第7話

 どうも、のどかです。タイトルやサムネを見てくれた方は分かると思うんですが、今回はいつもみたいにゆるい動画じゃなくて、特別な動画になっています。なんというか「重大発表」という言葉はね、僕、あんまり使いたくないと思っていたので「今までありがとうございます」というふうに、書かせていただいたんですけど。長く前置きしたくないので、単刀直入に言わせていただきたいと思います。

 僕、のどかは、本日を持ちまして動画クリエイターを辞めさせていただきます。

 はい。びっくりされた方がほとんどかと思うんですが、突然の発表になってしまい、本当にすみません。今まで応援してくださっていた視聴者の方々、コラボ動画を撮影してくださったクリエイターの方々、今まで本当にありがとうございました。というのも、実は視聴者の方だけじゃなくて、仲良くしてくださっていたクリエイターの方々にも極秘で決めたことだったので、今日のこの動画を見て初めて、みなさんは僕が動画投稿を辞めることを知るという形になっているんですけども。

 どうして辞めようと思ったのかについて、憶測だけで作られた情報が流れてしまう前に、ここでお話しておこうと思います。少し長くなるかもしれませんが、聞いていただけると嬉しいです。

 まず、僕は視聴者の皆さんに隠していることがありました。実は僕には兄が一人、います。地元の人たちは知っていたし、薄々勘付いている方もいたと思うんですけど、実際に自分の口から言うのは今回が初めてだと思います。というのも、僕がこのチャンネル、動画投稿を始めたきっかけというのは、家族に言われた「兄貴のほうが優秀で、お前はぼんやりしているからいないと思ったほうが気が楽だ」という一言でした。このチャンネルを見ている人は分かると思うんですけど、確かに僕はぼんやりしているタイプだから、そう言われても仕方ないんです。

 だけどこのたった一言で、今まで薄っすらと感じていた劣等感が強固なものに変わって、物凄く悔しかったんですよね。言った側からしたらポロっと溢した言葉だとしても、僕の脳裏にははっきりとこびり付いて離れなかった。そういうものですよね。大抵は傷付けた方が「傷付けてしまった……」と気に病んでいる可能性なんて低いんだと思います。僕も気付かないうちにたくさんの人を傷付けていると思うし、気付いていない誰かにたくさん傷付けられてきました。人はそうやって成長していくんだと思います。

 だから、今僕がこうして喋っているのも別に家族のことを批判したいわけじゃないし、他人に勝手に育てられ方を批判されたい訳でもないです。僕は家族のおかげで、父親、母親、兄貴のおかげでここまで自立できた節もあるので。劣等感はあったけど小さい頃の思い出とか、感謝もあるから。漏れ出た言葉を許せる許せないは関係なく、自分以外に家族のことをとやかく言わないでほしいということは皆さんに伝えておきたいです。すみません。

 それで、自分は中学生の頃くらいから優しい人が苦手になったんです。家族からのさっきの言葉もあって他人を疑うことが増えてきて、なんだかんだ自分もやっぱり親に似ている部分があるなと自覚する瞬間があったんですよ。例えば自分が友達に借りていた漫画に少し折り目をつけてしまったときに「これくらいよくない?」みたいな顔をしてそのまま何も言わずに返してしまったりとか、何かをしてもらっても感謝ができなかったり、喧嘩をしても自分から謝ることができないとか。振り返ってみたらそれって自分の親にされたこととほとんど同じだったんです。それで、やっぱり優しい人に育てられないと優しくなれないのかなとか、思ったりして。中学生の頃が自己嫌悪の一番酷い時期で、自分に優しくしてくれる人にはどこか必ず裏があるんじゃないかと思ってしまうようになったんですよね。だけど自分のことは守りたくて、自分より頭が悪かったり、足が遅かったり、そういう子と仲良くすることで「自分は特別駄目な奴じゃない」って思い込もうと頑張ってた。優しい人と一緒にいると、自分は人として駄目な人間だと思えてしまうのが嫌だったんです。

 そんなときに動画投稿を始めて、僕は一人の優しい人に出会いました。最初は優しくされると「この子も裏では全然違うこと考えているのかなー」とか思っちゃったりして、僕はかなり最悪な思考でその人との時間を過ごしていて。雨が降ってきたときに傘を傾けただけでありがとうと言ってくれて、三分遅刻しただけでもぺこぺこと謝ってくれるような人でした。

