五十七 暗闇

 少しのつもりが、遅くなってしまった。

 最終下校時間まで居残ってしまったため、外は真っ暗になっている。

 彩芽は急いで駅へ向かうことにした。

 歩いていると、彩芽は誰かがついてきていることに気づいた。

(気持ち悪いなぁ⋯⋯。もっと早く帰ればよかった⋯⋯)

 彩芽は「誰か」を振り切ろうと、歩くスピードを上げてみた。

 すると、「誰か」の歩くスピードも上がった。

 しばらく早歩きをしたが、「誰か」は一定の距離を空けてついてくる。

 そこで、今度はスピードを落としてみることにした。振り切れないのなら、追い抜いてもらおうとしたのだ。

 しかし、結果は同じだった。彩芽がスピードを落とすと、「誰か」もスピードを落とした。

 やはり「誰か」は、一定の距離を保っている。

 それは、歩くスピードを早くしても遅くしてもぴったりとついてくる。

(何で!? この人、何がしたいの!?)

 彩芽は泣き出したかった。

 「誰か」は業を煮やしたのか、急に歩くスピードを上げた。

 彩芽は逃げ出そうとスピードを出すが、「誰か」が歩くスピードの方が速かった。

 ついに追いつかれ、後ろから羽交はがめにされる。何か薬を嗅がされたのか、意識が遠のいていった。


 目が覚めると、真っ白い部屋の中だった。真っ白いベッド、真っ白い壁、真っ白いカーテン──保健室だった。

(私、何でここにいるの⋯⋯?)

「目、覚めた?」

 声のする方を見ると、そこには莉々愛りりあがいた。

「大丈夫? 彩芽ちゃん」

「莉々愛先輩!? 何で、ここに?」

「あたしが通りかかったら、道ばたに彩芽ちゃんが倒れてるんだもん。びっくりしたよ」

「そうだったんですか⋯⋯ありがとうございました」

「ううん、気にしないで」

「宇佐美さーん、そろそろ保健室閉めるわよー」

 養護教諭が声をかけた。

「そろそろ保健室閉めるって。自分で帰れる?」「はい、大丈夫です。ありがとうございます」

 彩芽はベッドから起き上がり、傍らにあったカバンをつかむ。

 そして、莉々愛にもう一度礼を言うと保健室を出ていった。


 次の日。彩芽はいつも通りに登校した。

「おはよう」

 教室の扉を開けた途端、クラスメイトたちが駆け寄ってきた。

「彩芽、大丈夫だったの!?」

「え? あ、うん。大丈夫だよ。莉々愛先輩が助けてくれたんだ。でも、皆何で知ってるの?」

「分かんない。誰かが言ってたのが、あたし達に伝わったって感じだから」

 どういうわけか、彩芽が何者かに襲われたことがクラス中に知れ渡っていた。

「彩芽!」

 蘭が血相を変えて駆け寄ってくる。

「蘭ちゃん」

「昨日は、ごめんなさい。途中まででも一緒に帰っていれば⋯⋯」

「蘭ちゃんが謝ることじゃないよ。私が遅くまで残ってただけだし、気にしないで」

 その時、近くの生徒の声が彩芽の耳に入った。

「でも、莉々愛ちゃんが介抱したって何か意外」「分かる、昨日学校来てたのかな?」

 それを聞き、彩芽は違和感を覚えた。

 莉々愛は、仕事が忙しいためあまり学校に来ない。来ていたら、文化祭前の時のように学校が騒がしいはずだ。

 今朝の学校は騒がしくなく、いつも通りだった。

 なぜ、彩芽を助けたのだろうか。そもそも、なぜあの時、あの場所を通りかかったのだろうか。それすら分からなかった。

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