第35話 魔物討伐3
「レナさん、こっちです!」
私に追いついたミラーが先陣まで誘導してくれた。近付くほどに大きな音と、騎士たちの声が響き渡るのがわかり、気持ちがはやる。
森を抜け、そびえ立つ岩場がある広場に出る。
大きなグリフォン一頭と、応戦する騎士たち。
アクセル殿下が離れた所で指示を出している。
ユーゴやマテオが戦闘の最前にいた。
「エリアス様は?!」
私は辺りを見渡す。
「レナ嬢?!」
私に気付いたアクセル殿下の元に私は駆け寄る。
「殿下! エリアス様は?!」
「……ミラーが連れて来たのか。でも助かったよ。あのバカ、引こうとしないんだから。後方部隊にレナ嬢がいるからって無茶しやがって」
「え……」
緊迫した空気の中でも、アクセル殿下は私に笑いかけてくれた。
「だから後方部隊に撤退するよう命令を出したんだけど……まあ、レナ嬢なら来ちゃうよね」
殿下は眉尻を下げながらそう言うと、グリフォンの近くを指さした。
「あいつ、あそこにいるよ」
殿下の指の先にはエリアス様がいた。
剣でグリフォンの尾を刺し留めている。その尾はエリアス様の魔法により氷漬けにされていた。
エリアス様がグリフォンをその場に縫い止め、選抜部隊が攻撃を仕掛けていた。
グリフォンは動きを封じられてもなお、口から火を吐き出し、騎士たちを牽制していた。そのせいで上手く近寄れずにいる。
エリアス様の表情は虚ろになり、剣に体重を預けるようにグリフォンに魔法を使い続けていた。
「呪い、だよね? レナ嬢、何とか出来る?」
アクセル殿下が私に耳打ちをする。
私はエリアス様の魔力の流れを視る。
氷の魔力がグリフォンへと流れ、力を放っているが、呪いが逆流して来ている。その呪いと、エリアス様の治りかけていた呪いが共鳴して、彼を苦しめていた。
(立っていられるのも不思議なくらいなのに……エリアス様……)
「殿下、先に私がグリフォンの魔法を
「――! そうか……わかった。ミラー、レナ嬢をエリアスの元まで送り届けろ!」
私の意図を汲んだ殿下が私の案に乗ってくれた。
「レナ嬢、エリアスのこと頼んだよ!」
「任せてください!」
殿下に私はガッツポーズをしてみせた。
「まったく、君たちときたら。焦れったいねえ……ミラー、行け!」
殿下はやれやれ、と笑うと、一気に団長の顔に戻り、ミラーに命令した。
ミラーは返事をすると、私を先導して走り出した。
選抜部隊がグリフォンの気を引いているうちに、一気にエリアス様の元へと走る。飛んで来る火の粉をミラーが打ち払いながら私をエリアス様の元へと届けてくれた。
「エリアス様!!」
「レ……ナ?」
意識を朦朧とさせながらもエリアス様が私に気付く。
「バカ……どうして来た……前線には来るなと……」
「バカはエリアス様ですよ!! エリアス様のバカ! こんな無茶して!」
とっくに限界であろうエリアス様のお説教に私は言い返した。
「君……は……」
エリアス様が何か言おうとした所で、ふらっと倒れそうになる。ミラーがすかさずエリアス様を受け止めてくれたのでホッとする。
それでも剣を離そうとしないエリアス様の精神力に私は驚かされる。
「ミラー、これ、エリアス様に飲ませといて!」
私はミラーにエリアス様用の薬を鞄から取り出し手渡した。そして凍っているグリフォンの尾に手を置く。
「まて、レナ……何を……」
こんな状況でも私を心配してくれるエリアス様に私は笑顔だけ返した。そして。
ギャギャギャギャ
グリフォンのけたたましい鳴き声と共に、私は一気に魔力を吸い出した。
魔物の魔力を吸い出すなんて初めてで。もちろん人様の魔力そのものを吸い取ることもしたことがない。
でも出来ることはわかっていた。
グリフォンの魔力が自身に一気に流れてくるのがわかる。けたたましい鳴き声が止み、そのくちばしから火が枯渇したその時、アクセル殿下から号令が出される。
「今だ!!」
選抜部隊の面々が一気に畳み掛ける。火が吐けず、エリアス様に縫い留められたグリフォンは、成すすべもなく、討ち取られた。
大きな爆音と共に、グリフォンが倒れる。その風圧を手で覆いながら、私はその場に倒れてしまった。
(あれ……グリフォンの魔力と一緒に呪いも吸っちゃったみたい)
やけに冷静な頭とは裏腹に、身体に激痛が走る。
「レナ!!」
顔色の戻ったエリアス様が私に駆け寄り、身体を起こしてくれた。
「良かった……薬、効いてますね」
「レナ、喋るな! 今、薬を……」
エリアス様は私がミラーに渡した薬を手に、私に飲ませようとした。でも身体が動かない。
「レナ、薬を飲むんだ!!」
必至に呼びかけてくれるエリアス様に応えたいのに動けない。
(グリフォンの呪いを直接吸っちゃったからなあ……)
「諦めるな、レナ!!」
諦めかけた私の弱い心をエリアス様が叱咤する。
「一緒に無事に帰るんだろ! ……俺は……レナが無事なら、この先君の涙を拭えなくなっても良いと思っていた。でも――それは嫌だ」
エリアス様が薬を口に含むと、私の唇をこじ開け、口移した。
(ああ、これが最後の想い出なら悪くないかも)
エリアス様に口付けをされ、ぼんやりと夢心地な私は、最後の力を振り絞った。
エリアス様の唇を伝い、エリアス様の奥にある呪いを、直接吸い取る。
ドクン、と呪いが我が身に移り、思わず顔をしかめた。
呪いを完全に取り除かれたエリアス様は自身の変化に気付くと、唇を離し、私を覗き込んだ。
「レナ?!」
「私が必ず治すって……約束しました」
「レナ、バカ!!」
エリアス様は私を強く抱き締めると、また口付けをした。
薬が流れ込んでくるのを感じながら、私は意識を手放した。
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