第14話 副団長様にお仕えします
「おはようございます、
「ああ、ありがとう」
翌日、お仕着せに着替えた私は、エリアス様の執務室を訪ねた。
私はエリアス様と同じ階にある小部屋を自分の部屋として充てがってもらった。
小さいといっても仕切って私の薬室を作れるくらいは広い部屋だ。元々副団長に付く従者の部屋で、今は使われていないから丁度良かった、とアクセル殿下は笑っていた。
「どうした?」
薬を飲み終えたエリアス様が私の視線に気付いて首を傾げる。
「お、お、お身体!! 問題なさそうですね!」
つい、じっと見つめてしまっていたことに慌てて気付いた私はエリアス様の魔力の流れを急いで視る。
(うん! 呪いはまだ消えてないけど悪さはしないわね)
「レナの薬のおかげで、昨夜は久しぶりに眠れた気がする」
「……いつもは眠れないんですか?」
「……痛みで目が覚める」
目を細めて窓の外を見るエリアス様は、何だか辛そうで、胸が苦しくなった。
「私の薬で絶対に治しますから!」
そんなエリアス様を安心させたくて、私は思わずエリアス様の執務机に思いきり手を付いて叫んだ。
「はは、頼もしいな」
(笑った……!)
エリアス様の笑顔に今日も私の心臓は崩壊寸前。冷徹無慈悲の噂なんて、どこから来たんだろう?って思うくらい、エリアス様の笑顔を私は堪能している気がする。
「君たち、朝から微笑ましいねえ」
「アクセル殿下!」
執務机越しにエリアス様と視線を合わせていると、またもやノックと同時にアクセル殿下が入って来た。
エリアス様は溜息を吐くだけで、何も言わない。これは日常茶飯なんだな、と思いつつ、アクセル殿下に頭を下げる。
「ああ、そういう堅苦しいのは良いよ。レナ嬢のことなんだけどね、お父君に君を預かると申し出た所、シクス伯爵家を通して欲しいと言われてしまったよ」
「うちはシクス伯爵家の援助で成り立っていますので……」
殿下の言葉に私はげんなりとして答える。
「まあ、予想内だったけど、君のことをシクス伯爵家に通す道理は無いからね。婚約者のお姉さんの方ならまだしも、君は無関係だ」
きっぱりと言い切る殿下の言葉が私には嬉しい。
「君を囲いこんだつもりだろうが、私には通用しないよ?」
ふふふ、と悪役よろしく、殿下の笑顔が頼もしすぎる。
「とにかく、父親の許可だけは取ってきたから。お姉さんとシクス伯爵子息は聞きつけるだろうが、大丈夫だよ。ここには簡単には入れないからね」
「ソウデスネ」
昨日、嘘をついて入り込んだ私に嫌味のように言う殿下に、私は半目になりながら返した。
「だから、レナ嬢も騎士団から出ないように。出るときは必ずエリアスをお供にするんだよ?」
「え……」
忙しいエリアス様を?と思って彼の方を見ると、笑顔を向けてくれた。
「必要があれば言ってくれ。俺は団長様から仕事をセーブさせられてるからな」
「お前ね、ほっとくと無理するだろ?! ただでさえ呪いにやられちゃってんのに」
「俺は仕事をしているだけだ」
「あー、そうですか!」
わちゃわちゃと言い合う二人を眺めながら、私はふと、あれ?と思う。
「私には自分を労れ、って言ってたけど、エリアス様は自身に無頓着なんですね?」
ついポロッと口に出せば、二人は言い合いをやめて固まった後、アクセル様だけが爆笑した。
「そうなんだよ、レナ嬢! だから、こいつのこと、見張っててね?」
「おい……」
ひーひーと笑いながらアクセル殿下が私に言った。エリアス様は目を細くして殿下を睨んでいる。
「任せてください!!」
私は力いっぱい返事をした。
あんなに辛い痛みを押し隠してエリアス様は騎士団の仕事を何でもないフリをしてやってきたんだ!
「私がついているからには、絶対に無茶はさせませんから!」
「レナまで……」
アクセル殿下に高らかに宣言した私に、今度はエリアス様が私に苦笑を向ける。
「まあ、君たち、似た者同士だからね。波長が合うよね」
「?」
アクセル殿下の謎の言葉に首を傾げたけど、「エリアスをよろしくね〜」と言って殿下は執務室を去って行ってしまった。
「言いたいことだけ言って帰っちゃいましたね」
「あいつはいつもそうだ」
執務室の扉を見ながら私が言うと、エリアス様は大きく息を吐き出した。私の前で取り繕わなくなってくれたのが、嬉しい。
「あの、エリアス様、お薬は出し終わったので、何かお手伝いはありますか?」
「レナ、君はメイドじゃないんだからそんなことはしなくて良い」
「え?! メイドですよね??」
薬を出すだけの仕事だとは思っていなかったので、私はぎょっとしてエリアス様を見る。
「形だけだ。薬を出して、俺の呪いの状況を確認してくれたら後は好きにして良い」
「えええ……」
ちょっとそれは……と思った私はエリアス様に食い下がり、何とか仕事をもぎ取ることに成功した。
「じゃあ、備品倉庫の備品の確認をお願い出来るか?」
「任せてください!」
エリアス様はやれやれ、と言った顔で口元を緩めた。外に出るのはエリアス様を伴って、との言いつけだったけど、騎士団内なら問題ない。エリアス様もそう判断して、私は一人、執務室を出た。
備品倉庫は一階にある。私はエリアス様の執務室のフロアから下に降り、教えられた道順を進んで行く。
何度か騎士たちとすれ違ったけど、アクセル殿下の用意してくれた、騎士団の紋様入りお仕着せのおかげで、堂々と歩いていられた。
見慣れないメイドを皆振り返っては来たけど、話しかけられることは無かった。
騎士たちの訓練場は何ヶ所かあって、備品倉庫の近くには小さな訓練場がある。その訓練場を横切る。何人かの騎士が訓練もせず、座り込んで話している。
休憩中かな?と横目で見ながら、備品倉庫に付くと、鍵がかかっていた。仕方無く少し戻り、訓練場の騎士たちに話しかける。
「あの、備品倉庫の備品を確認しに来たのですが……」
「ああ?」
怪訝そうに私を見上げた騎士たちが一斉に私を見て、固まった。
(どうしたんだろう?)
「おい! ユーゴ! 備品倉庫の管理はお前の仕事だろ! 急いで鍵持って来い!」
固まっていたうちの騎士の一人が訓練場の奥に向かって叫ぶと、鍵を持った小柄な騎士が走って出て来た。
「はい、ただいま!!」
「あれ」
「あ、あなたは……」
その小さな騎士は、昨日エリアス様の執務室に案内をしてくれた男の子だった。
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