第4話 ゴブリンたちの献身と厄介ごと

 どんどん足元に集まってくる、スライムの核。

 どう考えてもおかしい。


 それに、ゴブリンたち。

 集団の中に、体が大きいのが混ざって来始めている。

 こいつら、モンスター駆除従事者用、駆除対象ダンジョンモンスター、級別対応表に載っていた。

 初級用モンスター一覧にいる奴だろ。

 ゴブリン亜種、ホブゴブリンとかゴブリンメイジとかゴブリンソルジャーとか。

 見える範囲だけで、幾種類もいる。

 そいつら迄、核を持ってくる。


 近くに来て、足元に核を持ってきたゴブリンへ、そっと手を伸ばしてなでる。

 殺すと消えるのに、体温があり、ちょっと脂っぽい。

 ただ僕が、頭をなでたことにすごく驚いて、力なく膝立ちになり拝み始める。


 その瞬間、周りで「ぎゃ」とか「ぎいぎい」言っていた彼らが静かになる。

 そして、頭をなでた彼が光だし、体が大きくなっていく。

 何が起こっているのだろう?


 その変化を、見つめるだけの僕。


 そしてその変化を、最後まで見届けた彼らは、僕に向かって改めて跪く。

 そして何かを待っている?


「みんな、僕のためにありがとう」

 そう言うと、なぜかみんなの体がふわっと光る。

 口々に、

「ぎいぎい」「ぎゃあぎゃあ」叫びだす。

 すると、さっき大きくなった彼が両手を上げる。

 ピタッと喧騒が止まる。


 足元の核を拾って、僕に手渡して来る。

「ありがとう。これで数は足りたからもういいよ」

 通じるかどうかは分からないが、礼を言う。


 すると、解散をし始めた。


 足元に散らばる、スライムの核。

 せっかく、みんなが集めてきてくれたもの。

 一生懸命拾い集める。

 ウエストバッグでは収まらず、背中の20Lザックに詰め込んでいく。


「お前が、この騒ぎの犯人か?」

 そんな声が、聞こえる。

 見上げると、周りを威圧感のある人たちが囲んでいる。


「黙っているなよ。何かの力なんだろう?  モンスター・ティマーなのか?」

 そう言いながら、その人は近づいて来る。

 ちょっとごつい感じの、目つきがきつい人。

 体は筋肉が服の上からでもわかる、身長は180cmは越えているだろう。


「僕には、訳が分からないんです」

「訳が分からない? まあティマーなんぞ、今までいないからな」

「いえ本当に。ゴブリンは、僕がスライムの核を集めているのを見て、手伝ってくれたんだと思います」

 そう言うと、顔が険しくなる。


「ゴブリンが勝手にやったと? お前は何もしてない。そう言うんだな?」

「そうです。何も。命令や力を使ったわけではありません」

 そう言うと、彼は振り返る。


「信二、どう思う?」

 脇から、もう一人出てくる。 細身だが、体は筋肉が付き立ち姿に安定感がある。

「無自覚なだけだろ。この辺りでスライムの核を集めているんだ。ならば彼はまだ初心者と言うことだ。俺の目は、頭は、現時点でそう推理する」

 そう言って、にまっと笑う。


「そりゃ見ればわかる」

 そう言って、呆れた顔をする。


「ほら。こっちにもあるぞ。さっさと集めろ。お前は限りなく黒だ。協会に出頭してもらう」

 もう一人、出て来た。

 金髪、つんつん頭。

 サイドを刈り上げ、こめかみからZの文字が刻まれている。

 身長180cmくらい。ボクサーの様な、引き締まった体がTシャツの上からでも分かる。

 ただTシャツに書かれた文字が、『I love』と山形の半円に書かれた下に『End of the world』と書いてある。

 危ない人かな?


「おい。隆二。あまり刺激するな。周りを見ろ」

 そう言うと、ゴブリンたちがまた帰ってきたようだ。

 一匹が近寄って来て、僕の足元へ核を投げてくる。


「へー本当に、持って来ているぜ。確定だ、お前は黒。お前が犯人」

 そう言って、隆二と言うやつが、ゴブリンに何かをしようとした。

「やめろ。何をする」


 そう叫び、ゴブリンとの間に体を割り込ませる。

 何か、棒か何かで叩かれた感じが、右わき腹から左肩へとつながる。

「あっ。ばか。切っちまったじゃねえか」

 今度は、目の前の相手。隆二と言うやつが叫ぶ。


 切った? そう言われて見ると、叩かれたと思った所に、赤い線が湧き出して来た。

「馬鹿野郎。おい。大丈夫かあんた」

 最初に、声をかけてきた男が駆け寄ってくる。


 すると、俺の後ろで護ったゴブリンが、聞いたこともない声で、狂ったように「ギィギャャーッ」と叫ぶ。


 その瞬間、こだまするように、ダンジョン2階にその声が広がっていく。

 それは、フロアを越えさらに広がる。


 単なる2階。

 初心者モンスター駆除従事者が、のんびりとした感じで、スライムやゴブリンを倒す階層。

 そこに、濃密な威圧と殺気と言うのだろうか? 明確な殺意が、モンスター駆除従事者チーム『暁の解放者』トップ3人を含む、この場にいる上位者10人に対し向けられる。


「なあ、これやばくないか?」

「こいつは意識飛んだようだし、ゴブリンが自発的に行動を起こしている。出血が止まらず死んじまうと、こいつら外へ出るぞ。きっと。俺は現時点でそう推理する」

 副長山城信二(やまき しんじ)28歳が、床に倒れた人物と周りを見回す。


「馬鹿なことを言っていないで、さっさとそいつの止血をしろ。緊急用皮膚接合用テープがファーストエイドキットに入っているだろ。抗生物質軟膏を塗って。早くしろ」

 隊長、川崎健太(かわさき けんた)28歳が蒼い顔をしながら叫ぶ。


 だが、誰も動けない。

 将を剣で切ってしまった、一番近くにいる切り込み隊長、瀬戸隆二(せと りゅうじ)28歳も剣を持ったまま、人を切ってしまった焦りと、将に寄り添うようにいるゴブリン。

 そのゴブリンの目と目が合う。ただのゴブリンとは思えない、何とも言えない濃密な威圧。

 それに押されたのか、ピクリとも体が動かない。

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