九 邂逅(二)
しばらくして、植月町停留所で二人は無事に横山車庫行の乗合を捕まえた。
植月神社の参道下を過ぎて少し進むと、乗合は本通へ出て行く。
『次は本通三丁目、本通三丁目、
車内放送を聞きながら車窓を見ていた啓一は、そこでおかしなことに気づいた。
桜通との交叉点に停留所が設置されておらず、そのまま通過してしまったのである。
あんなやくざな場所とはいえ曲がりなりにも中心歓楽街、無視どころか通り自体なきがごとき扱いをするというのはいかにも奇妙だ。
もっともここにかたぎの市民はいないというし、やくざ破落戸どもにも乗合なぞ使う用事はないだろうから、需要のないものを設置する必要がないと言えばそれまでである。
だがやはりここまで露骨だと、桜通との関わり合いを嫌がってわざと無視を決め込んでいるのではないかと邪推したくなるのも事実だった。
本通の突き当たりにある市庁の前を鍵の手に曲がり、大きな川を渡って雑木林の中を少々走ると、そこが赤駒本町である。
「おや、こいつはなかなか……」
名前が「本町」という割にはそのような雰囲気はなく、周囲は林の中であった。
雨は降ってこそいないが、映画『となりのトトロ』で主人公姉妹がトトロと乗合を待った「稲荷前」停留所の雰囲気である。
(そういやあの姉の名前も『サツキ』だったな)
たわいもないことを思い返してくすくす笑う啓一をよそに、サツキはうきうきしている。
今日の服装は一応何かあったらということでスーツにしているだけに、何とも妙な感じだ。
「赤駒に山野に横山か……『万葉集』の
「え、短歌にちなむの?」
「ああ。九州を警護する防人に徴兵された東国の人や家族の歌だ。『赤駒を山野に放って捕まえられぬまま、多摩の横山を歩かせて行かねばならないのだろうか』。詠んだのは女房だったかな。防人はえらく過酷だから、もう二度と会えないかも知れないっていう気持ちのこもった悲壮な歌も少なくない。ここの場合は、単に有名な歌だから取ったってだけだろうけど」
「………」
啓一の説明にサツキは一瞬暗い顔をしたが、すぐに、
「あそこの遊歩道、歩いてみましょうよ」
下を流れる川端の遊歩道を指差す。
玉川上水を模したものだろうか、桜と思われる木が川端に植えられ、のどかな歩道となっていた。
下りてみると、ちょこちょこ人が歩いている。
獣人の夫婦が肩を寄せ合っていたり、人間の老人が杖を突いて歩いていたり、人間も獣人もアンドロイドもごちゃ混ぜの若者集団がしゃべり合いながら流していたりと、橋一つ越えた先が殺伐とした反社会的勢力の根城とは思えないほどの別世界であった。
「葉っぱ、さして赤くないわねえ」
「十月頭だよ、少しばかり早くないかい?環境が地球と一緒なんなら来週くらいじゃないか」
「それもそうね」
てくてくとそぞろ歩きしながら、サツキが上機嫌で答える。
緑ヶ丘に来てから、こんなに笑った彼女を見たのは初めてだ。
「それにしても、想定外とはいえ休めてよかったかも。気分がくさくさしてたから」
「昨日の夜辺りから、顔がそう言ってたよ」
「あらやだ。……それにしても、見てると私たちみたいな格好の人いないわね」
「普通なら仕事してる時間帯だからなあ。昼休みまではまだあるし」
「それもそうね。そんな時間にこうしてスーツ姿の男女が仕事でもなさそうな雰囲気で語らい歩いてるって、通る人は何だと思うかしら」
「さあな、さぼりと思われたりして」
「不粋なこと言うわね。そこは一つ、『デート』くらい言っておいて……」
そう言いかけた瞬間、サツキの顔が真っ赤になる。
(えッ……?)
