照也と海斗

第1話 三郷照也


ライブというのはドラッグのようなものだと思う。

この照明、この爆音、この歓声、なにも考えられなくなる。

この感覚だ。

なにも考えなくても、身体が、指が、足が動く。声が出る。


この感覚に入るのがライブだ。


この感覚になると、僕は、僕たちはどこまででも行ける気がする。


だけど、

だけど、あの日々を超える事が出来るのか、僕たちはあの日々の僕たちを超えることができるのかなぁ。


ねぇ、カイ。



【Beyond Those Days】



2020年10月 千葉県 転石高校


誰とも話せなかった。

結局2年半、誰とも話せなかった。

話しかけて来てくれた人はいた。

学年みんなと友達になろうとしているのか。ってくらいみんなと社交的に話すあの子も、ライン交換しよう!って言ってくれた。


僕は話しかけて来てくれた時、どうしたらいいかわけがわからずに、スマホ持ってない。という謎の前時代男になりすましてしまった。


おかげさまで、学校でスマホを取り出すことさえ出来なくなった。

ポケットに入れていても、形が浮いちゃうかなー。なんて思うと、ポケットにも入れられなくなった。


どうにも人と話すのが苦手だった。


昔から友達と遊ばないでギターを弾き続けた。

小学校、中学校の9年で7回転校をした。父さんが転勤族なんだ。

その度に友達との別れがあった。

辛いことは2度経験したくない。まして7度なんて、気が振れてしまう。


転校前後は誰のことも知らないし、わからない。

僕のことも誰も知らない。

だからある意味気楽だった。

転校初日を"挙動不審な奴"で乗り切ってしまえば、もうだれも話しかけてこない。

そうなれば気楽だ。そんな僕は俗に言う"コミュ障"ってやつなんだと思う。


だからギターを弾いた。弾きまくった。ギターの腕前にはかなり自身がある。

誰にも披露することはないけどね。


小学校高学年になる頃には、友達を作ってもどうせ転校するんでしょ!?だったらギターを弾いてるよ。って。


気付いたら人と話さなくなっていた。

いや、話せなくなっていた。



僕の名前は、三郷照也。




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