第34話 魔物討伐2
準備が整うと、一行は森の中へと足を進めた。
先頭を歩く選抜隊がグリフォンに遭遇し、戦闘になっていると後方にいる私たちの元へも情報が下りて来た。
今の所、怪我人が後方へ送られて来ることもなく、グリフォンが倒されたぞ、という歓声が前方から伝言のようにやって来ていた。
(凄いよ、皆!!)
騎士たちは皆、本当に強くなった。全員の底上げもそうだけど、ユーゴが力を開花させたのも大きい。
一人の大きな力は皆の力になる。
私はエリアス様と皆の無事をひたすら願いながら、後方部隊の騎士たちと森の中を進んで行った。
順調だと思われた魔物討伐の事態が一変したのはかなり奥まで進んだ時だった。
前方の方でけたたましい鳴き声が轟いたかと思うと、緊迫した空気が後方部隊にも流れる。選抜部隊が苦戦しているらしい、と情報が回って来たと同時に負傷者も運び込まれる。
私たちはその場に荷を下ろし、負傷者の手当に当たった。私が魔力の流れを視、薬で対応するか聖女に回すかを判断する。重症者はここで応急処置をした後、馬車停めまで送られる手筈になっている。
(皆なら大丈夫だよね……)
知った顔が次々に運び込まれる。前方がどうなっているのか知りたいけど、予想以上に負傷者が次々にやって来て、私はそれどころではなかった。
(何が起こっているの……)
一緒に着いて来た聖女にも力の限界がある。実際、肩で息をし、顔は青ざめている。
私は覚悟を決め、聖女たちに近付き、肩に触れた。
「レナさん? 何を――……?! これは……」
青ざめた彼女たちの顔に赤みがさしていく。
「くっ……う……」
久しぶりに行った聖魔法の浄化に、身体に痛みが走る。私はその場に膝をついてうずくまった。
「レナさん?! 大丈夫ですか?」
聖女の一人が心配そうに駆け寄ってくれた。
「だい、じょうぶです」
滴り落ちてくる汗を拭いながら、私は笑顔を作って見せる。
「これは……もしかして私たちの聖魔法をレナさんが浄化してくださったんですか?」
「……はい。私は聖魔法を使えませんので、このくらいのことしか……どうか怪我人をよろしくお願いいたします」
「もう、無茶をして!」
聖女は私をぎゅう、と抱きしめた。すると身体が少し軽くなった。思わず彼女を見る。
「少しだけ力を使ったの。後は騎士団のために使うわね。それがレナさんに報いることだから」
穏やかな笑顔でそう言ってくれた聖女は、女神様のようだった。今まで姉以外の聖女と関わることなんて無かったから驚いた。
(素敵な聖女さんたちもいっぱいいるんだわ。女神様、世の中捨てたもんじゃなかったです!)
「私、ソフィアよ」
「ソフィア様……」
その女神のような聖女は、金色の緩やかな美しい髪で、慈愛に満ちた優しい青い瞳をこちらに向けていた。その仕草からも、高位貴族のご令嬢だと感じさせ、様を付けて呼んだ。
「やだ、ソフィアって呼んで?」
「ソフィアさん……。私のことはレナで良いですよ?」
良い人だ、と思わず見惚れて言えば、ソフィアさんは屈託のない笑顔で言った。
「ふふ、騎士たちはレナさん、って呼んでいるのに何だか悪いわね。レナ」
(うわ……)
何だか不思議な空気をまといながらも美しくて優しいソフィアさん。
(私が男なら絶対に惚れるわ……)
聖女の仮面を被ったお姉様とは違う、本物の聖女。
こんな聖女がいたなんて。
「さ、レナ、怪我人はまだまだ来てるわ。一緒に騎士団を支えましょう!」
「はい!」
ソフィアさんの手を取り立ち上がった私は元気よく返事をした。
幸いにも軽症者が多く、皆前線に戻っては次の怪我人がやって来る、といった繰り返しだった。消耗戦になりそうな気配に、私たちが先に倒れるわけにはいかない。私は気合を入れ直した。
「後方部隊は撤退しろ!!」
再び治療にあたっていた時、前線から息を切らしてミラーがやって来た。ざわめく後方部隊。
「ミラー、何があったの?!」
「レナさん!」
急いでミラーに駆け寄ると、彼もあちこちに擦り傷を作っていた。私は急いで薬を塗る。
「レナさん、落ち着いて聞いてください……」
大人しく薬を塗られながらミラーが息を整える。
「副団長の様子が急におかしくなりました」
「え……?」
ミラーの言葉に目の前が暗くなる。
「この奥で出会したグリフォンに怪我を負わされたわけじゃないのに、急に苦しそうにして……」
呪いだ、と瞬時に思った。
「一瞬隊列は崩れましたが、団長が持ち直されました」
「それでエリアス様は……」
深刻な顔のミラーに縋るように聞く。
「その後、他の隊員を庇って怪我をしました。それなのに後方には下がらず、未だグリフォンと応戦しています」
「――――――!!」
「レナさん?!」
「レナ、ダメよそっちは!! 危ないわ!」
考えるより先に走り出していた。
ソフィアさんの止める声がしたけど、私は振り返ることなく無我夢中で走った。
(エリアス様、命を投げ出すような真似はしないって約束したのに!!)
『俺は皆の命を預かる副団長だからな。全員、無事に生きて帰す。レナも、俺もな』
数時間前、エリアス様と交わした言葉。
エリアス様の金色の瞳が優しく細められるのが好きだ。大きな手で私の頭を撫でてくれるのが好きだ。
噂のような、冷徹無慈悲なんかじゃない副団長様。
(私があなたを死なせたりはしない、絶対に!!)
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