第9話 悪シン誕生
ゲイザーのクリスタルを、カウンターで納品する。
「はやっ。もう取ってきたんですか?」
「うっうん。21階から逆に上がってきたから」
このちょっと慣れた感じで応対をするのは、特殊依頼担当窓口成瀬さん。22歳くらいだと思う。
「鬼司さん。30は越えていますよね?」
「えっ。いや27だけど」
「えっ。あれ……。何の話しています?」
慌てて端末を確認して、にらまれた。
「年じゃないの?」
「違います。階層の話」
「ああそれなら、30階を越えているよ」
「んー。じゃあ次のお仕事です。今度、紅の殲滅隊と言うチームが30階を攻略するんですけれど、ガイドを欲しがっていまして」
「構成は?」
「盾2と攻撃3ですね」
「魔法は使えるの?」
「基本的な物は使えそうですよ。ただ、魔法なんか目くらまし程度しか使えないし、最初の盛り上がりほどはありませんね」
「そうなの? 便利なんだけどな」
そう、3年前にモンスターが魔法使えるのに、こっちが使えないのはおかしいと、シンに話し、使えるようにしてもらった。
「と言うことは、何か秘密があるんですね?」
「ああ。付与みたいなことができるんだよ」
「でも、鬼司さん無手ですよね」
言われて、ちょっと焦る。
「でも、こぶしをあてて、モンスターの体の中で発動させるとか、結構強力だよ」
「ああ。なるほど」
「あんまり広げないでね」
「分かってますよ」
こう言っておけば、3日後くらいには周知になるだろう。
こうして、新しい設定とかは、ばらまいている。
「それで、受けてくれます?」
「なにを?」
「もうっ。依頼ですよ」
腕組みをして、ふくれっ面をする彼女。
自分の武器を、知り尽くして使ってくるなあ。
何とは言わないが、もち上げるように腕組みをする。
「ああ、日時が決まったら連絡を頂戴」
そう言って、カードを受け取り、カウンターを後にする。
鬼司さんて、シングルでは最強なのに、あの小物感は何なんだろう?
ちょっと、気弱な感じと最強の肉体。
私の中で、Sの血が騒ぐわ。
「今日は、何をしていたんだ?」
「今日も、魔物の素材集め。16階とかで」
「すっかり慣れたようだが、そう言う時に気を抜くと、思わぬケガをしたりするから気をつけろよ。『人の一生は重荷を負うて、遠き道を行くがごとし、急ぐべからず。不自由を、常と思えば不足なし』と言うからな。欲張らないことだ」
「うん。気を付けるよ」
ずっと気にしてくれている父さん。最近は、日課の報告も、笑顔で聞いてくれるようになった。
「なあシン。魔法の評判が悪い」
「うん? なんで」
「弱いんだってさ」
「弱いと言っても、思いを物理現象に変化させているだけだから、その人がその理屈を理解しなきゃ弱いだろう。ただ漠然と火を出して飛べと考えたって駄目だよ」
「ああそうか。周りの酸素を使い、酸化現象を加速させる? そんなイメージかな」
「そう。イメージを乗せれば、小さくても巨大なモンスターを焼き尽くすまで、消えない火とかも実現できるでしょ」
「なんでも切れる、空気の刃とか?」
「それは物理的に無理があるから、空間魔法かな? あんまり使われるとダンジョンが壊れそうだな」
「それはシンが、壁に魔法無効を設定すればいいんじゃない?」
「ああまあ、それはそうか。モンスターにも組んでみようかな」
「それはずるい」
「お互い様だろう」
そう言って笑いあう。
シンの表情も、この3年でずいぶん変わった。
それに初期は、意見を言っても、なんでそんな非効率で無駄なことをとか、いろいろ言われたが、ゲームと言う娯楽が存在して、それがここと同じような世界を作っていると説明するとかなり興味を持ってくれた。
ただそこで、
「イベントねえ」
そう言って、妙なトラップが仕掛けられたのは僕のミスだ。
おかげで、世界中のダンジョンが、妙なエンターテイメントな面を見せ始めた。
25階が、ある日突然日の照り付ける海岸になったし、35階は雪山に変わった。
おかげで、難易度が爆上がりした。
その代わり、15階では鉱山が見つかりにぎわっている。
ある駆除従事者が、金鉱脈の露頭を発見。
協会に報告をした。
すると同じく、宝石も発見される。
もうその後は、大騒ぎとなった。
すると当然、自分たちの場所だと占有する奴らが出始める。
するとシンが、端末をスライドさせる。
掘っても掘っても復活していた露頭が、突然無くなる。
そして大騒ぎ。
検証すると、同じ奴らが3回掘ると、消えるようにセットしたようだ。
その後、中級ランクのボーナスステージとして定着した。
それを狙って盗むまたは取り上げると、単なる土になるように保険もかかっていた。
25階の海産物は、その場で食べるのはOKだが、階を越えると消滅する。
あとは、ボス部屋や宝のある隠し部屋を開くために、アイテムやカギとなるものが必要となった。
たまに石の下などから、金貨が見つかる。
落とし穴のトラップや、転移トラップ。
こいつは、ボス部屋の前に一つ。
落とし穴なら、ボスをスキップ、転移はスタートへ戻ると言う意地の悪い仕組み。
誰かがかかれば、場所が変わる。
「いやあ。これは面白い」
機嫌のよくなったシンが、どんどん悪ガキに見えてくる。
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