第11話 指名依頼 その2

 紅の殲滅隊としては、ここ25階で泊まり、明日の朝早くから、26階からを攻略する予定だったようだ。

「それで、ゆっくりしていたのか」

「ここは、モンスターが出ませんから。大体こんな時間に、この場所に居るのがおかしいんです」

「そう言われてもね」


 困ったな、感覚がずれているのか?


「大体この階だけでも、もっと時間が掛かります。奴らスナイパー系は岩から岩へ飛んだ瞬間を、よく狙って来るんですよ。それが、無への、いや鬼司さんの雷の球だけで沈黙しちゃったんです」

「いいにくそうだね。無でも良いよ」

「それなら案内もお願いしているし、導師と呼ばせてください」

 彼がそう言うと、周りの皆も目がキラキラでこっちを見ている。

「分かった。呼びやすいならそれで、とっさの時にはわずかな逡巡が命取りだからね」


「おおっ。導師が認めてくださった」

 この日から、会う人皆に、導師と呼ばれることになった。


 皆のペースに合わせて、一泊し、翌日26階への階段を下りる。

 またこの階から、筋肉系巨人との戦い。


 皆の戦いを見ながら、周りを警戒する。

 この辺りから、わんこいや狼たちとの遭遇も増える。


「おおい、ウルフが来たぞ」

 そう声をかける。


 すると盾役が、周りに何か袋を投げた。

「キャン」

 そんな鳴き声を残して、ウルフたちが引き返していく。


「なんだい。今の袋は?」

「はい。唐辛子の小袋です」

「ああ。なるほど、よく考えている」

 種族により、特徴が決まっている。

 嗅覚が鋭い奴には、そう言うのも効くんだな。


 ダンジョン内では、ダンジョン内での生活の知恵みたいなものが広がっているのか。たまには、こういう交流をして、常識を教えてもらうのも良いな。

 シンじゃないが、考え方が偏るのを防げそうだ。


 基本的に僕は、学校と家。その二つの環境がすべてで育って来た。

 僕は、人との関わりが苦手。そのため、多聞に一般常識という物が不足している。

 辞表の件でもそうだが……。


 これを機に、こういう依頼を受けて、要望。こういうのが欲しいとか、そう言う意見をくみ取る必要があるな。


 ダンジョンです。皆様からのご要望を募集しています。なんていう看板を作って設置しているシンの姿を想像して、一人で受けてしまった。



「おい見ろよ。導師様この状況で笑っているぞ」

 現在、オークとオーガ2体。合わせて3体の為、盾役が足りない。

 そう、結構ヤバい状況だ。


 攻撃役が、一生懸命攻撃しているが、筋肉の鎧に阻まれ、いまいち有効な攻撃に繋がっていない。

「手伝うか? それか魔法を使ってみたら?」

 そう言って、声をかける。


 盾役が何かを思いついたのか、相手をしていたオーガの顔に水の球をぶつける。

 すると、顔の周りに水の球がまとわりつき、オーガは苦しみながら離れていく。

「よし効くぞ。魔法を使え」

 周りのメンバーも、気が付く。その様子を見て、次々に魔法を使い始める。

 すると一気に、状態が改善されていく。


「おお凄い。一気にヌルゲーになった」

 そう言っていた彼が、火球を躱したオークに殴られる。

 まあ、かすめただけだがダメージを受ける。


「やばええ。死ぬかと思った」

「戦闘中に気を抜くんじゃねえよ。良いのを一発貰ったら死ぬんだぞ」

「了解」

 良い雰囲気。


 チームか。

 僕にはそれは出来ないな。ずっと、秘密を持つことになる。


 やがて、すべてを倒しきる。


「ありがとうございました。これからは、積極的に魔法を使ってみます」

「疲れが出るから、適度にね」

 そう言って、くぎを刺す。


 そこからは、攻略のスピードも上がって行った。


 階層が進むにつれて、ウルフとかが邪魔をしてくる頻度が上がるが、匂い袋が良い仕事をする。


 ボス前の、落とし穴は指摘をして回避した。

「鍵は持っているのか?」

「ええ拾って来ています。多分これが使えます」

 そう言って、突き刺しひねる。


 重い音を響かせ、意味ありげに扉が開いて行く。

 中に居るのはトロール君。

 筋肉系の集大成。

 身長5m棍棒装備。ボス特典として魔法もたまに使う。


 入ったとたんに、棍棒が目の前を通り過ぎる。

「やべー。当たるなよ。囲め」

 そう言って、周りを囲む。


 全体的な動きは遅いが、体がでかく、振り回される棍棒も、非常にスピードは速い。

 チームメンバーは基本通り、足元への攻撃を集中する。


 それを嫌がるトロールは、横なぎに棍棒をふるう。

 振り回される棍棒は、さすがの盾役でも止めることが出来ないため、逃げ回る。


「盾役。役目が失われているぞ。防御もシールドバッシュもできないなら、魔法攻撃に集中しろ」

 リーダー君が、檄を飛ばす。


「「おう」」

 そう言った瞬間、不可視の刃が飛ばされたが、効き目がなく霧散する。

「風は駄目だ」

「りょ」


「水で顔。行くぞ」

 そう言った時すぐに、水の塊がトロールの顔面を襲う。

 その水は、破裂せず張り付いた状態を維持する。

 そうそう、意識を外さず。魔法維持するんだ。

 状態を見ながら、思わず力が入る。

 

 今までは手も出したが、ここは彼らの仕事。

 僕の役割上、ここでは、よほどのことが無いと手を出してはいけない。

 アドバイスもだめだ。

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