4
「美咲」
後ろから名前を呼ぶと、美咲は「うん?」と優しい声を出しながら首だけを少し捻ってこちらを見た。
セックスのあと、ベッドの中で美咲を後ろから抱きしめて、そのきれいな髪に顔を埋めるのが好きだ。美咲はいつもくすぐったいと言って笑うが、嫌がってはいないようだった。
したあとはいつも、その姿勢のままベッドの中で会話をする。内容は些細な日常の話が多いが、たまには真面目な話もする。そのあとでシャワーを浴びるか、疲れている時はそのまま寝て朝を迎える。
「俺さ、美咲に言わなきゃいけないことがあって」
真面目な声で切り出すと、美咲は即座に「えっ浮気?」と返してきた。
「違う」
「新婚なのに?」
「違うって。そんなわけない」
強めに否定すると、美咲は「じゃあどんな話でもいいよ」と言いながらくすくす笑った。おそらく本気で浮気だとは思っていなかったのだろう。俺が思い詰めたような声を出したから、和ませたいと考えたのかもしれない。
美咲は優しい人だと思う。その彼女の頭の向こうに、首が見えている。普段は床に落ちている首が、今はベッドの横のチェストの上に乗っている。いつもよりも距離が近い。
俺が何を言い出すか、あれはわかっているのだろう。
「俺さ」と声を上げる。どうしても音量は小さくなる。
首がことりとひとりでに倒れる。
「俺、美咲の髪が好きなんだ」
首がこちらを向く。その顔がはっきり見える。
「本当に好きなんだ、その髪が」
首と目が合う。
長い黒髪を纏った首は、俺の顔をしている。
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