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とあるきっかけで出会った謎の人物、米莉アル。この人物の謎が明かされるのは当分先だと思っていた。ゲームで例えるなら黒幕の目的が明らかになったり主人公サイドの隠された過去が明らかになったり……つまりは物語終盤でようやっと明かされるような、そんな謎だと思い込んでいたのだ。
「何やら考えているようだけど、何か問題でもあるのかい?」
「そういう訳じゃないんです。ただ、いいんですか? こんなあっさりと」
「別にいいよ。知ってもらった方がこの後スムーズに話を進められるし。何か不都合が生じたのなら口封じに殺すか、記憶を失くせばいいだけだからね」
一瞬でもこの人が心を開いてくれたのかと勘違いした僕が馬鹿だったようだ。
「ボクの正体はね、悪魔憑きなんだよ」
「悪魔憑き……」
「わかるだろ? 君が今まで見てきた友人達の記憶によく出てきてたはずだ」
「そうですね。でも、あいつらとはずいぶん違うように見えますが」
「それは憑いている物の質が違うからだね」
「質ですか」
「ああ。君が見て来た奴らに憑いていたのは力の弱い悪霊とか悪魔で、ボク等の間では
「名無しと名前付きでどんな違いが?」
「単純にスペックが違う。名無しの方は多少運動能力は上がるけど狂気にまみれてとても意思疎通出来そうになかっただろ? 対してボクらは、名無しの何倍も運動能力や知力が上昇しているうえに、こうして意識もちゃんとある」
「その運動能力や知力というのは具体的にどれくらいなんですか?」
「ボクの場合だと、どんな種目でもオリンピックの代表になれるくらいの運動能力はあるし、どの大学にも楽に入学できるだろうね」
「はあ、それはまた……」
知力の方はまだわかるけど、とても運動が出来そうな外見をしていなかったのでそれは意外だった。でも確かに、記憶の中のレヴィやルーシーは悪魔憑きを倒すのに苦労していた様子は全くなかったなと思い出した。
「と言っても、ボクは名前付きの中でも下から数えた方が早いレベルだ」
「そうなんですか?」
「他の2人はボクより上だし、それこそ、読心だったり未来予知みたいな特殊な能力を持った奴もいるよ」
「他にもいるんですか。それはどのくらい? それと、何時悪魔憑きに遭ったのかは憶えているんですか?」
「そうだね。じゃあそこら辺をまとめて教えてあげよう」
※※※
気が付いた時、ボクはとある集団の中で生活していた。今風に言うとシェアハウスだね、色んな奴らと一つ屋根の下で暮らしていた。それ以前の暮らしや親に関しての記憶は全くないんだ。あるのは、漠然とした『自分は何かに取り憑かれているんだ』っていう感覚だけだった。
で、自分と同じ境遇の奴らが5、6人くらい。それと、それらを纏めるリーダー役の人物が1人という構成で暮らしていた。いくつかのルールはあったものの、基本的に自由に暮らしていいと言われていたんだ。既に大学に入れるレベルの知力はあったからね。大抵の奴らは自分の好きな事を見つけて、自由気ままに暮らしていたらしい。
当時小学生のボクは特にやりたい事がなかったから、リーダーに頼んで小学校に通わせてもらっていたんだ。仲の良かったレヴィ、ルーシーと一緒にね。気が付いたかい? そんな時、君に会ったんだ。
「じゃあやっぱり、あの時の子供は米莉さんだったんですね」
「そうだよ。あの時出会わなければキミの人生も狂うことは無かった。いやあ、申し訳ないね」
彼女は全くもって申し訳なさそうにそう言った。
「狂う? どういうことです?」
「あの公園で『ぐちゃぐちゃ』に会う日までは、怪異の方からキミに襲い掛かってくることは無かったのだろう?」
「そうですね」
「それはボクのせいなんだ。あの日たまたま近くにいたボクの力の影響を受けて、『怪異を見る力』が『怪異を引き寄せる力』に強化されてしまったんだな。普通にすれ違ったくらいじゃ影響は出ない筈なんだけど、あの公園は色々といわく付きの場所なのかもしれないね」
「なんと……」
「本来ならボク等悪魔憑きが普通の人間にここまで深く関わる事なんてないんだ。でも、キミとボクにはそういった過去があったから、それ以来何度も同じ怪異の事件に巻き込まれていたってわけ」
「えっ、それってつまり……僕らの事を守ってくれていたってことですか!?」
「違う。怪異に襲われ、翻弄されるキミたちの姿が面白かったからだよ。キミらは憶えていないんだろうけど、小学校から大学卒業までの間かなりの回数怪異事件に巻き込まれているんだ。その度にボクらが助けていたってわけ。何故助けたのかというと、キミらに死なれちゃ面白い物が見れなくなるからだね」
「あ、そうですか……」
「レヴィとルーシーは最初全然関わらなかったんだけどね。ボクが構っているのを見ていたら興味がわいたみたいで、そのうち一緒になって世話を焼くようになったんだよ」
米莉さんはああ言っているけど、助けてくれた事実に変わりはないだろう。いや待てよ、そもそも僕の体質が強化されてしまったのはこの人のせいだから……まあ、いいか。
「そういや、どうして僕らの記憶は消えているんですか?」
「ボク等が消しているんだよ。さっき言った『いくつかあるルール』の中に、『一般人と関わった際は記憶を消すように』っていう項目があるんだ」
「どうやって記憶を?」
「
「あっ、記憶を消すっていうのはあれですか? 黒い本で頭をポンってやる」
「そうだね。まあ本自体に力はないんだけど……これはまた今度説明しよう」
なるほど。僕達の記憶が途切れ途切れで、度々何か引っかかるものを感じていたのはこういった理由があったからなのか。
「色んな謎が解けましたよ。でも、今までの話からは僕は米莉さんにどんな協力をすればいいかわかりません。一体何を……?」
「じゃあ、本題に入るとしようか」
彼女はタバコの火を消し、コーヒーの残りを一気に飲んでそう言った。
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