このうぶそのものの反応に、啓一は意外の感にとらわれた。
男性をいきなり同居させて平然としていることといい、ごく普通に手に触れたりしていることといい、異性に対する耐性が人並み以上にあると思っていたからである。
どうやらサツキ嬢、同じ異性に対するでも助けたり親切にしたりといったことでは恐ろしいほどに積極的だが、恋愛要素が入るといきなり奥手になるくちのようだ。
今のもありがちな冗談で返そうとしたところ、気づいて急に恥ずかしくなってしまったのだろう。もし他人が見たなら、漫画やアニメでもあるまいしと言いそうな過剰反応だった。
(まあそっちでも積極的なら、とっくに恋人くらいいるだろうからな。それに彼女みたいな美女がこんな
そう思って苦笑した啓一は、自分の顔も少々赤くなっていることに気づいていない。
「……と、ともかく!これってどれくらいまで続いてるのかしらね」
振り切るように言い、サツキは話を無理矢理変えた。
「この用水路自体はさっきのでかい川から分岐した後、弓なりに流れて横山集落の南でまた合流してるみたいだな。遊歩道の終点が緑地って言ってたけど、そこに堰でもある感じかね」
空中ディスプレイに受付でも見せられた観光地図を出して、啓一はいろいろと調べる。
「現在位置は……ありゃ、気がつかないうちに結構来たな。山野地区の中に入ってる」
「結構この地区狭いのね。すぐに通り抜けちゃうわ」
「だね。……しかしコロニーってどう考えても計画都市だろうに、新星といいここといいよく考えて作られてるよな」
実際他のコロニーの地図を見てみても、本当に計画都市かと思うほど自然な街の形となっている。
中心部では整然とした街路も見られるが、「定規でまっすぐ線を引いて作りました」というような「わざとらしさ」がなかった。
「モデルがあるからってのもあると思うわよ。それとやっぱり移住して来た人にしてみれば、せっかく長く住むんだから愛着が湧く街並みの方がいいじゃないの」
「そうだなあ……」
啓一は、
中央区の「新星橋通り」は日本橋と銀座、その横は有楽町と丸ノ内。
後者は昭和の戦前戦後が混じったような感じだったが、いずれにせよ東京生まれや東京をよく知る人の愛情を感じる街並みだった。
事故で異世界、さらに宇宙へ転移などというとんでもない目には遭ったが、そういった思い入れを大事にする人々のいる世界へ飛ばされたのはまだ幸いだったかも知れぬ。
「ここの中心部も、市庁の位置を城跡に擬制して城下町っぽくしてあるんだよな。通りのつながり方や町の区割がそうなってる。それだけに、もったいねえよなあ」
「………」
サツキは何も答えなかった。今あちらのことは考えたくないということか。
失言だったかと啓一は口をつぐんだが、すぐにサツキから不快そうな雰囲気は消えた。
ぴくり、ぴくりと耳が動いている。何かをじっくり聞いているような感じだ。
「……いい音ね。新星は都会だから、どうしてもこういうのとは縁遠くなるわ」
先にも述べた通り、新星市は我々の世界での旧東京市十五区に相当する街である。多少「郊外」と呼べるような場所はあるが、ここのように田園や雑木林の広がる本格的な「郊外」はないのだ。
隣へ足を伸ばせばあるにはあるが、それをやっている暇が普段彼女にあるかというと疑問である。
それだけに、この感慨ももっともと思えた。
「そうだろうね。元の世界の東京でも、二十三区の人にはそう縁のある光景じゃなかったしな」
雰囲気を壊さぬようそれだけ答えて、啓一は静かに歩みを進める。
そうして二十分ほど進むと、対岸にひょいと乗合の車庫が顔を出した。
「あれ、もう横山集落に入ってたんだな」
啓一が、そんなことをひとりごちた次の瞬間である。
ごんと鈍い音を立てて、道のど真ん中の木にぶつかったものだ。
「あ痛ッ!?……お、おい、こんなとこに木かよ!?」
「何やってるの、ここ緑地みたいよ?」
「あ、本当だ。終点になってるっていうあれか」
見れば、眼の前には木に囲まれた小さな緑地がある。
「恥っずかしいなあ」
