺たちオス同士で交尾はしない」

「えっ。この前、居たよ。見たもの」

 ダンジョンで何してんだよぉ。

「ああ、ごめん絶対いないとは言わない。でも普通、対象は異性だ。少なくとも僕はそうだ」

「そうなんだ。まあ変わっているとは思ったけど。つい希少な方を選択してしまう」

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