第3話 異常事態
「ゴブリンが、1階でも出現をしています」
夜半のダンジョン協会管理室から、連絡が地方本部に入る。
何か住み分けでもあるのか、それとも、人知を越えたダンジョンでの決まりがあるのか不明だが、基本、別の階にモンスターが移動することはめったにない。
よくあるのは、氾濫の前兆。
だが、その場合。決まって異常は奥から始まって来る。
協会員にも、初めての事例。
「何か分かっていることは?」
「ゴブリンが、総出でスライムを狩っているそうです」
「なんだと? 一体どうして」
「不明ですが、人間には見向きもせずという報告です」
「どうだった? 昨日よりは、うまくいったか?」
父さんにそう聞かれて、
「うん。まあ順調だよ。このままいけば、すぐに初心者は終わりそうだよ」
そう言うと、今晩は目が見開かれた。
「まあケガをしないように。ほどほどにな」
「うん」
翌日、ダンジョンへ行くと封鎖されていた。
「何だこれ?」
通路の頭上にある掲示板には、『異常事態発生中・封鎖』の文字。
事情を聞こうかと思ったが、どこもカウンターは一杯だ。
仕方が無い。
少し遠いが、別のダンジョンへ行こう。
町を越えてそれでも近い方のダンジョンへ移動する。
こちらは平和そうだ。
決まりとして、各ダンジョンごとに入れる階層の指定がある。
ここも、初心者は2階まで。
それ以降は、設置されている端末にタグかカードを通せば、行ける階層が表示される。
ただ、11階層とかにある、転移の石板は使えないので、初めて来た人は、徒歩で1からやり直し。
あれは協会の物ではなく、ダンジョンがもとから持っている仕組みだから、仕方がない。
僕はこの時、知らなかった。
いや、モンスター駆除従事者は、誰も知らなかったという方が正しいだろう。
むろん協会の人間も。
すべての事には、例外が存在することが。
すたすたと、出遅れた分を取り戻すように2階へと向かう。
そして、ふたたび見つめ合う僕とゴブリン。
まあ出会いは同じ。岩の下をのぞき込む僕。
影が、落ちて何かが来たことを知る。
見上げる僕と、見下ろすゴブリン。
「僕の名前は鬼司将。君の名はあるのかい?」
当然返事はなく、首をひねるゴブリン。
そして、やはり危害を加えられることは無く、僕は足元に這い出して来たスライムから核を抜く。
それを見ていた彼は、姿を消す。
あとは同じだ、「ぎゃいぎゃい」と言いながら、僕の足元に核が投げてよこされる。その人数? は増していき、あっという間に100個を超える。
「このダンジョンは、ゴブリンの数が多いのか? スライムは見た感じなかなか見つからないから多いのはゴブリンの方だよな」
そんな、のんきな考察をしていた頃。
「なあ。早くなんとかしてくれよ」
金髪で、傍らに立つ彼女だろうか? おそろいの金髪にピアス。
目には、白と赤のカラコン。そんな彼女の肩を抱きながら、やって来た担当者に訴える。
「えーともう一度お願いします。何が起こっているんですって?」
受付が変わり、やって来た専任担当者が聴取を始める。
「ちっ。もう一回かよ。きちっとメモをしてくれよ。頼むぜ」
そう言いながら、イラついた感じで男は担当者をにらむ。
オールバックにした髪。見下ろすようなしぐさで、にらんでくる。
白のカラコンで白目の多い目は、少し不気味さを醸し出す。
「だから、俺たちはまだ初心者レベルなので、1階と2階を探査をしていたんです。ところが、1いや2時間前くらい前から、ゴブリンの動きが活発になったのですが、普段のようにモンスター駆除従事者が目当てではなく、スライムを狙っているようでした。ただその中に、一回り大きなホブだと思えるゴブリンたちも混ざり始めてもうう、ゴブリンのお祭り状態かなと言う感じになって。スライムに対して、氷の魔法も使っていましたのでメイジも居たと思います。なあ、そんな感じだったよな。かおり」
「そうね。そんな感じね。担当の山崎さん。理解できまして?」
彼女の方も、前髪の隙間から覗く、赤い目でにらむ。
「詳細報告ありがとうございます。すぐに対応させていただきます」
それって、城東ニュータウンダンジョンと同じ状態? いえ、メイジやホブが混ざっている分厄介だわ。
「よろしくたのむぜ。1階と2階は弱い奴らしかいないからなぁ」
「そうよ。けが人が出る前に対応しなさい。わかって?」
「はい。速やかに対応いたします。ありがとうございました」
そう礼を言うと、彼らは帰っていった。
「最近は、ああいうのが流行りなのかしら?」
そうぼやきながら、担当者山崎は報告書を持って走っていく。
「なに? 柳新町ダンジョンでも同じ現象が? 一体何が起こっている? それで、城東ニュータウンは、今どうなっている?」
「相変わらず、ゴブリンたちはスライムを狩っています。一か所に山積みとなった核があるのですが、其処へ近づくと、突然奴らの雰囲気が変わり威嚇されます」
「何かの遊びか? 突然スライム狩りに目覚めたとか、一体何の冗談だ?」
混迷は深まっていく。
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