第10話 指名依頼
紅の殲滅隊を連れて21階へ飛ぶ。
「へーじゃあ3回目なんだ。トロールそんなに手ごわいかな?」
「無、鬼司さんは無手ですよね。どうやってあんな筋肉の塊を倒したんですか? 剣で切ってもほとんど効き目が無いんだすよ」
「ああ普通に、魔法で倒したよ」
「魔法ですか?」
「僕たちも使ったんですが、あまり役に立ちませんよね」
「魔法はイメージだから、役に立たないと思えば役に立たないし、役に立つと思えば役に立つ。多分」
「いや、そこは言い切ってください」
このチーム、大学生5人チーム。
男ばかりの体育会系の雰囲気。
今日は、受付の前で「「「ちわーす」」」の掛け声から始まった。
当然フロア内の皆がこっちを向く。
体つきは、皆の方が一回り僕よりも大きい。
担当窓口成瀬さんは、苦笑いしながら手を振っている。
21階から29階までは、亜人系の筋肉モンスター。オークやオーガが徘徊してその中にハンティングウルフのような隠密系モンスターが混ざる。それも集団で。
その狼たちに追われて、木の中に入ると、大抵はトレントで背中から刺されるか殴られる。
階数が増えればだけどね。
低階層はほぼ単体なので、楽勝。
見ていると、盾が突っ込み動きを止め後ろから回り込んで、剣でとどめをさしている。
まあ形が出来て、安定している。
でも盾って、重くないのかね。
「おい見たか。後ろから来たオーガを、見もせずにどてっぱらに穴を開けたぞ」
「あー気にせず、モンスターに集中して」
実は10階分同じようなモンスターが居る場合、少しずつ遺伝情報がいじられている。
突然変異的に差が出る事は珍しいが、たまにイレギュラーな個体が出ることがある。その場合、僕が捕まえてシンが研究する。
実はこの前も、オーガの個体で、魔法に対して非常に親和性が強い物が居た。
そう言うモンスターの特性は、実験的にボスに組み込まれテストされる。
だから、ボスは単なるリポップではなく、徐々に強化されていたりする。
さて、25階海岸だ。
岩場を飛びながら、正しい道順で次の階へ行かなければならない。
ここには、さすがにオークやオーガ、ハンティングウルフはいない。
だけど、いきなり海中から鋭い吻(ふん)を持った魚。スナイパーフィッシュが飛んでくる。
その為周辺を警戒していると、足に触手攻撃が来る。
シーアネモネ。イソギンチャクのモンスター。
触手に毒あり。
フローズン系の、魔法も使うが、その時には海面に出て来るので、逆に攻撃のチャンス。
触手つながりで、タコもいるよ。かの有名クラーケン。
ただしここに居るのは、そんなに大きくない3m位。
烏賊は、スナイパースクイド。移動以外に、水を吹き出すときには、中に氷の槍が入っている。地味に厄介。
そんな感じで、雰囲気リゾート、海中は厄介。
ここでは、盾役が大活躍。
「おら、そっち攻撃」
「ばかやろー。スナイパー、フィッシュの方なら剣で切れ」
そんな、怒号が飛び交う。
海中へ、雷。
球電を創って落とす。
その瞬間、ブワーンみたいな音がして、周辺から黒い煙が上がる。
「今のうちだ。行け」
「ありがとうございます。オラ今のうちだ」
うわーすげ、本当に魔法だ。
今のは、雷か。ちゃんと効くじゃないか。
そんな心が、チームのメンバーに芽生える。
幅跳び区間も終わり、砂浜で休憩を入れる。
ここの魚介類だけは、データではなく実体化している。
適当に捕まえて、昼飯を取る。
「さっきの魔法はどうやったんですか?」
そんな質問がやって来る。
「さっきのは、電気の塊を創ったんだ。そして海面に落ちれば、影響が広がるイメージを込める」
「へーそんな後の効果まで、考えるんですね」
「うん。そうだね。ファイヤーアローみたいな物でも、そのその炎はどんな炎でどんな燃え方をするか、そこまでイメージをする」
「そんなの、どんな感じで練習すれば、良いんだろう」
「それは。そうだな、その砂で土魔法を使って、お城でも創ってみれば良いんじゃないかな」
そう言うと、皆が一斉に創り始める。
「あんまり、力を使うと疲れるよ」
ダンジョン内での魔法は、ダンジョンが意識を読取り現象を起こすが、精神的に結構疲れる。そんな仕様になっている。
休憩のはずが、皆がぐったした頃、なかなか立派なお城が出来ていた。
窓が尖頭アーチで装飾にもかなりこだわったもので、フライング・バットレスが見える。中から見れば、交差リブ・ヴォールトが採用されているんじゃないだろうか?
「見事な、ゴシック建築だね。モデルはフランスのノートルダム大聖堂?」
「いえ、その辺りは適当で」
「そうなんだ。かなり皆疲れた感じだけど大丈夫?」
「そうですね。魔法って真面目に使うと、こんなに疲れるって、初めて知りました」
そう言って皆から、同意の頷きと笑いが起こる。
「あんまりゆっくりとしていると、本番が今日中に終わらなくなるよ」
そう言うと、皆が目を丸くする。
「今日中に、終わらすつもりだったんですか?」
「えっ、違うの?」
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