「まあ、私も絶対ぶつからない自信があると言ったら嘘になるわね、この位置は」
思わず苦笑し合ってしまった。
「いいわね、ここ。少し入るだけ入ってみない?」
「そうするか。あの橋の周りだけ注意すればいいだろうし」
緑地の右奥には、果たして受付が言った通り中心部へ向かうらしき細い橋が架かっていた。人が余り通らないと見えてやや荒れているが、むしろこの場合はそちらの方が安心出来る。
「そういえばこの先、南原なのね」
「ああ、そうみたいだ。企業用地って言ってたけど何なんだろうな」
「観光用の地図だからかしら、社名書いてないわねえ」
果たして十分ほどで、二人は緑地の奥までたどり着いた。
啓一が想像した通り堰があるようで、そこの部分だけ木が途切れ開けている。
が、その時だった。
眼の前に広がった光景に、サツキが呆然とする。
「え、工場?何でこんなところに?」
「ひい、ふう、みい……おいおい、三つもあるぞ」
「散歩に向かないっていうのは、このせいもあったのね。社屋だけならともかくこんな大きな工場が立ち並んでるんじゃ、確かに到底勧められないわ」
いきなり今までの雰囲気をぶち壊しに来た工場群に驚いていると、正門とおぼしき場所に車が止まり誰かが降りるのが見えた。
護衛つきのところを見ると、この工場を所有している企業のお偉いさんだろうか。
それを眺めていた時であった。
「啓一さん、あ、あれ……」
サツキがいきなり身を震わせながら、工場の上の方を指差す。
そちらを見て、啓一は瞠目した。
「『一新興国産業本社第一工場』だって……!?」
瞬間、啓一は転移の直後に
あの時、サツキはこの会社――一新興国産業がいかにやくざな会社かを話してくれたはずだ。さらに、社長や幹部に反社会的勢力とのつながりが噂されているとも。
サツキは凍りついていた。新星にあるのは支社で本社は別にあると知ってはいたが、まさか緑ヶ丘にあろうとは夢にだに思わなかったのだろう。
「……どうして」
サツキの口からようやく言葉が出た。見ると、泪を浮かべている。
「どうして、せっかく一時とはいえ反社や破落戸とかから離れられたのに、ここまで来てまたこんなもの見なくちゃいけないの……?この街は、かたぎの人をいじめたいの?」
「サツキさん、それは……」
その瞬間サツキは身を翻し、
必死で追い駆けるが、そのまま橋へ突入してほぼ全速力で駆け抜けて行く。
種族の違いもあるのだろうが、余りにも速すぎてなかなか追いつけなかった。
普段のサツキならやくざ企業の一つ目撃したところで眉をしかめはしても、我を失って逃げ出すことはなかっただろう。
だが来たその日からこちらやくざ破落戸の雨あられにさらされ続けたことで、精神的にもろくなっていたことは想像に難くなかった。
(くそ、間の悪い時に!……とにかく早く止めないと!)
このままでは、走るまま妙なところに突入して事件に巻き込まれかねない。
だが、その予想が当たってしまった。
「朝日通」と案内板に書かれた通りに飛び込んだのを見て入ると、何と破落戸が彼女を追い回していたのである。
これに啓一がぷつりと切れた。今のサツキにとって、一番会わせたくない連中である。
「てめえら、何してやがる!!」
しかしけんかなぞしたことのない啓一にとって、これは余りに無謀である。すぐに防戦となってしまい、通りの隅へ追い込まれた。
殴りかかろうとする破落戸の手を何とか避けるが、余りにしつこくきりがない。
とうとう啓一は、ここでついに最終手段に出た。
「
バランスを取るため開きっぱなしになっていた破落戸の股を、思い切り蹴り上げたのである。
いわゆる「金的」というやつだ。情けない戦法だが、この際構っていられない。
「むうん……」
男の性というやつだろう、急所中の急所をやられたのを見て他の破落戸がひるんだ一瞬を突き、
「サツキさん!こっちへ!」
啓一は叫ぶとサツキの手を取って走り始める。
「神明社だ、神明社へ!」
ここで啓一は、昨日シェリルから話を聞いたばかりの「駆け込み宮」を使うことにした。
横道に飛び込んで破落戸をまきつつ、神明通を探す。
