五十五 二つの事件
数日後。
藤宮は朝のホームルームの最初に、紛失した答案が見つかった、と告げた。
同時に、雪組の生徒たちは胸をなで下ろした。
しかし、一人だけ不安そうな生徒がいた。
彩芽から少し離れたところに座る生徒──
藤宮は彼女の様子に気づいていないのか、ホームルームはいつも通りに終わった。
「玲奈、大丈夫?」
藤宮が出ていくと、近くにいるクラスメイトが声をかける。
「うん⋯⋯ごめん、昨日のこと思い出しちゃって」
「そっか⋯⋯私にできることあったら、何でも言ってね」
「ありがとう。ちょっと、いい?」
玲奈は手招きし、クラスメイトと共に教室の隅へ移動した。
「どうしたの?」
クラスメイトは小声でささやく。
「昨日のこと、話したくて。私、昨日の夜、塾があって。帰りに、男の人に後つけられたの」
玲奈も小声で話す。
「えっ!? ヤバいじゃん」
「何か、ずっと早口で⋯⋯名前っぽい言葉をぶつぶつ言ってた」
「大丈夫? 何ともなかった?」
「うん。近くのコンビニに入って、お母さんに電話して迎えに来てもらった」
「なら、いいけど⋯⋯怖いね」
そろそろ教室を移動しなければならないということに気づいた彩芽は、他の生徒に紛れて教室を出た。
玲奈の事件は噂となり、生徒たちの警戒はますます強まった。
噂は雪組以外にも知れ渡ったため、月組や花組の生徒たちも被害を警戒するようになった。
明日は我が身。一年生たちは不安でいっぱいだった。
週が明けた今日、また別の事件が発覚した。
被害に遭ったのは今回も雪組の生徒──
彼女がクラスメイトに語った内容によると、週末、友達と出かけたショッピングモールで連れ去られかけたという。
ショッピングモールを歩いていると、見知らぬ男が「ここにいたんだね、探したよ!」と言って有紗を連れ去ろうとした。
そして一緒にいた友人たちが助けを呼んだため、事なきを得たそうだ。
男は有紗の親だと言い張ったが、彼女は男が呼ぶ名前が違うことに気づいて否定したため、男が親ではないことが証明できたという。
そこまでなら、危ない目に遭いかけた話として教訓となる。
しかし、その話を聞いた彩芽は恐怖に震えていた。
男は有紗のことを「彩芽」と呼んでいたらしいからだ。
それを聞いた時、彩芽は全身が粟立った。
なぜ、見知らぬ男が自分のことを知っているのか。なぜ、自分が狙われているのか。全く分からなかった。
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