第10話
「お前の耳には届いていないかもしれないが、薬の
「正式に届を出して、手順を踏んで廃棄した。事件を蒸し返したくないという理由で、全体への周知は行われなかった。もちろん院長・事務局長あたりは知っているがな」
二人は
「白状するよ。ホワイトボードの文字をスミレと読んだのは俺だ」
驚いて顔を上げた聡司から目を逸らすようにして、安田は続けた。
「あの日、鍵を開けるため桐谷くんが先に小会議室に行った。俺と薬局職員たちが入った時、彼女は
机に向いている筈の安田の眼は、どこか遠くを見ているようだった。探るように、空の杯を手に取る。
「俺は誰かの悪質ないたずらだと思った。薬局内だけで収めようとする気持ちがあったのかもしれない……いや、違うな」
杯を
「俺は、アカさんを守りたかった。……すまんな」
やはり、あの文字は『
「桐谷くんには申し訳ない事をした」
安田がポツリと言った。
※
努力を重ね、築き上げて来た信頼と評価を損なうことは、自身の存在価値をも失くすことに近い。その恐怖は罪悪感との天秤を揺らし、流産に伴う心身の
光を認め、助かったのだと思うことで、人の心は弱くなる。ひとときの
俺たちは彼女を守らなければならない。何としても。
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