第4話 リナンファ王立騎士団
リナンファ王立騎士団は、アクセル・ラ・リナンファ第二王子殿下が騎士団長を務めていらっしゃる。副団長のエリアス・クレメント様は、公爵家の三男で、第二王子殿下とも従兄弟の間柄だ。
二人とも見目麗しく、王城でも噂の的である。
結婚相手としては最上級な相手だと、姉のカミラも何とかお近づきになれないかと鼻息荒くして機会を待ったけど、お二人が神殿を利用することは無かった。
騎士団の魔物退治の遠征に聖女たちも付いていくが、お二人は強く、聖女の世話になるような怪我はされない。
私たちも何度か遠征に付いて行ったが、そんな機会もなく、逆にこちらが怖い目にあった。それ以降、大聖女候補の地位を得た姉は遠征を断っている。
神殿側も大切な大聖女候補を無理やり危ない場所にやることはしたくない。ことごとく姉との利害関係が一致している神殿は、ほぼ姉の思い通りになっている。
『大聖女になればお近づきになれるかしら?』
最初はそう言っていた姉だったが、その頃にはさすがにメイソン様との結婚話が進んでいるだろう。それに加えてあまり働きたくない姉は、お二人を諦めて、違う、より良い相手を探すことにシフトした。
「なら、私もご挨拶しないとね?」
(何が、「なら」なんだ?!)
嬉しそうに手を合わせた姉に、神官たちも「そうですね!」と同意するだけ。
「お前はここにいろ」
神官たちに蔑んだ目を向けられ、私は聖堂内に残ることになった。
「レナ、ここで待っていてね?」
姉は嬉しそうに私に向かってそう言うと、いそいそと神官たちについて行ってしまった。
誰もいなくなった大聖堂に一人。シンとした空間が心地よい。
「女神様、この国の神様なら、平等に人を救ってよね……」
立派なステンドグラスをバックに佇む女神の像に、私は一人ぽつりと呟いてみる。
「まったくだな」
「?!?!」
誰もいないはずの聖堂から声がして、私は飛び上がる。
(はっ、恥ずかしい!! 独り言聞かれてた……!)
声がした方へ視線を向けると、女神像の前に並ぶチャーチベンチから人が身体を起こした。
(あ、あんな所に人が寝そべっていたなんて!)
驚きと恥ずかしさでわたわたしていたが、ふと冷静になってその男の人を見る。
この国の白色の騎士服がよく似合う、黒い髪に金色の瞳の見目麗しい男性。
「エリアス・クレメント副団長様……?」
その姿に目を奪われ、ぽつりと溢してしまう。
「俺を知っているのか。お前は聖女か?」
「いえ、私は聖女ではありません……」
名前を呼ばれ、少し怪訝な顔をしたエリアス様に私は慌てて答えた。
「ふっ、それもそうか。聖女が女神にあんなこと言わないな」
(わ、笑った!!)
怪訝そうな顔を緩めて笑うエリアス様に、私の心臓は跳ねる。
副団長のエリアス様は、そのお姿で人気はあるものの、冷徹無慈悲として知られている。彼の鬼神のような強さがそんな噂を呼んでいるのだけど、私は彼が優しい人だと
「あの……」
私が声をかけようとしたとき、エリアス様が何かに気付いて、驚いた顔をした。
「お前、その頬はどうした?」
「あっ……」
エリアス様に指摘され、思わず頬を押さえる。先程姉に叩かれた頬が腫れていたのだ。
「なるほど……」
チャーチベンチから立ち上がり、何かを納得したかのように近付いてくるエリアス様。
「あの……?」
あっという間に私の前に現れたエリアス様は二十センチ以上背が高く、見上げる形になってしまう。
「神殿から虐待を受けているのか?」
「え、あの……」
エリアス様がそっと自身の手を私の頬に添えると、冷たい冷気が伝わった。
(魔法、だわ!)
エリアス様の魔法が腫れた私の頬を冷やしていく。
「神官付きの侍女だろう。ここにはアクセル殿下もいらっしゃる。俺が報告しておこう」
「えと、あの……?」
何か誤解しているようだけど、大筋は間違っていないかもしれない。
んん?とおかしな状況に首を傾げていると、聖堂内が一気に騒がしくなる。
「レナ!!」
姉の私を呼ぶ声に、「まずい!」と身体がびくりと揺れる。
「待て、まだ冷やした方が良い」
エリアス様から離れようとした私の手を彼が掴む。
「レナ・チェルニー、副団長様に何をしているのですか?!」
姉と一緒に来た神官長の険しい言葉が飛ぶ。
(えええ……私が腕を掴まれているんですけど?)
これ以上、変な悪評が付くのは避けたい。
「あの、副団長様、私は大丈夫ですから」
「大丈夫じゃないだろう」
離れようとする私の腕を掴んだまま、エリアス様は私の治療を続けようとする。
(変わってないなあ……)
そんなエリアス様にキュンとしつつも、私は恐ろしくて姉の方を振り向けない。
「レナぁ? 何があったのぉ? 副団長様はお忙しいのだから、あなたが引き止めてはダメよお?」
優しい声色だが、これは後から癇癪必須だ。
私がダラダラと冷や汗をかいていると、エリアス様の表情が、ますます心配そうに変わる。
「おい、大丈夫か?」
(ああー、どうしよう!!)
「何か、面白いことになってるねえ?」
そんなとき、遅れてやって来た騎士団長のアクセル第二王子殿下の声が聖堂内に響いた。
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