第11話 力の証明
「ふうん……魔力を吸い取る力、ねえ。そんな力があるって報告聞いたことないけど」
私は自身の力を殿下に洗いざらい吐いた。殿下は半信半疑で足を組み、頬杖を付きながら私の話を聞いていた。
母は私の力が迫害されること、悪用されることを恐れて、誰にも言わなかった。力を使った相手、姉は気味悪がって誰にも言わなかった。そしてメイソン様は、自身の利益のため、口外はしていない。
私の力のことは、幸か不幸か、外に漏れることはなかった。
「じゃあさ、薬なんてまどろっこしいこと言ってないで、エリアスの呪い、吸い取れるよね?」
「!!」
殿下の鋭い指摘に私は息を呑む。
(そりゃ、そうきますよね)
私はゆらりと立ち上がり、不敬と知りながらも殿下とエリアス様を見下ろす。
「……お望みでしたら、やってみせます」
命くらいかけないと、信じてもらえない。私にはその覚悟があった。
(でも、私はこの呪いに苦しむ人がまだいるなら薬を広めたい。死ぬわけにはいかない!)
「じゃあ、やってみてもらおうかな?」
アクセル殿下も立ち上がり、不敵な笑みで私の縄を解く。
「望むところです!」
私は殿下をキッと睨むと、エリアス様の腕を掴んだ。
「おい?!」
驚くエリアス様を無視し、私は魔力の流れを視る。
心臓近くを蝕むこの呪いは厄介だ。
私はエリアス様の胸に手を置き、一気に呪いを吸い出す。
「あっ……!!」
呪いはエリアス様の身体に染み付き、長いのだろう。私を拒むように、靄が手を弾こうとする。
私も負けじと吸い出す。じわじわと呪いの痛みが私に移りだすと、あまりの痛みに私は途中でその場に倒れ込んでしまった。
「おい! 大丈夫か?!」
倒れ込んだ私の肩を包むようにして覗き込むエリアス様に、私は声を途絶えさせながらも言った。
「くす……り」
私はさっきエリアス様に用意した薬がまだポットに残っているのを思い浮かべる。
「ちょっと待ってろ!」
エリアス様は私をソファーまで抱きかかえ寝かせると、急いで執務室を出て行った。
(ああ……エリアス様はこんな痛みを抱えながら毎日……)
私の意識が遠ざかりそうになったとき、エリアス様は先程のポットを持って走り込んできた。
「ほら、薬だ!」
(ポットごと……)
突っ込みを入れる元気は無い。しかしポットの注ぎ口が飲みやすくて丁度良い。
エリアス様に上半身を起こしてもらい、私は一心不乱に薬を飲んだ。
ごくごくと飲み干して少し後、症状が和らぐ。
私はソファーの上にボスンと身体を預け、大きく息を吐いた。
(死ぬ、かと思った……! 自分の薬の凄さに感謝だわ!!)
自画自賛しながらも、ふと思う。
エリアス様の呪いは全部吸い取った訳では無い。
(こんな少しでも私は死にそうだったのに……)
改めてエリアス様の苦しみを取り除きたい、と心から思った。
「大丈夫か? 君が命までかける必要などない」
「はは、命くらいかけないと、信じてもらえませんよね?」
心配そうに覗き込んだエリアス様に手を貸してもらい、私はソファーから身を起こす。
「……やりすぎだ。お前なら予測はついていただろう」
エリアス様がキッと睨んだ先のアクセル殿下が顔をぽりぽりとかきながら、苦笑する。そして、真剣な表情に変わる。
「すまなかった、レナ嬢!! まさか君が命まで張るとは思わなくて……」
「頭を上げてください、殿下!! 怪しいものを疑うのは当然です!」
殿下の突然の謝罪に私は思わず恐縮してしまう。
「でもさあ、君は何でエリアスにそこまで命かけるわけ? あ、惚れちゃった?」
「「な?!」」
殿下の戯言に私とエリアス様の声がハモる。
「ち、違います!! 私、昔、魔物討伐でエリアス様に命を救っていただいたんです! だから恩返しがしたくて……」
「そうだったのか……」
私の言葉にエリアス様は驚いた表情を見せた。
(まあ、昨日のことさえ覚えてないんだから、覚えてるわけないよね)
私にとっては大切な初恋の想い出。エリアス様にとっては何でもないこと。覚えていないのは仕方無い。でも何だか少し寂しい。
「ふうん。で、さ。呪いや怪我を吸い取るのは君の命が危険ってわけだ。でもその魔力を元に君はいまだに薬を作っているんだよね? どうやって――」
「あ、それは怪我や病気を治して濁った聖魔法を間接的に吸い取ることで――」
そこまで説明した所で、殿下の表情が変わった。
「へえ、あの胡散臭い聖女の功績の裏には君がいたというわけか――」
笑っているのに、目が笑っていない。そんな殿下の表情に私はゾクリとする。
私の説明で、殿下は姉の真相にまで至ってしまった。何て頭の良い人だろう。
「それでも君の身体への負担はあるんだろう?」
私の隣に腰掛け、エリアス様は私の頭を撫でてくれた。
(うっ、優しい……)
心配そうな表情にキュンとしつつも、私はその感情を誤魔化すように努めて明るく話す。
「でも、休めば治るんです! 直接吸い取るのは流石に危ないんですけど、今は私の薬もあります。自分で実験も出来ちゃいますしね!」
あはは、と笑ってみせれば、エリアス様は目を細めて私の頭をまた撫でた。私の心臓がキュンキュンと煩い。
「で? 君はあの姉からどうして暴力を受けているの? 君の噂くらいは私も知っているよ。 悪女の、妹さん?」
にっこりと微笑みつつも、この際全部話しちまえよ、おらあ、という副音声が聞こえてきそうな表情に、私はひっ、となる。
そしてまた、我が家の事情を洗いざらい吐いたのだった。
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