ややあって、
鳥居横で巫女が掃除をしているのを見出した啓一は、
「すみません!助けてください!」
力の限り叫んだ。
すぐに察したのだろう、巫女はほうきを放り出すやすっ飛んで来て、二人を拝殿へ導く。
「早く!早く入ってください!」
だが破落戸の方が速く、階段を上がりかけたところで鳥居の向こうに顔が見えた。
「くそッ、あそこだ!拝殿入られたら手出し出来ねえぞ!」
「構うもんか、引きずり下ろしてやれ!」
礼拝所がどうしたと言わんばかりの破落戸の叫びに、二人が青くなったその時である。
いきなり境内のどこかから男性が飛び出して来たかと思いきや、鳥居をくぐって拝殿近くまで吶喊して来た破落戸の前に思い切り立ちはだかったものだ。
「
「こ、この!何だお前は!」
「三下の常套句だね。名乗る義理はない」
煽るような言葉に、破落戸が男性を殴りつける。
「正当防衛成立」
そう言うや、男性は破落戸を一気に蹴り倒した。まさに一瞬のことである。
「こ……」
もう一人も飛びかかろうとした直後に、斜め上から首許に手刀をぶち込まれて尻餅をついた。
場所を考えると、気絶しなかったのが奇跡である。
「見てないで早く入って!あと通報!」
男性の叫びに我に返った三人は、あわてて拝殿に飛び込んだ。
「覚えてやがれよ!」
表でどたばたと足音が響く。どうやらかなわぬと知って逃げ出したらしかった。
「……捨てぜりふまで三下か」
そのつぶやきを扉の外に聞きながら、巫女が警察に通報する。
「すぐ来ますから、安心してください」
耳をぺたんと伏せて震えるサツキを抱きしめながら、巫女が言った。
ややあって、警察官が数人やって来て拝殿の扉を開く。
「大丈夫ですか?けがはありませんか?」
「ええ、何とかこちらの巫女さんと、応戦してくれた男の方のおかげで……」
ようやく躰の震えが止まったサツキが、真っ先に答える。
「応戦された方というのは、そちらの方ですかね」
「えッ、違います。俺は一応やりましたけど逃げる方が先で。それとは別に、そこの鳥居辺りで正当防衛取ってのめしてくれた人がいるんですよ」
思わぬことを言われて、啓一はそう説明した。
だが警察官は眼を丸くすると、
「おかしいな……そんな人いませんでしたが。おい、ここ来た時に誰かいたっけかー!?」
扉を開き鳥居近くにいる同僚に大声で訊ねた。
「いえ、いませんでした」
すぐに戸惑った声で答えが返って来る。
「おかしいですね、確かにいたのに」
「どんな方だったか見ましたか」
「いや、この騒ぎでしたし、後ろ姿しか見ていません。ただ少なくとも人間だったのは確かです」
「人間ですか……それじゃ分かりませんね」
「ああ、そうだ。どういうわけかここの境内にいたんですよ、その人。参拝者だったのかな」
「なるほど。
啓一の言葉に、警察官が巫女に問う。この神社に来る人物なら顔見知りの可能性は高いはずだ。
「いえ、知りません」
「林野」と呼ばれた巫女は、あっさり否定する。
「分かりました。本当は交番に来ていただきたいのですが、その様子では無理ですよね。ここでお話をお聞きします」
サツキは震えこそ止まったものの、躰から完全に力が抜けており立てる状態ですらなかった。
警察官もその辺は予想していたようで、書類を持参して来ている。
「……なるほど、よく分かりました」
啓一とサツキが語るのを質問を繰り返しながら書き留めると、警察官は、
「訊くまでもないと思いますが、被害届を出されますか」
そう言って書類を出した。この用意のよさ、どれだけこの手の被害が多いのか物語るようである。
うなずくと、警察官の代書を混じえながら作成が始まった。
「禾津さん、今回は仕方ありませんが股間を狙うのはなるべく避けた方がいいです。金的で死ぬ人もいないではないので。過剰防衛どころの話じゃなくなります」
「申しわけありません。しかし、実に情けない話で……」
「いえ、充分やったわよ。むしろ悪かったのは、あそこでおかしくなっちゃった私の方だもの」
「いやそれは……この頃のことを思うと責められないさ」
