第13話 些細な事さ

「おめでとうございます。30階層。トロールの魔石を確認しました。『紅の殲滅隊』さんライセンス更新します」


 少し離れて、喜んでいる皆を眺める。


 仲間と分かち合う喜び。

 いいなあと、素直に感じる。

 そして、少し、あこがれてしまう。


 感傷に浸っていると、窓口の成瀬さんに呼ばれる。

「お疲れ様です。鬼司さん手伝っていませんよね」

「30階ではね。手前で、アドバイスはした。特に魔法の有効性と使い方について」

「そんなに変わるんですか?」

「使いこなせれば、かなり有効とだけ言っておこう。実際どうだったかは、彼らに聞いて」

 そう言うと、成瀬さんの目が光る。


「そう言えば、鬼司さん」

「はい」

「独身ですよね?」

「そうです」


「結婚とかは、考えていないんですか?」

「いや、どうなんだろう。現状結構楽しいし。この仕事、結構危険でしょう」

「それはそうですけれど、鬼司さんの貯金額なら、もっとゆっくり仕事をしても大丈夫でしょう?」

 そう言って、かわいげに小首をかしげる、成瀬さん。


「成瀬さん。どうして僕の貯金額を? 窓口なら振り込むことはあっても、残高は関係ありませんよね」

 ぼくがそう言うと、かわいい感じを醸していた表情が一変する。だらだらと脂汗を流し始める。


「いえ。今まで受けた仕事から、そうじゃないかなと…… うん。そう思っただけで、職権乱用したわけではありませんよ」

 そう言いながらも、目は泳ぐ。


「さっ。『紅の殲滅隊』さんから、魔法の評価を聞かないと。今回はお疲れ様でした。またお願いしますね」


 いきなりそう言って、追い返される。


 あれは、のぞいたな。

 かといって、一般の銀行に入れると、税金の申請が面倒だし。

 他からの収入がなければ、手数料はとられるが、確定申告迄協会がしてくれる。

 楽なんだよな。



 すこし、影になった所で、転移をしようとしたが?? 飛べない。

 ああしまった。馬鹿だな。ここはダンジョンじゃない。

 人間は、外で魔法が使えない。

 ダンジョン内で使える魔法は、あくまでも使用者の思考を、ダンジョンが読み取り実行しているだけ。


 ぼくは、がっかりしながら、ダンジョン内へと戻る。


 一階にある石板に手をあてながら、シンの所へ飛ぶ。


「来たよ」

「やあ。30階での激闘見たよ。なかなかおもしろかった」

「シン。きみ、ボスをカスタマイズして記憶を残したね」

 そう言うと、ちょっと驚く。


「気が付いたのかい? 鋭いね」

「ああ2回目に見たとき、トロールが怒っていたからね」


「片側だけが経験を積み、強くなるのは、不公平だろう」

「それはそうだけど、どんどん強くなると、後から来た人の死亡率が上がってしまう。見知らぬ他人だとしても、あまり面白くはないし、君のように研究対象と割り切れないんだ」

 そう僕が言うと、意外だなと彼の顔が物語る。


「最初の頃は、喜んで見ていたじゃないか」

「それはそうだけど。あくまでも、モニターの中の出来事として見ていたんだ。でも違うんだよ」

「そりゃそうだよ。計算させたシミュレーションと実際は違う。だから僕は本物にこだわるのさ」

「あーそれは、理解できるんだけどなぁ。……でもなあ」

 うん。シンの様には割り切れない。

 今回のように、関わったりすればなおさら。



「そう言えば、外で魔法を使えるようにできないかい?」

「うん? 出来るよ」

「そうか…… えっ。できるの?」

「ああ。モンスターと呼ばれる彼らは、魔石を持っているだろう」

「ああ。そう言えば魔石は何のために持っているのかと思っていたけれど、あれって魔力の塊だよね」

「そうだよ。ダンジョンの外へ出たときの体の保持と魔法の為。きみもテレビとかで、モンスター達が外で魔法を使っているのを、見たことがあるだろう」

「ある。忘れていた。普通に使っている」

 そう言うと、うんうんと頷くシン。


「ところがだ、君にそのまま埋めると、ある程度大きなものが必要となる。場所が少ないから、女性のように胸でも作るかい?」

 そう言われて、想像する。

 うん、なしだ。


「なしで。さすがにそれは困る」

「じゃあ高密度、高出力の物を作るから少し待って」

「わかった。どのくらい?」

「30分くらいかな? 前に作って遊んだんだけど、その時は、ちょっとした刺激で魔力放出が始まってね。ダンジョンの底2フロアが飛んじゃった」

 ダンジョンの下、2フロア? 空間的に区切られていて、核爆弾でも別の階は影響を受けないはず。


「それってどういう事? 各階は空間的に分かれていて影響を受けないんだろ」

「ああそれはね、起こるのが魔力放出だろう。当然空間自体も影響を受けるのさ。無属性の魔力の塊は、属性関係なくすべてに影響をするんだ。空間が膨張をし始めれば、それを噴き出した魔力が、連鎖的に補助をしていく。それでボンさ」

「ボンさじゃないよ。そんなの歩く爆弾じゃないか。地上で爆発したらどうするんだよ」

「計算しようか?」

「いやいい」

 そう言いながら、計算しているな。


「すごいよ、大昔、ユカタン半島に落ちた隕石クラスだ。君のおかげでこの星の生物は死滅するね」

「死滅?」

「ああ、あれも、元はと言えば、ぼくが、資源が欲しくて呼び寄せたらコントロールミスったんだけどね。いやあ、あの後かなり長い間。何もできなくて困ったよ」

 そう言って笑っている。こいつ神じゃなくて悪魔か?

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