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 ユリと神宮寺ラミアの予定の調整が完了し、再び喫茶店で集まる事になった。約束した時間よりも早く到着して待っている間、僕は色々と考えを巡らせた。今、気になる事は2つある。

 


 1つ目は先日みた夢の内容。おそらく、あれは夢では無くユリの記憶なのだろう。では何故、僕はそれを見ることが出来たのだろうか? 元々特殊な能力を持っていたのだから、能力が強化されたとか、新たな能力に目覚めたとかそういうことなのだろうか? 使いこなすことが出来れば非常に便利ではあるが、他人のプライバシーを覗き見るのだから乱用してはいけない。使いどころを見極める必要がありそうだ。



 2つ目は例の、黒い本を持った謎の人物。ユリが言っていた『昔会った気がする黒い本を持った人』というのは、僕はてっきり米莉さんだと思っていた。が、ユリの記憶にいた人物は全くの別人だった。たしか、レヴィ亜紗野だっけ。


 ユリはあの子の事をクラスメイトだと記憶していたようだけど、起きた後卒業アルバムを調べてみも彼女は載っていなかった。ユリのクラスに潜り込んでいて、去る時に自分に関する記憶や記録を消していったのだろうか? では彼女は何故そんなことをしたのか? 今は思いつかない、保留しておこう。


 米莉アルとレヴィ亜紗野。あの2人はどういう関係なのだろう? 黒い本を持っている事やどこか人間離れした雰囲気を纏っている事など共通点があるので、無関係ではないと思う。では、目的は何なのだろう? 他に仲間は居るのか? 何故僕らの周りに現れる? 誰かを狙っているか? 新たな手掛かりが見つかり進展があるのかと思いきや、それ以上に疑問が増えてぬかるみに嵌まってしまった。



 とりあえず今の段階ではこんなもんかと考えつつ、冷めきったコーヒーを飲み干す。時計を確認してそろそろかなと思っていると、メイド服を着た金髪の女の子を連れてユリがやってきた。




 ※※※

 



「ごめんね、少し遅れちゃった」

「おー白森じゃん! おいすー」


 神宮寺と会うのは久しぶりだった。一体どんな格好で来るのだろう? 20歳をこえて少しはおとなしくなったのだろうか? と、色々事前に考えていたのだが、彼女は僕の予想をはるかに上回って来た。

 

「ああ、久しぶり。悪いねわざわざ来てもらっちゃって」

「別にー。っていうか白森、小説家になったってホント?」

「ああ、まあ」

「マジ? ゴイスー! 印税? 印税生活なの?」

「いや全然。1冊しか本を出していないし、それも全然売れてないんだよね」

「なんだそっかー。折角今日は色々話す代わりにゴチソウになろうと思ってたのに! じゃあいいよ、八角橋のエースメイドであるウチが逆にお金を出してあげよう」


 神宮寺は相変わらずだった。というかさらにパワーアップ、いや、頭のネジが緩んでいないだろうか? なんだよ、八角橋のエースメイドって。


「その服は?」

「今さー、八角橋商店街にある喫茶店でバイトしてるんだよね。で、どうせならメイド服取り入れませんかって提案したの。最初はマスターもシブってたんだけど、実際やってみるとスゴイ客増えてさ! 他のバイトの子もマネし始めたんだよ」

「だからエースメイド?」

「そう! ソソるでしょ?」


 確かに神宮寺は昔に比べるとかなり肉付きの良いナイスなボディに成長していた。強力な武器であることは認めよう。しかし、『普通もしくはややだらしない体型』が好みの僕にそれは通用しない。残念だったな。もちろんこんな事を口には出せないので、適当に「あーそそるそそる」と返事しておいた。僕らはそれぞれ注文を頼むと、早速本題へと入る。



「先日の『黒い本の女の子』の事なんだけどさ」

「ああ、何か思い出した事ある?」

「やっぱりイツキ君が言っていた小学生の時に見た子は思い出せなかったの。でもそれとは別に、中学時代の思い出の中に黒い本を持った女の子がちょくちょく出てきて……ラミアちゃんもそうなんだよね?」

「うん。中学時代の事を思い出してみると、色んなシーンの片隅に黒い本を持った子がいるんだよね。でもフシギでさー、卒アルを見てもそんな子どこにもいないんだよね」


 その後2人から色々と中学時代の思い出を聞いたのだが、これといった手がかりを得る事は出来なかった。しかし、1つだけ言えることがある。それは、レヴィ亜紗野という謎の人物のおかげでこうして2人は生きているという事だ。

 

 楽しそうに話しているユリと神宮寺を眺めながら、僕はそんな事を考えた。



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