スライム転生-2
とは言え、打ちひしがれているだけではどうしようもない。
どうにかしなくてはいけない。
まずは自分の体がどうなっているのか確認だ。
改めて手足を動かしてみる。
結果、全く動く気配なし。
というより、今気が付いたが手足がある感覚がない。
具体的に言うと肩より先に手や足がないといった喪失感ではなく、元から手足がない感覚があった。
何を言っているのかわからないと思うがそうとしか言いようがない。
これで手足が動かなかった理由がわかった。
元から手足がないのだから動かしようがない。
では、この体は一体何なのだろう。
手足がないことがわかったが俺には生前手足があった、自殺するときだって極度の疲労によってギリギリだったが手足はキチンと存在していた。
(死んだ後、どこかに切り落とされでもしたのだろうか)
いや、それはないだろう。
いくら物理的に肉体を切り刻まれようと魂までは影響はないはずだ(無いと思いたい)。
それとも魂だけになると手足はなくなるのだろうか?
これもないと思う。
俺を
流石に手足がないのに棒で物を突くことができるとは思えない。
この体は本当に何なのだろう。
手足がなくなっているのも謎だが、あの波打つような動きは一体何なのだろうか。
必死で逃げている内にこの移動方法に慣れてしまったけれど、本当に訳が分からない。
まるで体が別の生き物になってしまったみたいだ。
(いや、まてよ)
(本当に別の生き物になってしまったのでは?)
ここは死後の世界だろうと思い込んでいたがそうでなかったとしたら?
あるはずの手足の喪失、波立つ体、真っ暗で見えない視界、鈍い感覚、その他にもいろいろとおかしな体の異常。
いままで死んだからだと何となく思っていた事柄がもし別の体に変化していたのだとしたら?
次々に浮かぶ疑問に愕然としながら俺は一つの結論に至っていた。
(俺は転生したのかもしれない。前世の記憶を持ったまま)
(もしそうなら確かめないといけない)
俺はそう決心し、自身の姿を確かめるべく行動を開始した。
移動方法はもう何の違和感もなく意識せずとも動かすことができる。
目下必要なのは視界の確保である。
今のままでは何も見えない。
今が昼なのか、夜なのかもわからない。
これでは他の行動のしようがない。
ここで一つ俺はひらめいた。
(そうだ、見えないなら他から持って来れば良い)
その革新的なひらめきは俺に次の行動を選択させた。
それは先ほどの突いてきた存在を襲い、眼球を貰うということである。
俺はそのひらめきに従い、それを探しまわった。
手足がないとか、もはやどうでもよかった。
眼球だ。
眼球を得なければ。
もはやどうやって探しまわったのかとか思い出せないが俺は確かに奴に近付いていた。
そして、見つけた。
見えないし、聞こえないし、においもわからないが確かに目の前に奴がいる。
そう俺は確信した。
確信するや否や俺は奴に飛び掛かった。
何で出来たとかはわからない。
ただ、何かに突き動かされるように襲い掛かった。
奴は我武者羅に暴れた。
俺を引き剝がそうとしたし、殴ったし、蹴ったりもした。
俺も必死だった。
奴の眼球を取ろうと必死だった。
顔も、名前も、どこの誰かも知らないが奴の眼球が必要だった。
どのくらいの時間奴と格闘していたのだろう。
奴はいつの間にか息絶えていた。
俺は奴の顔に張り付くと奴の眼孔に侵入し、ひとつずつ丁寧に奴の眼球を取り込んでいった。
ふたつとも取り込み終え、一息ついた後、俺は取り込んだ眼球を自分の中に生成した。
最初は光が見えた。
目も眩むような光だった。
次に木々が目に入った。
鮮やかな緑色をした生命力あふれる木々であった。
水が見えた。
日の光を反射し、キラキラと光る透き通った水であった。
(ここは湖だったのか)
目の前に広がる景色にしばしの間見とれていたが、当初の目的を思い出し、慌てて湖へと近づき、水面へと顔を近づけた。
そこには生き物の眼球を体内に浮かべた透明な粘液が映っていた。
(これが)
これが俺なのか。
透明な液体なのか固体なのかよくわからない不定形の粘液が。
体内に目玉を浮かべたこの不定形の化け物が。
(俺なのか)
俺はスライムになっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます