第5話 本当のゴブリン
協会から調査依頼を受けた、暁の解放者はここでは中の上。
柳新町ダンジョンで、先日10階層を越えた。
調査対象が上階だからと言う理由で、チームに依頼が来た。
初めての調査依頼、そして上階。
チームの隊長である川崎健太は、二つ返事で引き受けた。
「基本調査費30万円。それに危険手当と人件費。全部で50万円くらいまでに抑えてね」
そんなことを言われたが、30万円は前金でもらった。
副長の信二や切り込み隊長隆二は、まあいいだろうと言う返事。
その辺りで、プラプラしていたAチームに声をかけて潜ってみた。
確かに、ゴブリンたちが変な行動をしていた。
「あれだろ。追いかければ黒幕にたどり着く。俺はそう推理する」
「誰でもわかるつーて、言っているだろ」
全員が、包囲するように散らばって円の中心へ向かう。
すると聞こえる、ゴブリンたちの雄たけび。
「何が起こっているんだ?」
健太は走りながら、周りを警戒している。この数は面倒だな。
そう思っていると、ゴブリンたちの動きが反転して散らばり始めた。
「らっきー」
そう言って微笑、そして対象を見つけた。
子供ではないが、若い感じ。
新しい初心者装備。
「お前がこの騒ぎの犯人か?」
と問いかける。
「黙っているなよ。何かの力なんだろう? モンスター・ティマーなのか?」
そう言いながら、近寄るが、ほんとに初心者丸出しの気の弱そうな奴。
「僕には、訳が分からないんです」
「訳が分からない? まあティマーなんぞ、今までいないからな」
思いついた問いかけをしてみる。だが、
「いえ本当に。ゴブリンは、僕がスライムの核を集めているのを見て、手伝ってくれたんだと思います」
手伝ってくれた? ゴブリンが勝手に?
「ゴブリンが勝手にやったと? お前は何もしてない。そう言うんだな?」
「そうです。何も命令や力を、使ったわけではありません」
どうかな、現場に来て無自覚に何かの力が解放された? そんな都合のいいことがあるのか?
「信二、どう思う?」
横にやって来た副長信二に聞いてみる。
こいつは、誰にでも分かることを、名推理の果てに理解したという感じでしゃべる変わり者だが、しゃべり方以外は普通のやつだ。アニメオンリーで小説は読んでも理解できないらしい。
「無自覚なだけだろ。この辺りでスライムの核を集めているんだ。ならば彼はまだ初心者と言うことだ。俺の目は、頭は現時点でそう推理する」
そう言って、にまっと笑う。
「そりゃ、見ればわかる」
そう言って、呆れた顔をする。
「ほら。こっちにもあるぞ。さっさと集めろ。お前は限りなく黒だ。協会に出頭してもらう」
切り込み隊長を務めている隆二が、核を蹴飛ばしながら近寄ってくる。
「おい。隆二。あまり刺激するな。周りを見ろ」
周りに、いつの間にかゴブリンが集まって来ている。
何の変哲もないゴブリン一匹が、こいつの足元へ核を投げる。
「へー本当に、持って来ているぜ。確定だ、お前は黒。お前が犯人」
そう言って、隆二はにゃっと笑い剣を構える。
「やめろ。何をする」
そう叫んで、ゴブリンとの間に体が割り込んできた。
剣はもう振っていた。
間合いが近いため、そんなに深くはないだろうが、右わき腹から左肩へと切り上げてしまった。
「あっ。ばか。切っちまったじゃねえか」
目の前にいる奴の服が切れ、血が滲み始める。
やべえ、思ったより深いかも、そう思って焦る。
するとゴブリンが、今まで聞いたことのないような声で、鳴きはじめる。
あっという間に、2階のホール内でその声が広がっていく。
それと同時に、空気感が変わる。
何かやべえ。
みんなが口には出さないが、俺たち『暁の解放者』10人に対し向けられる、変な空気。
それがどんどん狭まり、近づいて来る。
「なあ、これやばくないか?」
そんな声が聞こえる。
「こいつは意識飛んだようだし、ゴブリンが自発的に行動を起こしている。出血が止まらず死んじまうと、こいつら外へ出るぞ。きっと。俺は現時点でそう推理する」
信二が、床に倒れた奴と周りを見回して、そんなことを言う。
冗談じゃない、俺らが原因でそんなことになったら、罰金じゃすまなくなる。
すでに、割り込んできたのがあいつだとしても、隆二は切ってしまった。
「馬鹿なことを言っていないで、さっさとそいつの止血をしろ。緊急用皮膚接合用テープがファーストエイドキットに入っているだろ。抗生物質軟膏を塗って。早くしろ」
俺は叫ぶが、誰も動けない。
このフロアには居ないはずの、ホブやほかの個体も居るのだろう、でかいのが混ざって来始めた。
床に倒れているこいつを、全部の個体が見ている。
そして視線を上げると、次は俺たちを見てくる。
その表情は見たこともない。仲間を殺されても、自分が切られてもゴブリンはほとんど表情を変えない。
それが普通。普段からこんな顔をされたら、切れなくなる。
奴らは、牙をむいて襲ってくるが、その目はふつう何も見ていない。
ところが、今の奴らは、俺らに対する憎しみと敵意が感じられる。
言い方はおかしいが、生き生きとしてにらんでやがる。
そして、その時が来た。
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