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米莉アルと出会ったあの日の夜、僕は小学校時代の夢を見た。
その夢の中で僕は普通の人には見えないような怪異を見ることができる能力と、怪異を呼び寄せてしまう能力を持っていた。
目を覚ますと、それは夢では無いのだという事を思い出した。
僕には霊感体質が備わっており、学生時代に心霊体験は山ほどしてきた。そのせいで周りのクラスメイト達はいつも不思議で不気味な怪現象に襲われていた。ちょっとした嫌がらせから、本気でこちらの命を奪おうとする凶悪なものまで様々な怪異がいたのを思い出す。かなり印象に残る思い出のはずなのに、どうして完全に忘れてしまっていたのか。そして何故、今になって思い出すことが出来たのだろうか?
それについては、自分の中に一つの仮説が浮かびあがっていた。
おそらく、米莉アルと出会った事がきっかけで記憶がよみがえったのだろう。公園で怪異に襲われていた僕を助けてくれた謎の6年生、あれは米莉さんだったのではないだろうか? 外見、人を見下したようなしゃべりかた、どこか人間離れした雰囲気、あの子と米莉さんはそっくりだった。
しかし、何が原因で忘れてしまっていたのか? とか、米莉さんは僕と同じように特殊な能力を持っているのか? といった謎はまだまだ残されている。なので、思い切って直接本人に聞いてみようと思って僕は昨日彼女から貰った名刺に記載されている番号に電話をかけてみた。3回掛けた内、2回は留守電で最後の1回は繋がらなくなっていた。おそらくうっとおしくなって着信拒否をしたのだろう。自分から連絡先を渡しておいて普通こんなことをするか? あの人ならやるな。
そんな事をぐるぐると考えていたら、急に夢の内容や過去の記憶が薄れていくのに気が付いた。急いで記録を残したのだが、結局あの公園での心霊体験しか残すことが出来ず、過去に起きた心霊体験の記憶は再び消えてしまった。その代わり、『自分には霊感体質が備わっている』という自覚と、『米莉アルが怪しい』という思考は何故か残ったままだった。
※※※
数日後。
どうせならと思って夢で見た公園での心霊体験をベースにしたプロットを神林さんにチェックしてもらったのだが、これが思いのほかウケが良く、これと同じ設定の話をもう何本か作ってみてくれと言われたので僕は快諾した。
今の所昔の記憶は戻っていない。しかし、根拠は無いのだが再び記憶を取り戻せる自信があった。
きっと米莉アルに出会ったことで、止まっていた僕の物語は再び動き始めて……いや、違うな。平穏だった僕の日常は崩れ去り……これも違う。どうにも月並みな言い回ししか出てこない。
やっぱり才能が無いんだなと、僕は一人ため息をついた。
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