人は心が疲弊しきっていると、どうしても情緒不安定になって崩れやすくなるものである。
躁鬱などと揶揄するなかれ、誰であろうと人は弱いのだ。
「それでは、これで捜査を進めますので。出来れば助けに入った方も見つけたいですが、この分だと名乗り出でもしない限りは無理ですね……。もし何かあったら、連絡させていただきます」
そう告げると、警察官は帰って行った。
「はあ……厄落としになったかと思ったら、数倍以上の厄がついて来やがった……」
がっくりと肩を落とす啓一に、林野女史が茶を勧める。
「ああ、すみません。同僚の様子まで見ていただいて……ほんと、警察に注意されるようなやり方でしか立ち向かえず逃げる一方とは、情けない限りだ」
「ご自分を責めないでください、真島さんの言う通り充分に出来ることをしたんですから。禾津さんがいなかったら男三対女一です、この通りに逃げることすら難しかったでしょう」
「まあ確かに……」
彼女の言うことも事実ではあった。自分がいなければサツキはどうなっていたか。
だがやはりその場にいたからには、他人に必要以上の迷惑をかけることなく、一人で追い払ってしまうにしくはないはずだ。
警察官は「まず逃げろ」と言うそうだが、尻尾巻いてすごすごというのもみっともない話である。
啓一は暗い顔をしていたが、そこでさっきから気になっていたことを訊ねた。
「すみません、突然話が変わりますが……もしかして、先日新星の筋違橋ですれ違いませんでしたか?お連れの方の落とした乗船券を拾った者です」
「えっ、ああ!どこかで見た覚えがあると思ったら……」
騒ぎのためすっかり話に上らなかったが、相手もうすうす気づいていたらしい。
「恐れ入ります。私はこちら、緑ヶ丘神明社の宮司兼巫女を務めます
「いえ、頭を上げてください。あんな破落戸、そちらの市民だなんて思いませんから」
深々と頭を下げる瑞香をサツキが取りなすが、
「そうは行きません。同じ土地にいる以上は言いわけなりません」
小さくなって言うばかりだ。筋違橋で見かけた時もそうだったが、非常にまじめな女性らしい。
「ところで、どちらにお泊りですか?一度目をつけられていますし危険ですから、お帰りの際にタクシーをお呼びしますよ」
「植月町の『ビジネスホテルよしやす』です。植月神社の下辺りの……」
「あッ、そこだと……もしかすると百枝さんに頼めば」
場所を聞いて瑞香が言うのに、啓一ははっとなった。
「そういえば、倉敷さんと一緒に歩いてましたよね、あの時」
「そうです。百枝さんと直接お会いになったんですか」
「ええ、二人とも」
「まあ、それは。宮司と巫女の職にありながらとてもがさつで荒っぽくて口の悪い人でしょう、失礼があったなら親友として代わりに謝らせていただきます」
「いえいえ、ああいう鉄火なご神職や巫女さんがいてもいいと思いますよ」
「そうでしょうか……。私は心配でならないんですが」
瑞香がそう言った時だ。
着信音が鳴ったのを聞いて、サツキが手許に携帯電話を出現させる。
「もしもし、真島ですが……ああ、所長ですか。会議の結果が出たんですか」
どうやら相手はハルカらしい。見れば
しばらく話をすると、サツキはこっちを向いた。
「研究所から。結局、工期に合わせて延ばすって話になったわ。詳しいことは会議の
「うーん、じゃあ帰った方がいいかね?というより、大丈夫かい」
「ええ、もう大丈夫よ。さっさと帰りましょ、疲れたわ……」
二人ともうなずき合う。もうこれ以上のことは充分だ。
「じゃあ、百枝さんに電話します。いいでしょうか」
「あの……倉敷さんに迷惑じゃないですかね」
「いえ、こうして迎えに来てもらうことが多いので」
さらっと言うが、とんでもない話である。
やはり自分たちのように植月町に泊まっている者が迷い込んでしまい、こうして世話になることが多いのだろうか……。
気まずい気分のまま、二人は瑞香のかける電話の声を聞いていた。
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