第14話 魔改造?

「さーてと、できた。超高圧縮・高効率タイプ魔石」

 シンが手に持つのは、今までのガラスっぽいものではなく、すべてを埋め尽くすような闇を纏った球。大きさは、卓球の玉くらい。


「この容量なら、外に出ても魔法使い放題。ただ、チャージは必要だから、場所は何処でもいいけれど、適度にダンジョン内へ帰って来てね。入ってきたら、急速で魔力を補充してくれる」


「補充はいいけれど、その見た目は何?」

「ああこれ? シールド。外からの衝撃はもちろん。中からの爆発にも耐える。うーんとね。亜空間収納。機能限定版。だから、もし破裂してもこちらの世界には影響がない。君の体から魔石が無くなるだけ。うん。たぶん」


「ほんとに?」

 魔力の塊だから、現象に干渉するんだよね?

「ホントホント。原理的には大丈夫。なはず。多分」

 ああこういう時には、大丈夫だな。

 自信がない時には、黙るから。


「じゃあ、隣の研究室へ行こう」

 その時の表情が気になり、問いかける。

「胸も女性型にしないでね」

「やだなあ、しないよ。珍しく警戒するね」

「いや、君の顔が、気になってね」

「顔がどうしたの? 何か変?」

 そう言って満面の笑み。ああやっぱり、何か企んでいる。

 このシンは、ほんとにうれしいか、ものすごく興味を引かれた時には、目まで笑う。

 普段なら、口元だけの笑い。


 ろくでもないことを、きっと……。


「起きて。できたよ」

 ベッドから起きて、胸を見る。

 ほっ。普通だ。


 だが、これは? 

「この不気味なほどの、パワーアップは何?」

「ああ折角体に、魔力のバッテリーができたんだ。今まで抑えていたけれど、効率的に運用させた。筋力アップとか、身体強化。そして、魔法を使ったときに君は僕の偉大さを思い知るのさ」

「何をしたんだ?」

「言ったじゃない。魔力回路が太くなっただけだよ。あんまり調子に乗ると、外だと、うーんと一時間くらいで、行動限界が来るから注意してね」


 そう言われて驚く。当然だろう。外に一時間しかいられない?

「外に、一時間て。どのくらいの出力で?」

「さあ。正確には分からないから試してみて。それと、亜空間収納の能力も付けたから外でも使えるよ。やばくなったら、手の中で魔石を握りつぶせば、魔力の補充が少しはできるから」


「ああ分かった、気を付けるよ」

「後で報告頂戴ね」

 そう言って、手を振るシン。



「さあてと、将の好みはどんな子かな」

 そう言って、僕と過去に起こった遭遇。

 ダンジョン内で、異性と出会ったときの反応から、好みを分析していくシン。


 データを解析して、目線や表情の変化。体温、発汗。あらゆるデータが解析される。

「うーん、サンプル数が少ないな。もう少し待つか。現世代のサンプルは手に入ったし、これをもとに、系統をつくり、当然交配は可能。それに、モンスターの因子は何を使うか? ふふっ。どうなるのか楽しみだ」



 帰りに、2階で状態を確認する。

 体の反応はすごい。


 ゴブリンを見つけてからかう。僕を認識しているはずだが動かない。いや、ゆっくりだが動いている。10mほどの距離を詰めて、無に帰す。

 きっと何が起こったのか、理解できていないだろう。


「後は魔法か。怖いな」

 そっと、氷の玉を出してみる。


 イメージでは、直径3cmの真円の玉。

 出来上がったのは、3mかな? ざっと100倍か。

 でもここはダンジョン。ダンジョンのサポートがあるから、実際はどうなんだろう? 疲れた感じやだるさは出ていない。

「外で試さないとだめか。でもこんなものができれば、大騒ぎになりそうだ」


 帰りながら、試す場所を考える。

 

 とぼとぼと歩きながら、河原にたどり着く。

「ああ懐かしいなあ。よくここでいじめられたなあ」

 あれ? 楽しい思い出がない。


 カバンを取り上げられて、川に投げ込まれ、取ってこいをやらされたり、高校はみんなと違ったからそれで終わったけれど、しばらくは電話が来たり、待ち構えていて父さんにも心配をかけた。

 だが、あれのおかげで泳ぎはうまくなったな。


 氷の槍を作ってみる。

 槍だと言うのに、持ち手が30cmほど、長さは向こうの土手に干渉した。

 200m近い。

 ただ驚きは、その質量を片手で持ち上げている僕。

 すぐに壊れて来たし、さすがに重い。ポイッと投げる。

 半径×半径×π×長さ。ざっと考えて、14トンか? 


 砕けた氷は川に流して、もっと小さなものを創る。

 3度目で何とか、普通? のサイズができた。

 イメージは、つまようじ。

「中でも、外でもサイズは同じなんだ。不思議」


 その時背後の道を、まだつるんでいた奴らが、偶然通りかかり僕に気が付いたようだ。

「懐かしい奴が居るぞ」

「んあ。ああ、あれって鬼ちゃんじゃん」

「河原で、立ちすくんで飛び込むつもりか?」

「馬鹿やろう。あいつなら飛び込んでも泳ぐだろ。ずいぶん鍛えたからな」

「俺らのおかげで、水泳部からスカウトが来てたよな」


 その時、何かが落ちるどすどすと言う音や、川に何かが投げ込まれたような音がする。

「なんだ本当に飛び込んだのか?」

 そう言って、連れの顔を見ると、パクパクしている。


 河原を見ると、首をひねりながらごつい氷? の塊を川へ蹴り落とす、すがた。

「なんだあれ? あんなもの何処から出て来た」

「魔法だよ。馬鹿みたいにでかいけどアイスジャベリンだ。うちの先輩が練習しているのを見たことがある」

「魔法? なんでこっち側で使えるんだよ」

「あっ、あの格好。そう言えば導師だ。シングルの上級者。無への導師だよ」

「鬼ちゃんが? 嘘だろ」

 そう言っている矢先、また氷の槍が川へ投げ込まれる。


「完全に魔法だ。こっち側で使う方法を見つけんだ」

「あっほら見ろ。槍ができた」

「うちの先輩が使っていたのって、30cmくらいだったよな」

 見えているのは、2mほど。無造作に川へ投げ込まれる。


 そしていよいよ、30cmほどのものが数10個空中に現れて、川へ向かって撃ち込まれる。



「まあこんなものか。魔力のストックも大丈夫そうだし帰ろう」

 そう言って、振り向くと嫌な奴らが、電線にとまったスズメのように並んでいる。

 ダンジョンじゃないから、気を抜き過ぎた。見られたか。

 絡まれる前に帰ろう。

 そう思い、ダッシュをする。


「消えたぞ」

 周りを、めいめいが見回すが、彼の姿は無かった。

 その後彼らは、城東ニュータウンダンジョンに近づくことは無かった。

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