 その子と仲良くなってから、一度だけ自分の親が家に来たことがあったんですよ。うちの親はこの動画クリエイターの活動に対してあまりポジティブな発想を持っていなくて、むしろ辞めてほしいと何度も頼まれていたんですね。で、いつもは電話越しだったんですけどその時だけは何故か家にまで来て「動画投稿の活動を辞めて、ちゃんとした職業に就きなさい」って懇願されて。僕はまだ、その時はクリエイターとして生きる気満々だったので「ごめんなさい」と、「僕は兄貴みたいに成績も優秀じゃないし、運動も出来ないし、容量も悪いかもしれない。だけど、この活動を始めてから僕の動画を楽しみにしてくれている視聴者の人がいるんだ。初めて僕の存在を求めてくれている人がいるんだ」と伝えました。そうしたら、親は「悪いと思っていないのに謝るな」とだけ言い残して帰ったんですね。それっきり親とは一切連絡を取っていないんですけど、きっと僕があげる最後の動画になるこの動画だけは、きっと見てくれているような気がします。でも僕は家族として、いない方がマシだと言われた存在だから見てないかな、まぁ、いいです、見ていてほしいなという子どもとしての願望です。例え事実が異なっていても、親は理想の親であってほしいと願ってしまうものだから。ごめんなさい、ちょっと話が逸れました。

 そう、それで、その優しい人と仲良くなってからちゃんと感謝や謝罪が出来るようになってきたんですね。自分の非を認められるようになってきたというか。優しい人に育てられなくても、優しい人と一緒にいたら自分も優しくなれるような気がしたんです。だから、僕はその人とこれからもずっと一緒に生きたいと思い始めました。

 動画クリエイターという仕事は、人目につくお仕事だから、まぁ顔出ししていない人もいるけれど、僕は既に顔出ししちゃってるので取り返しがつかないし、つまりは、自分の知らない誰かが自分のことを知っているということになります。今は色んなSNSがあるから誰でも簡単に写真や動画を載せられるし、顔を晒すことに対してなんの抵抗もなくなりつつあるけど、やっぱりストーカーとかもいたりしますし、ね、うん、危ないなと思って、それで、僕は好きな人と結婚したら子どもが欲しいと思っていたから、最近よく自分の将来について考えることが増えました。緊張してうまく言葉がまとまってないね、ごめんなさい。僕はその優しい人を好きになったんです。

 恋愛や家族関係が理由で辞めるのかって言われたら、そういうことになります。これは僕の人生だから。恋愛も仕事も家族も、全部僕の人生の一部で、どれも大切なことだから。毎回動画を楽しみにしてくれる視聴者の皆さんを、突然置いてきぼりにしてしまうのは申し訳ないけれど、僕は自分の気持ちを大切にしたいです。だから許してください。

 好きな人が恋人になって、結婚したいと思えて、子どもが欲しいと思ったとき、僕は自分の親みたいにはなりたくないと思いました。これは中学生の頃からはっきりと決めていて、ちゃんと子どもと向き合って、子どもがやりたいことをやらせてあげたいし、完璧にはできなくても愛情をかけてあげたいと思っていました。だけど、これはきっと自分の親も同じだったのかもしれないと、最近になって気付きました。僕が子どもの幸せを願っているのと同じように、僕の親も僕の幸せを願っていたから、動画クリエイターという不安定な職業に就かないでほしいと願っていたんだと思います。そう、だと、思うんですけど、そうだと信じたいって感じなんですけど、そう思うようになってから自分が本当に親になれるのか不安になってきたんです。

 結婚もしてないのに不安になるのが早すぎるのは分かってるんですけど、僕はそれくらい彼女のことが好きで、彼女も僕のことを好きでいてくれているんです。でも、僕の幸せが恋人や自分の子どもの幸せとは全く別の問題で。僕の親が願う幸せと、僕の幸せが違うということから、それははっきりと分かっていて。どうすればいいのか分からなくて、一度自分や恋人、家族に向き合いたいと思ったのが、僕が動画投稿活動を辞めるきっかけです。

 誰が悪いとか、誰が正しいとか、そんなものはありません。ただ僕が大切にしたい人を守れるようにならなきゃいけない。僕にはまだその力がなくて、彼女を傷付ける人から逃げるという手段でしか守ることが出来ません。でも死にたくなる前に逃げたほうがいいし、僕は彼女に生きてほしい。死ぬのは誰かを呪うおまじないにはならないからね。これは僕の親がよく言っていた言葉の一つです。たとえ食事や睡眠もとれないほどボロボロになっても、何が嫌で何が幸せなのか分からなくなっても、誰と連絡を取らなくてもいいから生きていてね。許せないこともあるけれど、やっぱり僕にとって大切なことを教えてくれた人は両親だとも思います。

 突然の活動辞退に加えて、兄がいること、恋人がいることまで伝えて、視聴者の皆さんは混乱していると思います。むしろ冷静になるかもしれません。この動画があがった瞬間から、僕はただ一人の人間として生きることになります。勝手な行動ばかりして、言葉も支離滅裂だし、本当にすみません。僕の動画を見たいと言ってくれて、高評価をつけてくれてありがとうございました。そのたった一言のコメントで僕は自分の存在を認められたような気がして、本当に嬉しかった。

 これまで動画クリエイターののどかを応援してくださったみなさま、本当にありがとうございました。誰もが幸せになる世界はないけど、みんなが幸せでいられるように願っています。

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